第2528話、わたくし、聖女よりも『オールワークスメイド』になったほうが、世界そのものを最高にハッピーにできますの♡
……どうして、私ばかりが、こんな目に遭うのだろう。
こんな世界なんて、滅びてしまえばいいのに!
──などと、『定型文』的な文章で、始めてみたけれど、
幸か不幸か、私には、本当に、
この『魔法世界』を滅ぼすことのできる、『魔王』のごとき力が備わっていたのだ。
「……見て、『土○姫君』よ」
「良くのうのうと、学院に顔を出せたわね」
「『被害者』のほうは、まだ入院中らしいぞ」
「……そいつは、ひでえな」
「まあでも、あいつらもうかつだよな」
「よりによって、『土○姫君』に手を出すなんて」
「そうそう、ちょっかいをかけるんだったら、『無能者《ラ○ナー》』あたりにしておけばいいのに」
「……でも、あっちに手を出すと、シ○ンがうるさいからな」
「しかし、ヤバさで言えば、比べ物にならないだろ?」
「ああ、場所が『地上』である限りは、巨大な『ゴーレム』が自動迎撃してくるからな」
「しかも何体呼び出そうが、まったく『魔力切れ』を起こさないと言う、反則っぷり」
「『土○姫君』とは、よく言ったものだぜ」
「くわばら、くわばら」
……またいつものように、同級生たちが陰口をたたいているけど、
──どうでもいい。
……またいつものように、たくさんの人を傷つけたようだけど、
──どうでもいい。
……そろそろ学院はもちろん、『塔』のほうでも、私の『処分』が検討されているようだけど、
──どうでもいい。
別に、ゴーレムを召喚したのも、クラスメイトを傷つけたのも、私じゃない。
あくまでも、『土○姫君』なのだ。
私の中に秘められた、呪われた血と魔力が、勝手にやっているだけだ。
それにどうせ私は、成人するまでしか生きられないのだ。
このままどんどんと成長し、『土○姫君』の名にふさわしい魔力を扱えるようになれば、お母さんを始めとする『ロワ○ル家の女』たち同様に、私も一族の守り神である、『界○巨兵』の中へと閉じ込められてしまうだろう。
だったら、こんな人生に、何の意味が有ると言うのか?
だったら、周りの人間たちがどうなろうが、構わないじゃないか?
──だったら、こんな世界そのものを、滅ぼしてしまってもいいではないか。
確かに私に秘められたこの力は、この世界を『守る』ためのものだ。
でも、『守れる』と言うことは、『滅ぼせる』わけでもあるのでは?
──そうだ、いっそのこと、『天上○侵略者』が攻め込んでくる以前に、私自身が『魔王』になって、こんな世界なぞ破壊し尽くして、私自身の人生を終わらせてやるッ!
そのように、ついに私が、『決意』を固めようとした、まさにその時──
「──やあコレ○ト、どうしたんだい、そんな悲愴な顔をして。またこの世界に絶望してしまったのかい?」
そんなことをにこやかな笑顔で言いながら駆け寄ってくる、一人の少年。
クラスメイトの、ウ○ル=セルフォルト。
このところやけに私にまとわりついてくるが、何と名門魔術学院である本校にあって、魔術がからっきしと言う変わり種の、他称『無能者《ラ○ナー》』の生徒であった。
「……またあなたなの? 私のことは、放っておいてって、言ったでしょ?」
「そうはいかないよ、君には本当に『魔王』になれるポテンシャルが有るんだし、下手すると人類が滅亡しかねないので、『塔』のほうだっていつまでも見逃してはくれず、いつ『討伐命令』を下すのか、ヒヤヒヤものだし、君がやけを起こさないように見張っていないと、夜も眠れないよ」
「あなたが見張っていたって、『無能者《ラ○ナー》』ごときでは、私を止めることなんてできないでしょ⁉ もうすべて手遅れよ! 私『魔王』になると決めたんだから!」
「──そうだ、『魔王』なんかになるくらいなら、いっそのこと、『メイドさん』になってみないかい?」
………………………………………………………………は?
「な、何よ、いきなり、『メイド』って?」
「君に助けてもらいたい、女の子がいるんだ! でもそのためには、君にメイドさんに──それも、『オールワークスメイド』になってもらわなければならないんだよ!」
……何を、
……こいつは一体、何を言っているんだ?
『オールワークスメイド』? それって何のことよ?
──て言うか、そもそもどうして私が、他人のことを助けてやらなければならないのよ⁉
むしろ助けて欲しいのは、こっちのほうよ!
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
「──と言うわけで、件の女の子が住んでいるお屋敷に、やって来ました☆」
「場面転換、早っ⁉」
え、何で私、こいつに押し切られて、こんな所に来てしまったの?
……何か、時間が一瞬にして跳躍してしまったみたいなんだけど、気のせいだろうか?
──いや、それよりも、
「これが、問題の『お嬢様』とやらが住んでいる、『貴族のお屋敷』なわけ? 確かに大きさだけなら、学院の一校舎分は有ると思うけど、門扉から庭園から母屋に至るまでボロボロで、まるで廃墟じゃないの?」
……て言うか、そもそもこの国に、『王侯貴族』なんて存在していたっけ?
まさか、知らないうちに、『別の世界線』に迷い込んでしまったとか?
