閑話二 鋼鉄の男
鉄の男が口ひげを撫でた。
彼はどうやら縮れた部分を気にしてるらしく、そこを頻りに触っている。
「同志ヴァレンティノフ」
紫煙の先からの呼びかけに、男は視線を向ける。
丸眼鏡をかけた男は、ネクタイを気にしている様子である。
「さて、同志」
彼に向き直ると、手に持った煙草を灰皿に押し付ける。
これはジェール共和国からの輸入品で、市場には流通していない。
「君に前任者以上の期待をしてるつもりだ。しかしだね、同志ベズノフ。君はならず者の一人もとらえることが出来ていない」
ヴァレンティノフは腕を組んでいる。
悩まし気な彼は溜息を吐いた。
「あれは海外にいるために中々難しいのですよ、同志。逮捕状があっても彼の国とは国交がないために」
「だったら殺せばいい。あれは党の名誉を傷つける敵だ。既に有罪だ。逮捕状三千二百号は君も知っている筈だ。君の前任者が残した成果だ。これによると彼は連邦に対する罪、党に対する罪、冒険主義の罪……。いずれにしろ死刑なのだ」
「しかしですね……」
ヴァレンティノフは続きを手で制した。
口ひげを再び撫で始めた彼は、既に話を聞くつもりなどはないようだ。
「内務局の長官という立場を努々忘れないことだ。前任者がどうなったのかを、実行した君自身がよく理解しているだろう。私は君の忠実な仕事を期待している」
ベズノフは頭を抱えた。
勿論ヴァレンティノフの前では薄ら寒い笑いを浮かべている。
焦りでもしたら彼自身が、ならず者に堕ちることを一番理解しているからである。
彼は外にいる敵を掃除する方法とともに、罪を数えていた。
党紀からは容易に排除されることを理解する。
「勿論、このベズノフめにご期待ください。今この瞬間に、この一連の事件と党の名誉を回復する手段を思いついたのです」
ヴァレンティノフが目を向けた。
紫煙の先には一対の眼が浮かんでいる。
「彼の国は所詮田舎者、野蛮人の国です。それもならず者が徒党を組んでいるそうじゃありませんか。アイツはそれなりに金を持ってます。襲われたところで何ら不思議ではありません」
ベズノフが結んだ言葉は、考え付いたままだった。
鋼鉄の男は笑みを浮かべた。微笑みと言うべきものだ。
「なるほど、それは良い。しかしあれは冒険主義者とはいえ赤軍の開祖だ」
「問題ありません。あれはまだ世界永続革命を目指して、その事業を続けてます。そこに間者を紛れ込ませるんです」
「まあ良い。この国の地を再び踏ませはしない。必ず暗殺を成功させろ」
「勿論です。必ずや成し遂げてみせます」
ベズノフはこれにて延命が成功したことを確信した。
彼自身はこの計画が成功するかの確信はない。
しかし、明日消されるのと一ヶ月以上のあとに消されるのだと、できる準備も大きく異なる。
ただこれははなから諦めているわけでない。
あの男は武闘派だ。赤軍の総指導者だっただけはある。ただの間者じゃ失敗する。計画を練らなければいけない……。
ヴァレンティノフは相対するベズノフから視線を外して、新しい煙草を点けた。
……優秀な人材を探す必要があるだろう。
本編再開はまだ先です。
思ったよりも最近は忙しくて執筆時間が取れません。
なので、お茶濁し兼投稿の意思があることの表明です。




