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内務局員アンナはお掃除をがんばります!  作者: 朝日 橋立
三章め 西方方面軍ですよ!
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二十五話め 内務局です!

本日二度目の更新です。

 零時を少し回ったころに、ワインを開けた。

 クンクンと香りをかぐと、やっぱり慣れない臭いだ。


 特にワインを飲む道具を持っていないので適当なグラスに注ぐ。

 赤黒いそれに口をつける。

 渋くてあんまり好きになれないアルコールだ。


 いずれ分隊員が全員集まる時があるはずだ。

 その日に再び開けることにしよう。


 さて、作業を再開しよう。

 これはつい先日の血まみれの大通りの写真である。

 今朝はこれについての取材という名の証言取りをした。

 今、これについての記事を書いている。


 内務局から無責任にも任せられたレジスタンスの掃討、これをこの街だけではなく大きく広げてやろうと考えたのだ。

 これを地下出版なんかに流すだけの簡単な作業で終わるしね。


 しかし、しかしである。

 壊すことはあれども作ることはないゆえだろう。

 中々うまく書くことが出来ていないのが現実だった。


「はあ、終わらないなー」


 思ったよりも間延びした声が出た。

 しかし、どうにもこれを終えるまでは寝る気が起きない。


 ……もうすぐ戦争が終わる。

 臨時首都でさえ維持できないバトル共和国は、厭戦気分を恨みで賄ってるに過ぎない。


 いずれ終わってしまうのだ。

 それまでにある程度仕事の成果を上げなければいけない。

 自己保身だ。保身である。私は優秀な内務局員でないといけない。

 スパイを見つけることはおろかレジスタンスの掃討もできない。

 これでは私は無価値になってしまう。


 ……らしくないか。

 落ち着こう。


 ……いや、大丈夫だよ。

 そんなに慰めなくても良い。

 落ち着いたから。


 記憶の彼はおろおろとしている。

 彼とはもう十六年もの関係になるだろうか。


 もっとも長くかかわった何者かだ。

 いまだに彼のことはよく知らないが。


 お茶を飲んで暫く続きを書く。

 九割ほど完成したところでヂリリと鳴った電話を取った。


「はい、こちら第──」


「ヴロンスキー内務局少尉、貴官に頼んだスパイの調査はこちらで解決した。次の任務は追って連絡する」


「……一つ伺っても」


「なんだ」


「そのスパイというのは誰だったのですか?」


「ケーレル・ペトローヴィチ・イヴォルギン少尉。汚らしいジェールのスパイだ」


 ブツリと電話が切られた。

 雪が窓を叩く音が聞こえる。


「ハハハ」


 このように笑ったのは私である。

 騙された。まんまと騙されていたのだ。


 ……何が原因だったろうか。

 ひとえに信用しすぎたのかもしれない。

 全く知らない他人というものを。


 しかし、私は彼の嘘を見抜けなかったのも大きいか。


「はあ」


 溜息を吐いて荷物をまとめる。

 じきに内務局員が来るだろう。

 そうしたら事情聴取だ。きっと根掘り葉掘り、あることないことを聞かれる。


 うえー、拷問はされたくないよ。




 *




「私は如何なる協力も、そして如何なる共同もなかったと断言します」


 開口一番に言ったのはこれだったが、しかし今いるのは暗い部屋である。

 監禁されたと言えればいいが、単に逃げられないようにされただけだ。


 自白剤なんかを打たれる前に終わればいいが……。

 望まれている発言が分からない。


 ケーレルさんのことを聞いたかと思えば、私生活のことを聞かれる。

 内務局への忠誠心だったり、あるいはカレーニンさんへの忠誠心。


 ……なるほど理解した。

 どうやら私は駒にされたところがあるらしい。


 私の無能が招いた事態ではあるが、しかしこれほどまでに迷惑をかけるとは……。

 まあだからこそだ。カレーニンさんが不利になることは何も言えない。


 そもそも私は持っていないのだ。カレーニンさんを失墜させるための道具を。

 なのに彼らはそれを探している。

 私もやったことのあるいつも通りの仕草だ。


 ……たくさん謝れば許してもらえるだろうか。

 カレーニンさんまで私を見捨てることはない、はずだ。




 *




 欠伸をして紅茶に口をつける。

 戦争が終わったことを機に、サンクト=ピーテル軍管区隷下からは任を解かれ、東方基地に飛ばされそうになった。

 結果的には出世ルートから落ちたのである。


 命があるのが儲けものだろうか?

 しかし、仕事を果たせなかったというのは悔いが残る。


 さて、軍隊への潜伏には明確に失敗した。

 そのためだろう。内務局からの指示で退役をし、あっちへと逆戻りすることになった。


 今はバトル総督領方面、新しい領土の治安維持の仕事をしている。

 けれども、これは逮捕寸前に作っていた記事によって殆ど解決したものだ。

 残るのは旧政府の狂信者を逮捕するだけ。

 全くつまらない仕事である。


 ヂリリと鳴る電話を手に取る。


「はい、こちらヴロンスキー少尉です」


「私だ」


 カレーニンさんの声である。

 拘束から解放してくれたのは彼である。

 しかし、いまだに顔を合わす機会もなかった。


「アンナ、新しい仕事だ。こっちに帰ってきてもらう」


「こっちというとヤウザですか?」


「その通りだ。膿を出そうと思ってな。我々の安全の為に」


 翌日にはヤウザの方への列車に乗ることになった。

 結局のところ政争の具であるが、全くこちらの方がマシだった。

 考えることが少し疲れたのもあるが……。

第三章終わりです。

第四章は内務局編二度目です。

しばらくお待ちを。


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