第2538話、わたくし、異世界においても『極超音速ミサイル』を実現できると断言しますの☆
「──元帥閣下、『タイヴァーン島侵攻作戦』、準備万端整いました!」
ここは剣と魔法のファンタジー世界『グリンワルド』の、広大なる東エイジア大陸。
その中でも最大の軍事国家である『中つ国』が、積年の悲願である、『タイヴァーン島併合』のための、軍事行動を開始しようとしていた。
総合作戦本部室の大机に、オーク種族ならではのでっぷりとした巨体を大きな椅子に収めているのは、本作戦の最高司令官である、ポークチャップ元帥であった。
「……神聖皇国『旭光』の、魔女どもの様子はどうだ?」
「ハッ、極東島国の旭光の国境全周には、先の大戦の敗戦時に世界中の魔導士の総力を挙げて、『九条の結界』が張り巡らされており、年に一度の四月の終わりの『ヴァルプルギスの夜』にしか、領土の外には出られませんので、今回の作戦には支障が無いものと思われます!」
「──よし、これで後顧の憂いはすべて無くなった。全軍に出動命令を下せ!」
「──ハッ!」
元帥オークの命令一下、今まさに百万の大軍勢が、東チノ海へとなだれ込もうとした、
まさに、その刹那であった。
「──総司令! フッケバイン省最前線基地より、入電! たった今し方基地が大規模な奇襲を受けて、兵員を始め、艦船等の各種兵器、弾薬や食糧等の兵站等々すべてが、壊滅的被害を被ったとのことです!」
「「「──なッ⁉」」」
突然飛び込んできた伝令兵による、とても信じられない急報に、驚愕の表情へと一変する、元帥閣下を始めとする大幹部たち。
「我が珍民解放軍の南方軍主力部隊が、壊滅状態だと⁉」
「そんな大規模な奇襲を行える勢力が、この東エイジアにあり得るのか⁉」
「守備隊はどうした⁉ 当然万全の防衛体制を布いていたのだろう⁉」
「──空からの奇襲です! 突然無数の巨大な槍のようなものが、旭光方面から超高速で飛んできて、最前線基地一帯に命中した途端、大爆発を起こして、辺り一面を火の海と瓦礫の山に変えてしまったのです!」
「空からだと?」
「こちらのワイバーン騎兵隊は、何をやっていたのだ⁉」
「──視認性の悪い海面ギリギリを、とにかく目にも留まらぬ速さで飛行してくるものだから、対処不能だったのです!」
「……目にも留まらぬ速さって、そんなに速いのか?」
「飛行音が聞こえてくる前に、既に爆発が起こっていますから、少なくとも『音より速い』かと」
「『音より速い』って、そんな馬鹿な⁉」
「そのようなものに、どう対応すればいいのだ⁉」
「槍みたいなものと言うことは、投擲している者がいるわけだろ? そいつを叩けばいいでは無いか?」
「──魔導反応を索敵したものの、極東海域には魔術師等の反応は有りませんでした! 未確認飛行物体は、旭光から直接飛んで来ているようです!」
「旭光からって、何百キロも有るぞ⁉」
「た、確かに、『ヴァルプルギスの夜』でも無いので、魔女たちが出兵することは無かろうが……」
「それにしても、飛行速度も、航続距離も、あまりにもこの世界の常識から超越し過ぎておる!」
「……もしや、『転生者』の仕業か⁉」
「し、しかし、旭光の魔女たちは、異世界の本場である『現代日本』に比べて、かなり時代遅れである、『大日本帝国』からの転生者ばかりだと言うぞ?」
「その当時の技術で、音速を超える航空兵器なぞ、開発できるのか⁉」
「ええい! 生粋のオーク族である、我々がごちゃごちゃ言っても仕方ない、至急『あいつ』との通信回路を開け!」
完全に混乱の坩堝と化した司令部の有り様に、業を煮やした元帥閣下が放った、その場の騒ぎを収める鶴の一声。
「……『あいつ』とは、現在特別監獄に収監中の、『現代日本からの転生者』のことですか?」