「ふふふ、腕が鳴るでしょ? まさに『オールワークスメイド』に打ってつけのシチュエーションだもんね!」
「はあ?」
何だかわけのわからないことを言い出したクラスメイトの男子に対して、さすがに問い詰めようとしたところ、屋敷の入口の重厚なる扉がゆっくりと開いて、小柄な人影が『のそり』と現れた。
「……何、あなたたち? 人の家の前でごちゃごちゃ言い争いなんかして。普通に迷惑なんですけど?」
──むちゃくちゃ『美少女』だった。
年の頃は、十代半ばほどか。
小柄な矮躯を覆い尽くすように流れ落ちている、お日様の光のような長い金髪に、
まるで人形のような端整なる小顔の中で煌めいている、大空を映し出しているかのような青の瞳。
本来なら、『天使か妖精のような』とでも形容したいところだったが、とても貴族の御令嬢とは思えない、すっかり薄汚れ所々ほころびさえ見える衣服と、まったく手入れがされていない髪の毛に、明らかに栄養不足と思われる不健康な顔色が、すべてを台無しにしていた。
……な、何、この子?
どうしてお貴族様の御令嬢が、こんなみすぼらしいなりをしているの?
「こんにちは、ルシ○ナお嬢様、本日は以前お約束していた、メイドサービスを提供しに来ました」
──ちょっ、
ウ○ルさん⁉
いきなり笑顔で、何を言い出しやがるのです⁉
「……あれって、本気だったんだ? どうでもいいけど、うちには対価として支払うお金なんて無いし、本当にいいわけ?」
「ええ、すべてボランティアなので、お気になさらずに」
──うおいッ⁉
「ふうん、じゃあ中に入って」
「お邪魔しま〜す♫」
──って⁉
な、何よ、中のほうがボロボロじゃ無いの⁉
もはや掃除をしているかどうかの段階では無く、衣服や食物や食器や生ゴミが散乱していて、そこら中に蜘蛛の巣が張り巡らされていた。
もう管理不届きの屋敷と言うよりも、『廃墟』なんじゃ無いの⁉
「それでは、コレ○ト、始めてください」
「──まさか、私一人でやれって言うのかよ⁉」
「いえ、一応僕もつきっきりでお手伝いするつもりだよ? 君、『オールワークスメイド』の職務について、ほとんど知らないと思うし」
「あんた一人手伝ったくらいで、この屋敷の片付けが済むとは思えないんだけど⁉」
「コレ○トのほうは、別に『一人で』やる必要は無いでしょ?」
「へ?」
「『分身スキル』を使って、君の数をじゃんじゃん増やせばいいじゃん?」
「──いや、私『分身スキル』なんて、使えないんですけど⁉」
「君って、ゴーレムを、無限に『召喚』することができるよね?」
「あ、あんた、あれが『召喚術』だと、見抜いていたの⁉」
「だったら今回は、『自分を召喚』すればいいのでは?」
「──『自分を召喚』って⁉」
「なあに、ゴーレムを召喚する時と、同じだよ。頭の中で、『自分自身をイメージ』すればいいのさ!」
「……私、これまでゴーレムなんか、イメージしたことは無いんだけど?」
「それは無意識にやっていると思われるからね。君はもうすでに、とんでもない量の『魔力を召喚』し続けているんだ。後はそれに適当な『形態情報』さえ与えれば、ゴーレムにでも自分の分身にでも変化できるのだから、自分自身をイメージするのは、むしろ簡単な部類に入るだろ?」
「……まあ、赤の他人とかよりは、イメージしやすいかも」
「──その際には、メイド服を着ているようにイメージするんだよ⁉」
「──何でそこだけ、力説するわけ⁉」
「……何でもいいけど、やるなら早くやってちょうだい。別に期待なんかしていないから、どうなっても構わないわ」
──ッ。
まるで先ほど学院内で、私が心の中で思ってたことと同じような台詞をつぶやく、目の前の少女。
何の感情も宿っていない、虚ろな瞳。
……そうか、
これは、『私』だ。
彼女は、私の、『鏡像』なんだ。
すべてに絶望し、誰とも手を取り合おうとしないままに、自分を取り巻く『世界』ばかりを恨み続けている、哀れな娘。
私も、ウ○ルや他の生徒や教師からは、こんなふうに見えていたのか。
「……ウ○ル、『オールワークスメイド』って、どうやればいいの?」
「ああ、うん、とりあえずメイド姿のコレ○ト自身を、五、六人ほど召喚して、後はそれぞれ魔法を使って、掃除や洗濯や炊事をやってもらえばいいよ。魔法だったら、それ程労力をかけずに、この広大なお屋敷全体を完璧に『リフォーム』することだって、十分可能だしね」
「とにかく私、『オールワークスメイド』とやらを、やってみるわ。──残念ながら、『魔王』になるのは、当分の間お預けね」
そのように嘯く私に対して、いかにもしたり顔の少年の微笑みが、何だか癪に障った。
──だけど確かに、この日この時こそが、私コレ○ト=ロワ○ルと、この屋敷の少女ルシ○ナ・ルトルバーグとの、人生の大いなる転換点となったのである。
『魔法』なんて、自分を不幸にするだけだと信じ込み、自ら『魔王』となろうとしたり、『魔王』に魅入られて、『操り人形』と化そうとしていた私たちが、『メイド』として、奉仕したり、『ご主人様』として、奉仕されたりする中で、魔法と言うものは、使い方によっては大いに人の役に立つことを、初めて認識することで、ギリギリのところで、『絶望の淵』から立ち直ることができたのだ。
そう、魔法は確かに、世の中に破壊や争いをもたらすことも有るけれど、人のために使うことによって、人と人とを心から繋ぎ合わせることだってできるのだ。
それを骨身に染みて理解した私は、もう二度と自分の魔法を恐れたり、自分の運命に絶望したりは、しなくなったのである。
……ああ、これもすべては、『メイドの素晴らしさ』を知り得たからだ。
私はこれからも、『オールワークスメイド』として、自分のすべてを捧げて、ルシ○ナお嬢様に尽くしていこうと誓うのであった。




