第2523話、わたくし、自殺とか犯罪とかに走るよりも、憎い相手よりも一日でも『長生き』したほうが勝ちだと宣言いたしますの☆【後編】
「──ラッシ(※狼娘の名前)! これは一体、どういうことなんだ⁉」
「……そういえば、『狼娘』って、字面が紛らわしいですねw」
「──いいから、早く答えろ!」
「それよりも、何と私の名前って、『ラッシ』だったんですね? オリジナルは『アークナ○ツ・エンドフィ○ルド』の『ロ○シ』ちゃんですか? それとも『名犬』のほう?」
「──いいから、早く答えて!」
「言ったでしょ? 私の体液には『若返り』の効果が有ると。これこそが、我が一族の秘伝の魔術であり、神聖なる『若返りの儀式』なのですよ」
「何でそう言う大切なことを、儀式を始める前に、ちゃんと言わないの⁉ いきなりこんな子供にされたんじゃ、一体僕はこれからどうすればいいんだよ⁉」
「何を申されているのです、これこそが師匠の『心残り』を解消する、唯一の手段なのですよ?」
「……何だと?」
「師匠は既に、ご自分が魔導師としても、子供の当時の『未熟な』レベルに戻ってしまったことに、気づかれていますよね?」
「──ホント、何してくれちゃってるの⁉」
「だからいいんですよ。つまり師匠はこれから、『魔導師としての人生』を、一からやり直すことができるのですよ。──今度こそ、『一切悔いの無い、真の理想的な人生』にね」
「──‼」
「確かに、魔術の修練はやり直しですが、知識や記憶はこれまで蓄積したままとなっておりますので、より効率的かつ理想的に、魔術やそれに関する研究を行うことができるのです」
「……おお」
「身の回りのことは、お任せください! 今や私のほうがちょっとばかし年上になりましたからね! この『ラッシお姉さん』が、師匠のことを面倒見て差し上げましょう!」
「おおおおお! つまり僕は、これまで以上に、魔術の研究のみに打ち込めるわけなんだな⁉」
「……いいえ、そうではありません」
「へ?」
「師匠にはこれからの『二度目の人生』においては、魔術の訓練や研究以外に、剣術や護身術等の武術や、隣近所や学会等のお付き合いに務められて、社交性豊かな普通の感性を育まさせていただきます」
「──何でそんな無駄なことを⁉」
「──無駄じゃねえよ、この『魔術オタク』が⁉ 普通の人間にとっては、これが当たり前なんだよ⁉」
「──『狼娘』に、『普通の人間』としての、あるべき姿を説かれてしまった⁉」
「……そのように社会的常識に欠けていたからこそ、コミュ力強者の魔導師に研究の成果を奪われて、理論武装した弁護士風情に出し抜かれたんでしょうが?」
「──うぐぅッ⁉」
「さあ、とにかくこれからは、私にすべて任せてください! 師匠には絶対に後悔させませんから!」
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
──そして、それから十数年後。
「……やった、ついに研究論文が完成したぞ! まさかあの奪われた論文に、『致命的欠陥』が有ったとはッ⁉ ──だが今回の論文で、完全に修正するとともに、より効率的に魔術を発動できるように改良したから、魔導学会どころか、世間一般においても、全面的に認められること請け合いだぜ!」
「──おめでとうございます、お師匠様♡」
「……いや、今となってはむしろ、君のほうがお師匠様のようなものだがな。ありがとう、ラッシ。すべては君のお陰だよ!」
「ええ、お師匠様もいい具合に成長なされたことだし、そろそろ結婚いたしましょう♡♡♡」
「──いきなり何を言い出すの⁉ もはや実の娘どころや、姉や母親同然の相手と、結婚なんかできるか⁉…………………それに、『復讐』もまだ終わっていないのに、君を本当の意味で幸せにできないよ」
「『復讐』、って?」
「前の人生の時に、僕の研究を盗んだ魔導師と、あやつに雇われた弁護士だよ! 見てろよ、この論文さえ発表すれば、ぎゃふんと言わせてやる!」
「ああ、それは無理ですね」
「……え、何で?」
「知らなかったのですか? その魔導師さんなら、とっくにお亡くなりになっていますよ?」
「──はああああああああああ⁉ そんなまさか!」
