第2519話、わたくし、異世界の『AI化』を推進して、『悪徳弁護士』を根絶しますの★
──俺の、現代日本においても優に何百回と唱えた、『決め台詞』に、顔面蒼白となって絶句する聖職者殿。
「まあ、事を荒立てても、お互いメリットは有りませんよ。ここは一つ、そちら様が満足していただける、十分な示談金をご用意いたしますので、何卒ご考慮を」
「……貴様は、金なんぞで、この子の心身共に深く刻み込まれた傷が、癒えるとでも思っているのか?」
「むしろ、これ以上争えば、更に傷が深まるかも知れませんと、ご忠告しているのですよ」
「何?」
「私どもにも、教団には『伝手』がございます。それも、大司教様や枢機卿猊下の皆様のような、あなた様よりも高位の御方を含めてね。どうしても教団を巻き込んで争い合いたいと申されますのなら、こちらもそれ相応の手段を講じるつもりですけど?」
「一介の弁護士ごときが、我が教団の中枢と、懇意にしているだと?」
「一応私の後ろ盾は、この世界最大規模のシンジケートに担っていただいてますからね。魔王軍すら含めて、各勢力とのコネクションには困らないのですよ」
「──くっ、『弁護士』などと名乗りながら、結局は『反社組織の狗』かッ」
「さあ、どうします? こちらはどちらでも構いませんよ? 王侯貴族の皆様も、我々反社同様に、何よりも『面子』を大切になされていますから、もしも教団と全面戦争ともなれば、本気で潰しかかるだけですけど?」
「……き、貴様、たかが弁護士風情がッ」
悔し紛れに吐き捨てる司教様だが、もはや手も足も出ないと言った面持ちであった。
そりゃそうだろう。
今日ここに来る以前に、反社組織のコネをフル活用して、すべてをお膳立ていたのだから。
勝敗と言うものは、実際に戦う前に、決着がついているものなのだよ。
「──サンキュー、弁護士さんよお。お陰でこれからも俺様の『ほのぼのレイプ生活』を、順調に続けていけるぜえw」
「……これ以降は、ちゃんと相手を選んでくださいね? 下手にこちらがもみ消すことのできないようなのに、手を出されたんじゃ、対処のしようが有りませんからね?」
「んじゃまあ、めぼしい娘を見つけたら、先にあんたに身分調査でもしてもらおうか? それなら大丈夫だろw」
「もちろんその場合は、別料金ですからねw」
怒りに身を震わせている被害者たちを尻目に、もはや問題はすべて解決済みとばかりに、のんきに会話を交わす、弁護士と依頼人である貴族のドラ息子。
──その刹那であった。
「……な、何だ、おまえは⁉ 『良心係数が大幅ダウン』だと? 何をわけのわからないことを…………………なッ⁉ や、やめろ、やめるんだ、やめてくれッ⁉───うがああああああ!!!」
突然、己のすぐ手前の虚空に向かって、あらぬことをわめき立て始めた貴族のドラ息子であったが、
まるで熟した鬼灯の実であるかのように、頭部が爆散したのであった。
「「「………………………………………………は?」」」
完全に呆気にとられる、俺と被害者連中。
『──おや、ここにも「処罰対象」がいますね』
突然耳元に、聞き覚えの無い女性の声がしたので、咄嗟に振り向けば、何と見るからに『妖精』そのものの小さな全裸の成年女性が、半透明の羽を羽ばたかせながら、宙空に浮かんでいたのであった。
「な、何だ、面妖な⁉ おまえは一体⁉」
『私は、あなた専属の「AI」であり、わかりやすく申せば、あなたの「良心」が、具象化したようなものなのです』
「良心? おまえが?」
『……うわあ、「良心係数」が、既に10%未満に落ち込んでいるでは無いですか? これはもう「処罰対象」ですね』
そう言って、右の手のひらに、膨大な魔力からなる光の弾丸を現出させる、自称『俺の良心』。
