第2544話、わたくし、『ゲーム転生』で最強なのは当然、『ゲームの外』で普通に遊んでいる『ゲームプレイヤー』だと思いますの☆
【パターンその①】
「……ふう、やっとこの日が来たか」
その時俺は、既に草木も眠る丑三つ時だと言うのに、さも満足げにつぶやいた。
──戦略シミュレーション型RPG、『エクストラワルド』。
……『戦略シミュレーション』と『RPG』って、一見矛盾しているようだけど、簡単に言えば、ちゃんとゲーム内の特定のキャラになり切ってから、それぞれ与えられた目標の達成を目指して、戦略や戦術をシミュレーションすると言うタイプのゲームなのだ。
例えば、『勇者』のジョブを選べば、目標は『魔王討伐』であり、『王様や貴族』のジョブを選べば、目標は『領地の繁栄』であり、『軍事大国の皇帝』のジョブを選べば、目標は『戦争による領土拡大』であり、『商人』のジョブを選べば、目標は『経済的成功』であり、『冒険者』のジョブを選べば、目標は『ダンジョンの踏破』であり、『悪役令嬢』のジョブを選べば、目標は『破滅の運命の回避』であった。
……それで、俺自身が『何』のジョブを選んだかと言うと、
実は、『魔王』だったりする。
「……魔王なんかになって、何をするつもりなんだ? 単なる『やられ役』なのでは?」
──などと、疑問を覚えられるかも知れないが、さに非ず!
この『エクストラワルド』においては、『魔王』ほどやりがいの有るジョブは、他に無いのだ!
まず当然、『勇者』ジョブとは裏返し的に、『勇者撃退』と言う目標。
『魔』族の『王』様としての、『領地発展』と言う目標。
『人類の敵』の軍事勢力の最高指揮官としての、『人間領の軍事的併呑』と言う目標。
人間社会における『反社勢力』と結託しての、『闇商売』の繁盛と言う目標。
『なろう系』においては『悪役令嬢』に押され気味ではあるものの、『悪役』としての『身の破滅の回避』と言う目標。
──等々と言ったふうに、何と他のジョブの達成目標のほとんどすべてを、兼ね備えているのだ。
散々このゲームをやり込んできて、他のジョブのそれぞれの目標を完璧にクリアした後にたどり着いたのが、この『魔王』と言うジョブだ。
さすがに、すべてのジョブを同時に達成するのとほぼ同じ負担を強いられるのには、かなり骨が折れ、何度も何度も失敗を重ねつつも、徐々に攻略方法をマスターしていき、ついに魔王としてのジョブの達成──すなわち、全ジョブコンプリートによるゲーム全体のクリアの、達成目前にまでたどり着けたのだ。
これまでの失敗を生かす形で、最初からやみくもに人間勢力に喧嘩を売るような真似はせず、まずは地道に領地経営に全力を尽くして、経済的発展とともに、主に戦力増強をメインにした人材育成を心掛けて、文字通りに『富国強兵』を実現しつつ、
人間領内においても、盗賊ギルドや反国家的な武装集団や悪徳商人等々、『反社組織』な勢力と水面下に結びつき、魔族勢力の拡大と、人間勢力の弱体化を同時に進行して、
満を持しての大規模軍事侵攻によって、瞬く間に人類領の大半を攻略し、示し合わせるようにして『反乱分子』に武装蜂起させて、残った敵地においても内側から大打撃を与えることによって、もはや勝負はついたと言っても過言で無かろう。
後は『最後の望み』と言うことで、選りすぐりの『勇者パーティ』が、我が本拠地である魔王城へとやって来るのを待つばかりであるが、これについても抜かりなく、勇者パーティの攻撃パターンはすべて解明済みで、こちらとしてはゲームクリア前の最後の『エキシビションマッチ』のようなものでしか無かった。
──だがまさかその際において、あれ程の『驚愕の事実』が判明するとは、思ってもいなかったのである。
『──魔王、おまえも我ら同様、「転生者」なんだろ?』
……………………………………………………………は?
