第2548話、わたくし、何とついに『魔物と魔石の関係』を完璧に解明できましたの☆(その2)
……そもそも私とは違って、彼女のほうは、絶対に必要だったわけでも無く、成り行きで親元を離れて王都に来たと言うのに、どんなに心細かったであろう。
それなのに、唯一の頼みの綱である私が、次第に話が合う仲間たちとばかり、研究に没頭して、彼女のことをおざなりにしてしまうなんて。
もちろん彼女には、何不自由なく暮らせるように、ちゃんと配慮していた。
私の王都の屋敷に同居してもらったけど、けして束縛すること無く、自由にさせて、欲しいものは何でも買い与えてやった。
驚くことに、その当時の私は、それで十分だと思っていたのだ。
──どんなに彼女が、寂しかったかも、思い至らずに。
むしろ、なまじ自由にさせて、金銭的余裕を与えたのが、いけなかった。
あくまでも私が、『特別』なだけで、
普通このような王侯貴族の社会の中では、平民の娘なんて、人間扱いされないと言うのに。
……当然のことながら、学生たちの中には、まさに当の『特別扱いされている私』のことに、反感を募らせている者も、少なくは無かった。
平民の私が、自分たち貴族よりも、好待遇であることが、我慢ならなかったのであろう。
だからと言って、国王すら一目置いている、『将来の召喚術士様』に手を出すことなぞ、できなかった。
──だからこそ、彼らにとっては、ティファこそが、『格好の獲物』であったのだ。
……私の巻き添えを食って、いきなり王侯貴族専用の学園なんかに放り込まれて、さぞかし居心地が悪かっただろう。
身分的にも育ち的にもまったくの場違いであり、学内において、当然孤立するものと思われた。
──だがそんな時に、文字通りの『殿上人』である貴族の子女たちから、優しく声をかけられたら、どうであろうか?
同じ年頃でありながら、気品があり身だしなみも極上の男子生徒や女子生徒が、身分を笠に着たりせず、気さくに接してきて、自分たちのグループに快く受け入れてくれたとしたら、のぼせ上がるなと言うほうが無理な話だろう。
……特に、ティファは私と違って、『女の子』なのである。
たとえ平民の田舎者といえど、女の子であれば、『王子様』にあこがれるものなのだ。
もちろん、大抵の者にとってはそんなものは、『おとぎ話』か『夢物語』でしか無いはずであった。
しかし、私が召喚術士だったために、幼馴染みの彼女自身も『棚からぼた餅』的に、王都と言う国一番の大都会に招かれ、王侯貴族の子女が集う学園に通えるようになり、しかもそこで、本物の貴族の御子息や御令嬢から親しくされるなんて、まさしく彼女自身が、『おとぎ話』の──異世界である『ゲンダイニッポン』で言えば、『シンデレラストーリー』の、『ヒロイン』となってしまったのだ。
……王侯貴族の子女たちの、『本心』を知りもしないで。
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彼女は、時を置かずに、ある貴族の子息と、『懇ろ』な関係となった。
「──私と将来を誓い合った仲だと言うのに、何と言う不誠実な!」
……などと言うつもりは、毛頭無かった。
何せ、魔術の研究に没頭するあまり、先に彼女のことをほったらかしにしてしまったのは、私のほうなのである。
しかも、貴族の子息ならではの甘いマスクと気品に満ちた、『レディファースト』の精神で篭絡されたんじゃ、なびかない平民女性なんていないであろう。
──だがしかし、相手の男はティファのことなんて、正式に妻にするつもりはもちろん、愛人や恋人にするつもりなぞ、毛頭無かった。
すべては、平民のくせに貴族である自分たちよりもチヤホヤされている、私に対する嫌がらせのためであったのだ。
御禁制の『薬物』まで使って、ティファを完全に自分たちに『依存』させてから、頃合いよしと、昼間っからプロの娼婦まで連れ込んでいかがわしい真似をしているところに、言葉巧みに私を呼び出して、自分たちとティファとの『痴態』を見せつける、貴族の糞生徒ども。
正気に戻ったティファは、貴族たちに食ってかかるものの、態度を一変した男たちは、まるで用済みとばかりに、彼女を床にたたきつけて、私のほうを勝ち誇ったかのように、満面の笑みで見下してきた。
……その後のことは、何も覚えていない。
何せ一国の首都が、一夜にして滅んでしまったのだから。
後から聞いた話では、ドラゴンから、上級悪魔に、旧ドイツ軍武装親衛隊機甲師団に、核ミサイルの雨あられに、巨大宇宙船の一団に、超弩級の天変地異等々と、ありとあらゆる世界のあらゆる時代から、最上級の破壊の具現が『召喚』されて、徹底的に王都を破壊し尽くしたと言う。
長年王国と敵対関係にあった、隣国の帝国は、この機を逃さずに、王国全土に侵攻して、瞬く間に併呑してしまったと言う。
帝国は、今回の『功績』により、私を『宰相』レベルで召し抱えたたいと申し出てきたものの、丁重にお断りするとともに、帝国領内の深い森の中に、小さな住まいを作らせてもらうと、以降すべてにおいて『没交渉』を守ってくれるよう約定を交わした。
そこで、すっかり魂が抜けたようになってしまったティファと、二人で暮らしていこうとしたのだが、
程なく彼女は、自殺してしまった。
ただ一言、「ごめんなさい」と言う、書き置きを残して。
──謝るのは、私のほうだッ!