「ああ、あのオタク野郎なら、オタクならではの『ミリタリィ知識』にも、さぞかし詳しかろうからな!」
「──通信回線、繋がりました!」
『よッ、元帥閣下、今日も元気に、げんすいすい〜☆』
「変な挨拶を流行らせようとするな! それよりも聞きたいことがある! この映像と現場からの報告書を見てくれ!」
『……音速を超える槍状の航空兵器が、旭光から直接飛んできた? ──ああ、多分それって、「アレ」だよ』
「『アレ』、とは?」
『ラムジェットエンジンだかスクラムジェットエンジンだかを動力とした、「極超音速巡航ミサイル」だね。俺がいた現代日本においても、最先端の科学技術の賜物さ』
「──そんな馬鹿な⁉ 『大日本帝国』からの転生者による旭光の科学水準は、おまえがいた『現代日本』よりも、百年近く遅れているんだろ⁉ それなのにどうして、おまえの時代でも最先端とされる技術の兵器を、独力で開発し大量に実戦投入することができるんだ⁉」
『ああ、それは簡単な話で、「最も効率のいい兵器は、最もシンプルな構造をしている」と言う、大原則に基づいているからさ』
「はあ?」
「確かに『ラムジェット』は、俺がいた『現代日本』においても、完璧に実用化されたとは言い切れないほどの、超最先端技術だけど、実はジェットエンジンの開発技術が、当時の主要国の中でも最も立ち後れていた大日本帝国において、最初に試作されたのも、まさにその「ラムジェットエンジン」だったんだよ』
「ど、どうして、科学技術が長足の進歩を遂げた未来においても手に負えないような技術を、よりによって最初に実用化しようとしたんだ、大日本帝国は⁉」
『だから言っただろ? その最先端の「ラムジェット」こそが、他のターボジェットや、ターボプロップや、ターボファンジェットなんかよりも、「シンプル」だったからって』
「……『シンプル』って、どのようにシンプルなわけなんだ?」
『極論すれば、「ラムジェット」や「スクラムジェット」って、「ただの筒」のようなものなのさ』
「──絶対に撃墜不可能なほど、超高速かつ超長距離飛行ができる航空兵器の動力が、『ただの筒』だとお⁉ そんなものでどうやって、速度や距離を稼ぐことができるのだ⁉」
『ジェットエンジンと言うものを、極端に簡単に説明すると、飛行しながら筒状のエンジンに空気を取り込んで、それを圧縮して酸素濃度を上げて火をつけることによって、「ジェット気流」を人工的に作り出して、それを筒の後部から噴出させることで、高速飛行を可能にすると言う仕組みになっているんだ。ラムジェット以外のやつだと、筒の中に多数の「プロペラ」を高速で回転させていて、その間をくぐり抜けていく空気をどんどんと圧縮して酸素濃度を上げてから火をつけることによって、筒の後部から勢いよく噴出させることで、航空機自体を高速で飛行させているんだよ』
「……うむ、それに関しては、どうにかイメージできるが、それに対してガチで『ただの筒』であるラムジェットが、どうやって『ジェット気流』を生み出しているわけなのだ?」
『実は「ただの筒」を高速で飛ばすと、その内側に「ラム圧」と言うのが生じて、流入した空気を自然と圧縮するようになっているんだよ。後はそれに火をつけて「ジェット気流」にして、筒の後部から噴出させればいいのさ』
「『ラム圧』だと⁉ ただの筒に、そんな作用が有ったのか⁉』
『ただの筒と侮るなよ? 構造がシンプルな分、いろいろな意味で「無駄」が無く、最終的に出力可能な最高速度は、他のターボジェットエンジンの数倍にも及ぶんだ』
「そのように複雑な機構を必要としないのに、より大きな成果を得ることのできるエンジンが、どうしていまだに主流にはなっていないのだ? 下手すると、八十年前の大戦時にでも、実用化すれば良かったのに」