唯一の現実の『プレイヤー』である俺が、『魔王』のジョブを選んだからには、他のキャラはすべて『NPC』のはずであり、『魔王討伐』のシーンにおいて交わされる、『勇者パーティと魔王とのチャット会話』も、あらかじめプログラミングされた『定型文のやり取り』でしか無いはずなのに、突然とんでもないことを言い出す『勇者』キャラ。
「……え、何? この最終局面に来て、いきなり『バグ』なの?」
『今更しらばっくれなくても良かろう。何せ俺たち勇者パーティを始めとして、主立ったキャラたちは、すべて「現代日本からの転生者」なんだからな』
『おまえも、そうなんだろ?』
『おまえのいかにも効率的な、「魔王ムーブ」を見ていたら、良くわかるよ』
『おまえも俺たち同様に、現代日本にいた時は、そこではただのゲームであったこの「エクストラワルド」を、散々やり込んでいたんだろ?』
『『『『『──だが、これは「ゲーム」では無い、あくまでも「現実」なんだ!』』』』』
『ひとたび転生してしまえば、たとえそこが転生前の認識では、「ゲーム」や「小説」や「漫画」や「アニメ」そっくりの世界であったとしても、今やその世界の住人に他ならないのであり、すべては「現実」として受け容れるしか無いんだよ』
『──それなのに、おまえは「殺し過ぎた」』
『「エクストラワルド」のやり込みゲーマーだったおまえにとっては、この世界は「ゲームそのもの」か、せいぜい「なろう系でありきたりなぬるいゲーム転生」程度の認識かも知れないが』
『俺たち転生者はもちろん、NPCのみんなだって、ちゃんと生きている「現実の人間」なんだ!』
『いくら「魔王」に転生したからって、まるで単なる数字を減らしていくかのように、何の躊躇も無く「大量虐殺」してしまうなんて!』
『──もう、おまえの勝手にはさせないぞ!』
『俺たちだって、日本にいる時には、「エクストラワルド」をやり込んでいるんだ』
『これからの最終バトルにおいて、魔王であるおまえが、どのような戦闘パターンを繰り出してくるかは、すべて把握済みだ!』
『『『『『おまえの命運は、今ここで尽きるのだ!!!!!』』』』』
そう声を揃えて叫ぶや、四方八方から一気に飛びかかってくる、勇者パーティの全五人。
その、ゲーム内においてはけして有り得ないはずの突発的な挙動に、慌てふためいた俺は、矢も楯もたまらずに、
ゲーム機のコンセントを引き抜いて、ゲームを強制的に終わらせたのである。
そして、高額な大容量のブルーレイディスクを取り出すや、惜しげも無くたたき割ったのであった。
「……ふう、単なるバグか、本当に『ゲーム転生』だか知らないが、このままにしておくと絶対何かトンデモないことに巻き込まれそうだったので、背に腹は変えられず、ゲームのディスクを犠牲にして、すべての『フラグ』をたたき折ってやったぞ!」
これまでのゲームの記録データをすべて失ってしまったが、そんなことなんて言ってられない。
あいつらが本当に『ゲーム転生』していた場合、その命がどうなってしまうのかについても、知ったことでは無かった。
──そもそも何だよ、『ゲーム転生』って?
おまえは『デジタルデータ』に転生できるのか? すげえ器用なやつだな!
『勇者○肋骨』なんかに転生するほうが、よほど現実味が有るんじゃないのか?