「……いや、今から十数年前の段階で、他ならぬお師匠様御自身の寿命が尽きようとしていたのですから、ほぼ同世代の先方さんがお亡くなりになっていても、おかしくは無いでしょう?」
「そ、そういえばッ⁉ ──だったら、弁護士のほうはどうなんだ⁉ 確か依頼人である魔導師よりも、二回りほど若かったと思ったけど?」
「ああ、『弁護士』と言う職業自体が、最近の『魔導AI』の興隆によって、完全に用無しとなり、全員廃業して路頭に迷っているそうですよ?」
「何だよ、『魔導AI』って⁉」
「このファンタジー世界に満ちあふれている、『妖精さん』たちによる、魔術的なインターネットのようなものですが、詳しくは本作の第2519話をご覧になってください」
「……そ、そんな、それでは僕は永久に、復讐を果たせないわけなのか?」
「何言っているのですか? むしろお師匠様は何もしなかったのに、知らぬ間に復讐が果たされたようなものじゃないですか?」
「はあ?」
「お師匠様は、件の魔導師や弁護士のことを、殺したいほど憎んでいたのでしょう? でも本当に実行したら、何もかも失ってしまうし、養い子の私にも迷惑がかかるから、思い止まっておられたのでしょう?」
「ああ、まあね」
「そんなことなんて、する必要は無かったのですよ! 今回の件でわかったように、『人は必ず死ぬ』のです! 師匠は私の秘術で若返ることができたのだから、あいつらのことなんか完璧に忘れ去って、心身共に健やかに、魔術の研究や肉体の鍛錬や社交性の向上に勤しんで、人生を謳歌しておられれば、自分の手を汚すこと無く、老いぼれどもは勝手に死んでくれるのですよ!」
「──君が僕に若返りの秘術をかけてくれたのって、まさかこのためだったのか⁉」
「実はわざわざ『若返りの魔法』を施す必要も無かったのですよ。要は、どんなに許せないやつがいようとも、そいつに手をかけたり、あるいはそれすらもできずに、悔しさのあまり自死を選んだりするとか言った、馬鹿げたことをする必要は無いってことなんです。──だって、『人は誰でも必ず死ぬ』のですから。魔導師だろうが弁護士だろうが、そんな糞どものことなんか綺麗さっぱり忘れ去って、とにかく自分が幸せに生きられるように、日々の生活をただ健やかに過ごしていけばいいのですよ。そうして憎い相手よりも、一日でも長生きすることができれば、あなたの『勝ち』になるのですからね♡」
「……僕の『勝ち』、だと?」
「お師匠様は、研究成果を盗んだ魔導師や、そいつに雇われた弁護士のことを、殺したいほど憎んでおられたんですよね?」
「ああ、うん」
「つまり、そいつらが死んでしまえば、満足なんですよね?」
「う、うん」
「──はい、お望み通り、お亡くなりになりました。これで満足なんでしょ?」
「い、いや、それは──」
「おや、何かご不満な点でも? まさか、どうしてもご自分の手で死なせないと、満足できないとか?」
「いくら何でも、そこまでは……………………………あれ? 確かにあいつらがもうこの世にいないと聞いて、むちゃくちゃ大喜びしたりはしないけど、それこそまるで『憑き物が落ちた』みたいに、何かどうでも良くなったような……」
「それは文字通りに、あいつらが『いなくなった』からですよ」
「……何だと?」
「第一の理由としては、実際に犯罪に手を染めたりと言った、『リスク』を一切背負い込むこと無しに、長年の宿願が叶ったからなのですが、実はそれよりも増して、もう『憎しみの対象が存在していない』と言う事実のほうこそが、大きいのです。言うなれば師匠は、これからは『後ろ向きの負の感情』なんかに囚われること無く、ただひたすら前向きに生きていくことができるのですよ」
「──‼」
「どうです、間違いなくお師匠様は、これまであんなにも憎しみを向けていた、魔導師や弁護士たちに『勝った』わけなのですから、これからは好きなだけ、美味しいものを食べたり、娯楽や旅行を楽しんだりして、人生を大いに謳歌なさればいいのですよ。──だって、既に死んだ者には、美味しい食事も、どんな娯楽も、好きなところに行くことすらも、まったくできないのですからね! これこそが『生者の特権』と言うものであり、つまり人生と言うものは、一日でも長生きできた者こそが、絶対的な『勝者』になれるのですよ♡」




