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二枚目:異世界

案内人のあとに続いて再び歩き出した私たちは、ついに重厚な大扉の前へと行き着いた。

「王がお待ちです」案内人が静かに扉を押し開ける。玉座がそびえ立つ張り詰めた空間を想像し、私は思わず光花(みつか)の手を握りしめて身構えた。けれど、目に飛び込んできたのは意外すぎる光景で、そこは確かに広い部屋だったが、仰々しい玉座など無く、部屋の中央には湯気を立てる大きなティーポットと、色とりどりのお菓子が並んだ円卓が置かれていたのだ。


「ああ、よく来てくれましたね! 」円卓の席から勢いよく立ち上がったのは、どこか人懐っこい笑顔を浮かべた小学生くらいの女の子――この国の王様だった。


勝手に立派な髭を蓄えたおじいちゃんをイメージしていたが、予想に反し彼女はどうみても小学生…それも低学年ほどの幼い少女だった。

しかし、この部屋の光を鋭く撥ね返している彼女の額を飾る冷たい白金の王冠、そして彼女の左右に影のように従う二人の大人たちの恭順の姿勢が、彼女こそこの国の代表であることを物語っている。


彼女は自身の豪華な上着を少し恥ずかしそうに叩きながら、温和な目を細めて私たちに一礼した。

「私はこのレグランディスを治めている、ミレーニア・エカテリーナと申します。どうかミゼリアとお呼びください。」

王様——ミゼリア様は私たちが唖然としているのも気にせず、自ら椅子を引いて手招きする。

「まずはこちらの席にどうぞ。ここでは無礼講ですので堅苦しい挨拶や礼儀なんて、気にしないでくださいね。」





「案内から聞きました、異境の方々はひどく怯えていたと。本当に、本当にごめんなさい」


深々と頭を下げるミゼリア様と従者の姿に、私と光花(みつか)は完全に毒気を抜かれて顔を見合わせた。

ここまで歓迎され、謝罪までされては、黙っているわけにもいかない。私は息を整え、おずおずと口を開いた。


「…私は春山(はるやま) (かおる)といいます。」

「わ、私は仁奈川(にながわ) 光花(みつか)です…!あの、私たちは、どうしてここに……?」


「カオルさんにミツカさん、素敵なお名前です」ミゼリア様は私たちの名前を愛おしそうに繰り返すと、自分の席に戻り、温かい紅茶を私たちのカップに注ぎながら、すこし申し訳なさそうに眉を下げた。


「まずはその疑問からですね。もうお気づきかと思いますが、この世界はお二人のいた地球ではございません」

ミゼリア様は一度言葉を切り、窓の外に広がる壮大な景色を、どこか切なげに見つめた。


「ここは、悠久の巨石と古代の魔法が眠る硬質な世界『クラグ・モア』——そして、今私たちがいるここレグランディスは、世界の心臓とも呼ばれる中央領地『アバンダール』に位置しています。


かつて、この地は地獄のようでした。中央領地『アバンダール』の地底深くには、世界の始まりから存在する巨石≪コル≫が眠っており、我々はその≪コル≫から噴き出す、精神を狂わせる『瘴気』に果てしない年月悩まされ続けてきたのです。瘴気に思考を蝕まれた人々は、我を忘れ、敵味方の区別なく牙を剥き、クラグ・モア全土で血を洗う争いごとが絶えませんでした。」


語られる凄惨な歴史に、私と光花(みつか)は息を呑んだ。ミゼリア様の声は、低く、歴史の重みを孕んで響く。


「絶望のなか、今から千年前。その瘴気を綺麗に消し去り、蝕まれた人々の心を救う奇跡の力を持った『浄化者』が現れました。……その救世主こそが、貴方たちと同じ『地球』という異境の人間だったのです。


救世主様の尽力により、多くの命が救われました。しかし、クラグ・モアの地に幾星霜にわたって堆積した瘴気はあまりにも膨大で、いくら浄化しても、根本的な解決には至りませんでした。

そこで救世主様は、ご自身の故郷である『地球』または『地球の人間』そのものに、この世界の瘴気を無効化する特殊な霊素があると考え、一つの恐るべき、そして慈悲深い魔法を編み出したのです。

それが、クラグ・モアと地球を繋ぐ次元の道――『召喚の儀』。地球からこちらへ人を呼び寄せる際、時空に刻まれる魂の軌跡。それ自体が、見えない『パイプ』となってクラグ・モアの瘴気を地球へと逆流させ、吸い上げる仕組みを作ったのです。

地球の方々を呼び寄せることにより、この世界の瘴気濃度は劇的に薄まり、今こうして安寧が保たれるようになりました。…私たちの平和は、貴方たちの世界の協力の上に成り立っています。


……突然、貴方たちの平穏な日常を奪い、こんな見知らぬ世界へ強制的に引っ張り出すような真似をしてしまって、ごめんなさい。地球という世界に、そして貴方たち地球の民には、この命を賭しても感謝しきれないのです」


ミゼリア様はそう言うと、一杯の紅茶を私たちの前に差し出し、痛切な自責の念がこもった瞳で、まっすぐに私たちを見つめた。






現在プロローグを書き終えております。プロローグを投稿しきるまでは毎日投稿ですが、以降は未定です。

気長にお付き合いいただけると幸いです。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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