──まあとにかく、それ以来俺は、あれだけ好きだった『戦略シミュレーション型RPG』の類いを、一切やらなくなってしまったのであった。
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【パターンその②】
「──悪役令嬢、アルテミス! 貴様とは今この場で、婚約を破棄する!」
王国でも名門の王立魔術師養成学院の、先輩方の卒業記念懇親会の、豪奢なパーティ会場にて響き渡る、この国の王太子殿下の怒声。
一気に騒然となる、卒業生や在校生の、王侯貴族の子女たち。
だが当の本人である、この国の筆頭公爵家令嬢であるこの私、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナだけは、微塵も動揺すること無く落ち着き払っていた。
──なぜなら、これはすべて最新型『フルダイブRPG』である、『わたくし、悪役令嬢ですの!』と言う大人気乙女ゲームの中の、冒頭部のお約束的な『シナリオ』に過ぎないのだから。
ただし、『悪役令嬢を主人公にした乙女ゲーム』と言っても、この『わたくし、悪役令嬢ですの!』は、一味も二味も違っていた。
まず何よりも、ついに実用化した最新鋭の『フルダイブシステム』なので、まるで本当に自分が『悪役令嬢そのもの』になったかのようにして、ゲームの世界の中で行動できること。
そしてこれは普通の『悪役令嬢作品』では無く、婚約破棄された悪役令嬢が、その卓越した頭脳と戦略眼ゆえに、隣国の軍事帝国にスカウトされて、自分を裏切った祖国に復讐すると言う、軍事戦略シミュレーションゲームなのであって、この婚約破棄のシーンは『オープニングムービー』みたいなものでしか無く、この後すぐに隣国の兵士たちが乱入してきて、私を安全にこの場から離脱させてくれる手はずとなっているのだ。
……そう、そのはず、だったのだが──
「──くくくくく、いくら待っても、隣国の兵隊は来ないぞ? 残念だったな」
え。
いきなりとんでもないことを言い出したのは、すぐ面前にいた王太子殿下であった。
「……何を言っているんですか? このイントロ部分にはストーリーの分岐なんて存在せず、ただシナリオ通りに推移していくはずなのでは?」
「おいおい、いつまで『ゲームのプレイヤー』のつもりでいるんだ。これはれっきとした『現実』なんだぞ?」
「はあ?」
「──まさか、まだ気がついていなかったのか? 俺たちはいつの間にか、あくまでもフルダイブ型ゲームであったはずの、『わたくし、悪役令嬢ですの!』そっくりの『異世界』に転生しているのであって、もうシナリオなんか存在していないんだぜ?」
「もちろん、ゲームの知識は有るから、先手を打って国境に大軍を派遣して、帝国軍の侵入は未然に防いであるから、いつまで待っても助けは来ないわよ?」
そのように王太子の台詞の尻馬に乗るようにして、いかにも勝ち誇ったように言ってくるのは、彼を色仕掛けで完全に篭絡している、下級貴族出身の少女であった。
パーティ会場を見回したところ、ほとんどの参加者たちが、私に対して嘲笑の笑みを隠そうとはしなかった。
……こいつら一体、何を言っているんだ?
当然私は、ほんのついさっき、ちゃんと『ログイン』の手順を踏んで、このゲームにダイブしばかりなんだぞ?
少なくとも、暴走トラックに跳ね飛ばされたり、ブラック企業に勤めていて過労死したりした記憶なんて、まったく無いんですけど?
しかし、私が当惑しているのを尻目に、自称『転生者』どもの、『決めつけられたシナリオに反逆するためのシナリオ』は、着々と進行していたのだ。
「──衛兵、この反逆者を捕縛しろ!」
「「「ハッ、王太子殿下!!!」」」
四方八方から飛びかかってくる、フルアーマーの兵士たち。
「これ以上、付き合ってられるか! ──『ログアウト』!」
フルダイブゲームにおいては、どんな大ピンチでも免れることのできる、『最後の奥の手の呪文』を唱えることで、あっさりと現実世界へと帰還する、ただのOLに過ぎない『私』。
「……一体、何なのよ、今のって? 単なるバグ? それとも『厄介な厨二病患者』ばかりのプレイヤー集団なの?」
──まさか本当に、『ゲーム転生者』だったりはしないよね?
だがその疑問は、永遠に解明されることは無かった。
何と、期待の革新的ゲームである『わたくし、悪役令嬢ですの!』において、修復不能の致命的な欠陥が発見されたと言うことで、突然サービスが停止されてしまったのだ。
……もし彼らが本当に『転生者』だった場合、ゲーム世界そのものの終焉とともに、一体『どうなって』しまったかは、考えたくも無かった。




