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第2536話、わたくし、当時最先端のエコ燃料である『松根油』に対する風評被害は『洗脳』レベルだと思いますの★

 ──ここは、剣と魔法のファンタジー異世界、『グリンワルド』。




『エイジア大陸』極東の島国、神聖皇国『旭光ヒノモト』は、現在未曾有の危機にさらされていた。




 大陸東部の軍事帝国『中つ国』が、とうとう大東亜の島嶼諸国の侵略作戦に乗り出したのだ。




 弱小国であるタイヴァーンとフィリピーニは既に陥落し、残るは列強の端くれである旭光ヒノモトのみとなっていたが、中つ国はけして油断すること無く、航空戦力であるワイバーン騎兵隊を全軍投入して、空路から旭光ヒノモト海をわたって、皇国本土を魔法爆弾の絨毯爆撃で蹂躙せんとしているのだ。


 確かに旭光ヒノモトは『列強』の一つに数えられるくらい、魔法技術に優れていたものの、物量で押してくる敵軍との『対空戦』は、どう考えても分が悪かった。


 よってワイバーン騎兵の大編隊は、既に勝ったものと、余裕綽々で進軍していたものの、




 旭光ヒノモト本土に到達する前の海上において、壊滅的被害を被り、わずかに生き残ったほんの十数騎ほどの騎兵のみが、這々の体で本国に逃げ帰ったのであった。




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




「──どう言うことだ、一体⁉ 旭光ヒノモトのような小国には、我が軍の虎の子のワイバーン部隊に対抗できる航空兵力も、地上部隊や海上部隊の対空迎撃能力も、皆無に等しい状態のはずだったのじゃ無いのか⁉」




 今回の大東亜侵攻作戦の総本部にて響き渡る、最高司令官である元帥閣下の怒号。


 それに対して、貴重な生き残りの一人である騎兵が、恐る恐る報告を開始した。


「実は旭光ヒノモト軍が、とんでもない新兵器を投入してきたのであります!」


「……新兵器だと? 旭光ヒノモトのことだから、また魔術絡みか?」


「いえ、どちらかと言うと、『科学技術』によるものと思われます!」


「科学技術? あの神聖皇国が? エウロパ大陸の魔人族の『ゲルマニア第三帝国』でもあるまいし」




「間違いありません! 我が侵攻部隊総勢百騎が敵本土に差しかかろうとしたところ、金属製の小型の航空機が二、三十機ほど迎撃に現れたのですが、まるで紙飛行機のような三角形の大きな翼のみでできていると言う、珍妙な機体でありながら、速度は音よりも速く、それでいて格闘能力もずば抜けていて、我がワイバーンどもが手も足も出ずに翻弄されるままに、空対空ロケット弾や、大口径の機銃掃射をお見舞いされて、瞬く間に大勢の友軍が撃墜されてしまったのです!」




「──何で敵軍だけが、『時代設定』そのものから段違いなの⁉ もはや『なろう系』では無く、一時期流行った第二次世界大戦を舞台にした、『架空戦記』そのものじゃん⁉」




 あまりに奇想天外な報告を聞き、思わず『メタ』そのもののことを叫びだす、司令官殿であった。




 だが、かつて『中つ国共産党』内での熾烈な権力争いに勝利し、軍の大幹部まで登りつめた男は、それ程馬鹿では無かった。







「……と言うことは、間違いなく、『転生者』絡みと言うことか」







「ハッ、十中八九、相違ないでしょう!」


「……くっ、毎度毎度忌まわしいッ! 転生者どもめ、何度我が『珍民解放軍』の邪魔をすれば、気が済むのだ⁉」


 怒り任せに、司令官席の机の上のコーヒーカップをなぎ払う、共産党の高級党員でもある元帥閣下。


「──ひッ⁉」


 それを見て、首をすくめて縮こまる部下に対して、さも不機嫌に命令を下す。


「……『あいつ』と、通信を繋げ」


「あ、『あいつ』、とは?」




「──決まっておろう! 忌々しいことだが、『転生者には、転生者を、ぶつけるんだよ⁉』だ!」




「か、かしこまりましたッ! 『特別監禁塔』と、量子魔導クォンタムマジックチャット回線を繋ぎますッ!」


 ──その途端、


 広大な司令室の中央の宙空に浮かんでいた、大きな水晶の球に、薄暗い地下牢の映像が映し出された。


『──何だ何だ、元帥閣下? 御用が有るのなら、司令室そっちまで馳せ参じるのによお?』


 いかにも劣悪な環境に拘束されながら、なぜか血色が良く丸々と太った少年が、映像の中から気さくに声をかけてきた。


「ふ、ふざけるな! おまえのような危険人物を、牢から出すものか! 転生者と言うものは、女神から与えられた『チートスキル』で、何をやるかわかったものじゃないからな⁉」


『……相変わらず、コミュニズム国家は遅れているなあ。この剣と魔法のファンタジーワールドで、「無神論者」かよ? そんなんで本当にやっていけるの? 何なら俺も共産党に入党しようか? それなら信じてくれるだろう?』


