12.閑話 合法的に触らせてください
ある日のアレクシスの寝室でのこと。
「ぁ……きもち、ぃ」
ハルが、小さな唇からふっと息を吐いた。
私は、うつ伏せたハルの背骨に沿って撫で上げる。
ハルの薄い体が反り、潤んだ目で私を見上げる。
「……そこ、やぁっ……お…ねがぃ、だからぁ」
細い腰が震える。
白い滑らかな肌が服の隙間から覗き、小さな尻が揺れる。
ハルの背を滑らせていた私の手が止る。
私は何もやましい事はしていない。
これはマッサージである。すなわち、合法的接触だ。
ハルの肩をほぐし、背中を軽く押し、凝っているところを丁寧に揉みほぐす。
施術者は、この私、アレクシスだ。
ハルを我が家に迎え入れた後の休日。
ハルが肩が凝ったと言って肩を叩いていた。
私の出番だ。ハルを労ってやろう。
そう、安易に思い、私からハルに提案した。
正直に言おう。
私はハルを侮っていた。
「……ん、ぁっ」
ハルが背を反らせ、気持ちよさそうに目を細める。
うっすら開いた唇の間からピンクの舌が見える。
なんというか。
色っぽい。ものすごく色っぽい。
直撃だ。
本人にそのつもりがまったくないのが、なおさら困る。
私は黙々と手を動かす。
平静を装う。
頭の中で、理性という名の真顔の私が「平常心」と書かれた旗を振っている。
だが、それも長くはもたないだろう。
いまだかつて、ここまで理性を試されたことがあっただろうか。
本当は最初からわかっていた。負け戦だと!
だが、どうしてもハルに触れたかった。
堂々と合法的に触れる機会など滅多にないではないか。
欲に目がくらんだ結果がこれだ。
昼寝のときでさえ、私の理性稼働率は100%だった。
しかし、今は120%だ。
限界を超えている。
重要なのは、限界だということだ。
今すぐにハルの首筋に顔を埋めたい。
服の上からでは無く直接ハルの肌に触れたい。
そして、私の……
「……ふぁ……」
ハルが小さくあくびをした。
そして、そのまま目を閉じる。
数秒後。
すう……。
寝た。完全に寝た。すこやかだ。
私はそっとハルから手を離した。
そして、這うようにしてベッドから降りた。
静かに床に降り立つ。
ふう。ここで無理をしてはいけない。
とりあえず、トイレだ。
トイレに行こう。
これは敗北ではない。戦略的撤退だ。
そしてハルを起こさないよう、前屈みでそっと部屋をあとにした。