『そんな簡単な話じゃ無いんだ、メリットが多い分、デメリットも多くて、いろいろと解決すべき点も有るんだよ』
「解決すべき点、だと?」
『まず、「ラム圧」を生じさせるには、既に高速で飛行していることが必要なんだ。航空機を飛ばすためのエンジンだと言うのに、エンジンが始動する前から高速で飛んでいなくてはならないなんて、文字通り「本末転倒」じゃ無いか?』
「──うッ⁉」
『後何かにつけ、「空気を圧縮して熱している」って言っているけど、飛行中ずっと空気を熱していると、当然エンジン内が高温となり、適宜冷却すべきなのだが、「ただの筒」には冷却装置なんか付いておらず、そのうち故障するか、しなくてもエンジン自体の寿命が極端に短くなってしまうだろうよ』
「──ううッ⁉」
「それにそもそも、ラムジェットでマッハ5、スクラムジェットでマッハ10も出るのだから、とても人間に耐え切れるわけが無く、人を乗せて運搬すると言う、航空機の最大の役目を果たすことが不可能だと言う、致命的な欠陥が有るんだよ』
「──うううッ⁉」
『──だから旭光は、人の乗らない「兵器」の動力として、利用したわけなのさ』
「え」
『今回使われたのは、「極超音速巡航ミサイル」ってやつなんだけど、まあ「ロケット花火」のデカいやつと思ってくれて間違い無いよ。「飛行する爆弾」のようなものだからこそ、人を乗せる必要が無いし、使い捨ての兵器だから、冷却装置なんか付けずに熱しっぱなしにしていいし、それこそ花火みたいに、「火薬」を使った「固形燃料ロケット」を補助エンジンとして、ラムジェットが始動できる速度になるまで併用してもいいしね』
「……た、確かに、いかにも欠陥品みたいでありながら、使い捨ての兵器として使う分には、それ程デメリットが問題にならないわけか?」
『特にこいつは、ここのような剣と魔法のファンタジーワールドにおいてこそ、その真価を発揮できるとも言えるんだぜ?』
「何だと?」
『異世界には「魔法」が有るじゃん? 魔法を使って、ラムジェットエンジンの欠点を補いつつ、長所を伸ばすことだって、十分可能だろ?』
「あ」
『もちろん、何から何まで魔法を使っていたんじゃ、せっかくの日本の進んだ科学技術の意味が無くなりかねないから、あくまでも「補助的」に使うべきなんだ。──例えば、一定の速度に至るまでは、「風魔法」を使ってエンジン内部に空気を高速で注ぎ込むとか、高温化したエンジン内部は「氷雪魔法」で冷やすとか、いっそ熱に強い「魔法物質」でミサイル自体を製造するとか、最も肝心な「燃料」については、以前述べたように、「松」の性質を有するトレントを材料にした、「松根油」を使用すればいいしな』
「な、なるほど、不完全なほどピーキーな兵器なのだから、駄目なところを魔法で補ってやれば、何の憂いも無く最高の性能が発揮できるわけか? 確かにこの世界向きの動力だな」
『……感心している場合かよ? これってこの世界の技術レベルでは、迎撃不可能なんだぜ?』
「──魔法を使ってもか⁉」
『物理的に最強過ぎるんだよ。たとえ少々の結界を構築したところで、簡単に突き破ってくるぞ?』
「──おまえの得意な『現代日本のオタク知識』によって、何か対抗策は無いのか⁉」
『そうは言われても先方さんが、どれだけの数を用意しているか見当もつかないし、他にもどんな「秘密兵器」を隠し持っているか、わかったもんじゃないからな。いくら何でも対抗策の練りようが無いぜ。──ま、とにかく、こんな国際情勢の中で、無理やり「タイヴァーン侵攻」を強行しようなんて思わずに、しばらくは様子見していた方が無難じゃ無いのか?』