幼馴染みの女の子と別れたく無かったから、強引に王都なんかに連れてきたくせに、
自分は魔術の研究に没頭して、彼女のことを完全にほったらかしにして。
どんなに、寂しかったことか。
どんなに、心許なかったことか。
どんなに、孤独だったことか。
そんな状態にあって、ずる賢い貴族連中からつけ込まれたんじゃ、堪ったものじゃないだろう。
ティファはあくまでも、『被害者』なんだ。
何も悪くは無かったんだ。
──悪いのは、すべて私だッ!
……なのに、彼女は、私なんかに負い目を感じて、自ら身罷ってしまうなんて。
謝りたかった。
孤独なんかに、したくは無かった。
この手で、幸せにしたかった。
……でももう、すべてが手遅れなのだ。
──いや、果たして、そうだろうか?
私は、『召喚術士』なのである。
しかも、厳密に言えば、『召喚』では無く、『万物創造』の力を有しているのだ。
……それなら、『死者を蘇らせる』ことだって、できるのでは無いのか?
何せ、召喚術を含むすべての異能は、『集合的無意識とのアクセス』によって実現しているのだ。
ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の『情報』が集まっている、『集合的無意識』には、何と死者に関するすべての情報すらも存在しているので、『万物創造』が可能な召喚術士なら、死者を『召喚』ならぬ『召還』することすら可能であった。
具体的な手順は、普通の『召喚術』とほぼ変わらない。
・まず自分の体内からオドの一部を放出し、それを『中核』にして、必要な分だけ『外なる魔法要素』である『マナ』をまとわりつかせる。
・『中核』により集合的無意識とアクセスして、そこからティファの『形態情報』と『人格情報』を、マナへとインストールして変化させる。
これで理論上、生前のティファの『召還』の、出来上がりだ。
……そのはず、であった。
しかし、生前のティファを完全に甦らせることなど、絶対に不可能だったのだ。
肉体のほうは、問題無かった。
何なら、甦らせる年齢を変えることはもちろん、一部をアイデンティティを損なわない範囲で、変化を付けることすらもできた。
だが問題は、『人格情報』であった。
当然のことながら、腐れ貴族どもに誑かされてからの記憶は、除外しなければならない。
諸悪の根源の記憶がそのままだと、罪悪感のあまりまた自殺をしかねないので、元の木阿弥だ。
……だったら、その辺の記憶だけ抜いて、その他の人格情報だけインストールするか?
──だが、それは本当に、『本物の彼女』と言えるのか?
召喚術士にとって都合のいい記憶しかない、召喚物。
それはもう、一人の独立した人間なんかでは無く、
召喚術士に忠実な、召喚獣やゴーレムやホムンクルスの類いであろう。
……私は別に、自分に従順な、人形のような彼女なんて、求めてはいない。
だからと言って、彼女にとって辛い記憶を、甦らせることもできなかった。
何度も失敗を繰り返して、何度も彼女を死なせた後で、たどり着いた『結論』は、
──『一から彼女を育てる』ことであった。
(※次回に続きます)