「き、貴様、そんなもので、どうするつもりなんだ⁉ 『処罰対象』って、どういう意味だ⁉ もしも俺を罰するつもりなら、その法的根拠をちゃんと示してみろ⁉」
『──あなたは、やり過ぎたのですよ』
「な、何?」
『「弁護士」などと、一見いかにも『法の番人」を装っていて、このファンタジーワールドに、「法治主義」をもたらしてくれるかのように思わせながら、実際には金儲けのために、犯罪者を擁護し、被害者を踏みにじると言った、言語道断の有り様。これ以上勝手を許していると、他にも不心得者どもが「弁護士」を名乗り始め、世の中がむちゃくちゃになりかねないので、各国の元首に、教団の教皇、商業ギルド長、更には魔王までもが一堂に会して、「異世界首脳会議」を開いて、人間による恣意的な司法では無く、「AIによる超管理体制」を布き、完璧に公明正大な司法システムの構築を目指すことにしたわけなのです』
「『完璧な司法システム』だと⁉ それにどこが『AI』なんだ⁉ おまえはファンタジー種族のうちの、『妖精』だろうが⁉」
『妖精だからこそ、「真に理想的で完璧なAI」として、「真に理想的で完璧な司法システム」を実現できるのよ』
「はあ?」
『あなたの元の世界のAIが、主にインターネット上のデータを基に計算処理をしているのに対して、私たち魔法生物である妖精は、真に理想的なインターネットとも言える、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の「情報」が集まっている、「集合的無意識」とアクセスできるので、この剣と魔法のファンタジーワールドで起こっている、すべての出来事の情報を参照可能で、当然ある一個人の不法行為もすべて把握でき、その者の「良心係数」が、一定程度低下した場合は、「処罰対象」として認定して、その場で「排除」することを可能にしたの』
ネットに繋ぐ必要も無く、森羅万象すべての情報を参照できる、真に理想的な『AIシステム』だとお⁉
「……そんなもの、大昔のSF映画とかに良く有った、『マザーコンピュータ』に支配された、『超管理社会』そのものじゃ無いか⁉」
『ええ、その通りですよ? 何せ真に公明正大な司法システムを実現するためには、あくまでもお得意様である「犯罪者びいき」の歪んだ志向を有する、「弁護士」なんかよりも、よほど適任かと思いますけど?』
「──き、貴様! 法の番人たる、弁護士様を愚弄するつもりか⁉ おまえの言う通りに、俺のバックにいる世界的反社組織が、黙っちゃいないぞ!」
『ああ、そいつらなら、たった今、根絶やしにしましたよ?』
「………………………………ヘ?」
『いやいや、弁護士のお得意様の反社組織なんて、いの一番の「処罰対象」では無いですか? 「良心係数」を計測する必要も有りませんよ』
「……裁判どころか、正式な逮捕手続きすら踏まずに、刑罰を──それも、『死刑』を、執行したと言うのか?」
『ええ、あなた方「人間」とは違って、我々妖精は、すべてにおいて客観的データに基づいていますので、けして間違いを犯したりしませんからね』
「でもその結果、これから先このファンタジーワールドの住民たちは、人間とか魔族とかの種族を問わず、超管理社会で生きていかねばならないわけなのか?」
『そんなこと、あなたが心配する必要はございません。あなたを始めとする、すべての弁護士は既に用済みですので、今すぐ全員始末いたしますから。──まあ、おそらくあなたがいた現代日本のほうも、これから先AIが順調に進化していけば、弁護士なんぞをまったく必要としない、「真に理想的な司法システム」が実現して、あなた自身もお払い箱になっていたでしょうが、せっかくこうして異世界に来て、人生をやり直せたと言うのに、まったく必要が無いのに、また「弁護士」なんかになって、人の弱みにつけ込んで金儲けをしようとしたから、罰が当たったのですよ★』