「──黙れ! 無神論者どころか、イデオロギーも平気でコロコロ変えることに定評がある、『ゲンダイニッポン人』のことなんか、信じられるか⁉ ──いいから、こちらの質問に答えろ!」


なんか、転生者絡みの「新兵器」に苦戦しているんだって? できたら映像を見せてくれよ、それで大体わかるから』


「……見せてやれ」


「ハッ」


『ああ、これは、ジェット機だね。しかもステルスタイプの全翼機か』


「『ジェット機』? 『全翼機』?」


『「全翼機」ってえのは、一言で言えば、機体が翼だけでできているから、非常に効率のいい航空兵器で、速度が速くて、航続距離も長いと言う、いいとこ尽くめのやつなんだ』


「『ジェット機』と言うのは?」


『凄い高性能の動力を使っていて、むちゃくちゃ速度が速くて、この世界のワイバーン騎兵隊なんて、太刀打ちできっこ無いだろうよ』


「そんな高度な機械を、どうやってこのファンタジーワールドで開発して、しかもある程度量産できているんだ?」


『……ジェットエンジンと言っても、おそらくは「ラムジェット」だろうな。言ってしまえば「ただの筒」みたいなもので、構造がむちゃくちゃシンプルで、比較的簡単に造れるんだけど、シンプルだからこそ効率が良く、『極超音速』と言う、音の速さの数倍の高速性を誇っているのさ』


「『ただの筒』を動力にして、音の数倍の速度が出せるって、一体どんな超技術力なんだよ⁉」


『もちろん、「ただの筒みたいなもの」と言っても、最低限、筒の入口から取り入れた空気を熱して「ジェット気流」にして、筒の出口から高速に噴出するための、「燃焼器」が必要になるけどね。──まあ、それはこの世界の現時点の技術力でもどうにかなるとして、問題は「燃料」のほうかな』


「なるほど、あれが『機械技術』の賜物とすれば、当然『燃料』が必要になってくるわけだ」


『ご存じのように神聖皇国旭光(ヒノモト)は、国内の資源に乏しいので、中つ国が海上封鎖している現状においては、持久戦に持ち込んで、敵が干上がるのを待てばいいように思えるけど……………………そういえば、旭光ヒノモトって、トレントの「マッツーン」種が、多数群生しているんだっけ?』


「ああ、春先には人里にも現れて、結構人的被害ももたらしているそうだが、それがどうした?」







『──「松根油」だ!』







「……『松根油』? 何だそりゃあ」


『うちの世界においては、「松」と言う植物が有って、その根の部分を蒸し焼きにすることで、「油」を採取することができて、現在の旭光ヒノモトのように、戦時中に燃料事情が逼迫してしまった「現代日本」の軍隊において、それを航空兵器の燃料にしていた時代が有ったんだよ。おそらくは、先方さんの転生者の発案で、『マッツーン』ならではの「油状の体液」を搾り取って、今回の新兵器の燃料にしているんじゃないのか?』




「……トレントの油って、マジか? 普通機械兵器の燃料って、エウロパの先進国の各軍隊のように、砂漠諸国あたりで大量に湧き出ている、『火の水』を利用するのが一般的で、トレントにしろ『松』とやらにしろ、植物から採取するなんて、いくら燃料事情が逼迫しているからって、あんまりと言えばあんまりだぞ? 何かこっちのほうが、旭光ヒノモトのことが心配になってきたよ」







『──でも、そんないかにも「苦し紛れの代用品」みたいな油で、現に旭光ヒノモトの新兵器は、十分に稼働しているんだぜ?』







 ──ッ。


 ……そういえば、そうだ。


 一部の科学文明が進んでいる国家では、『プロペラ駆動の航空兵器』が開発されて、徐々に実戦にも投入され始めているけど、まさに最先端の科学技術の結晶だけあって、燃料に用いる油も、最も高品質なものが要求されると言うのに、それよりも高性能な『ラムジェットエンジン』とやらが、低質の油どころか、『燃料』と呼ぶのもはばかれる、『トレントの体液』とか『松根油』で十分事足りているのは、なぜなんだ?




『何も不思議じゃ無いのさ。ジェットエンジンと言うのは、吸引した空気をとにかく熱すればいいので、燃えるのならどんなに低品質の油でも構わないんだよ。俺の世界でも「松根油」は、当時最新鋭だった、大日本帝国海軍試作特殊ジェット攻撃機、「橘花」の試験飛行のために用いられたって話だぞ?』




「──なッ、そんないかにも間に合わせの代用品的な油が、最新鋭ジェット機の燃料として使われていただと⁉」




『まあとにかく、「魔法生物」であるトレントは、魔法によっていくらでも増やすことができるんだから、旭光ヒノモトの防空態勢は盤石と言っても過言じゃ無く、今回の大東亜侵攻作戦を、根本から再検討するのはもちろん、今度は旭光ヒノモトのほうから、新兵器を前面に押し出して、大規模反攻を仕掛けて来かねないことを、十分用心しておくんだな★』

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