閑話五 幽霊
二十三話と二十四話の間の話です。
視点はアンナじゃないです。
「いやー、中々うまくいかないもんですねー」
気の抜けた声に苛立ちを覚え、そのヘルメットを叩きつけた。
コンと鈍い音が鳴る。
「それでどうするんですかね。大佐」
「今、考えている。邪魔をするんじゃない」
「それは今朝も聞きましたぜ」
やはりこの男は癪に障る男だ。
もとはと言えば、この作戦も癪に障る。
大佐はイラついたように貧乏ゆすりを繰り返す。
バトル共和国への義勇軍団はたった二個旅団である。
その内一つは防衛線の末に壊滅し、今は彼の旗下に移った。
「我々は怨霊らしいですし、やっぱり怨霊らしく戦いましょうぜ」
これは我々義勇旅団につけられたあだ名というべきものだった。
突如出現し、破壊的打撃を行う。
まさに怨霊部隊である。
「縁起の悪い名前だ。全く」
大佐は熱心な無神論者である。
旧ジェール帝国の王権神授説ですら疑っていた。
彼が信じていたのは端正で、正確な軍部独裁こそを信仰していた。
その彼は亡霊を嫌っていた。
これはジェール帝国の亡霊であるし、そして今の政界に座るピエロの小男である。
彼はまさに帝国の亡霊、悪霊である。
「我々はこの森を突破し、前線への復帰を目指す」
「正気ですかい? これは無理があるでしょう。森の兄弟の案内なしに行ったところで、さらに状況を悪くするだけでしょうよ」
「それじゃあ他に何がある」
「いつも通りアカどもの物資を頂いて、味方がくるのを待てばいいでしょうよ」
「それじゃダメなのだ。じきに我々は完全に孤立する」
アカの亡霊はついには前線を食い破ろうとしている。
まさに飽和的攻撃によって。
反撃をしようにも惰弱なバトル国軍では勝ちようがない。
大佐は行き詰っていた。
進むも引くも、留まるのも全てが地獄への片道券である。
加え、彼らへのアカの圧力も強まっている。
襲撃に即応する部隊が幾つか出来ていた。
現状はいまだその部隊を挫く能力は有している。
しかし、もはや戦車に継続的戦闘能力はなかった。
捨ておくことも考えたが、足を捨てることは出来ない。
「……我々はあと何回戦える?」
「規模によるもんですが、砲弾を集めれば二回は戦えることでしょうよ」
「……そうか。一つ作戦を思いついた」
大佐は広げた地図に線を描き足した。
現在地から南下し、そのままジェールへと帰国する進路である。
「あっはは、これは地獄ですな」
「我々は怨霊なのであろう? であるならば、ここに地獄でも作ってやろう」
「補給はどうするんで?」
「ここに通る補給部隊を強襲し、最低限のガソリンと食料を奪う。これが一回目。二回目の戦闘は国境部の突破だ」
「しかし、ここはどうすんで? こんな平原は抜けられんでしょう」
「……我々はこの街を強行突破する」
とんとんと街を叩く。
我々の味方、おぞましい狐野郎によるとここで民衆蜂起が起きるらしい。
それに乗じてまっすぐと走らせるだけだ。戦闘行為はしない。無理やりにでも抜けてしまおう。
「始動はいつですかね?」
「ここで野郎を回収したらすぐに突っ込む」
大佐。コンスタンティン・ホト大佐は悪運の強い男である。
そして生きぎたない男であった。




