第2518話、わたくし、『弁護士』の力で異世界でも無双しますの☆【後編】
──もちろん、基本的に世界全体が『無法地帯』である異世界なんだから、一見『悪の限り』を尽くそうとも構わないように思えるが、むしろ『法が無い』からこそ、『イリーガル組織』にとっても、厄介だったのだ。
例えば、王国の治安組織に睨まれてしまえば、問答無用に正規の騎士団等を派遣されて、根絶やしにされることも十分有り得た。
汚い手を使って陥れた、商売敵の反社組織が、裏で『魔族』と繋がりが有ったりした場合は、目も当てられないであろう。
それは、本来何の力も無いはずの一般庶民に対しても同様で、図に乗って舐めてかかったら、それこそ公権力や別の反社組織にコネが有ったり、世界宗教クラスの教団の熱心な信徒だったりした場合、非常にまずい結果となろう。
そこで反社組織としても、『保険』として、各勢力とコネクションを築くのに、精を出すことにしたのだ。
組織内の腕の立つ者や、騎士崩れや魔術師崩れを集めて、『傭兵団』を結成し、各国に派遣したり、各国の豪商の用心棒として雇ってもらったり、
一部の権力者と裏でつるんで、大陸規模の麻薬等の販売ルートを共有したり、
それらで儲けた莫大な資金を、王侯貴族に賄賂としてばらまいて、支配層にも影響力を及ぼしたり、
魔族に対しては、反社ならではの蛇の道は蛇的な『裏ルート』を使って、人間側との仲介役を担ったりしたのである。
これによって、反社組織だからと言って、問答無用に排除されることは無くなった。
──しかしそれでも、他の勢力とのトラブルが、完全に無くなったわけでは無かった。
いやむしろ、手広くいろいろな勢力とコネを作ったために、騒動の種は以前よりも多くなったとも言えた。
例えば、ある勢力の依頼を受けて、いろいろと暗躍している際に、対抗勢力に目を付けられて、一触即発の状況に陥ってしまうとか。
そう言った場合、結局最後には、『その場の交渉力』こそが、必要になってくるわけなのだ。
──そして、まさにそこにこそ、我々『弁護士』の、付け入る隙が有ると言うものであった。
言うなれば『弁護士のお仕事』とは、『正義の味方』でも『勧善懲悪』でも無く、
むしろ、人の『弱みにつけ込む』ことなのだ。
……こう言うと、いかにも『ゲスっぽい』けど、いやはや、これが案外難しいもので、それこそ誰にもできることでは無かった。
まず、各国の法令や慣習法などと言った、『基本的なルール』を熟知するのはもちろんのこと、実はそれよりも重要なのは、人間の王侯貴族とその領民、多国間に跨がる大商人、世界規模の宗教組織とその信者、魔王を中心とする魔族や魔物勢力、そして弁護士の最大の『顧客』である反社組織等々の、それぞれの特質や民度を念入りに調べ上げた後に、実際の案件においては、相手の個人情報も完璧に把握すべきだが、実は俺の『弁護士のチートスキル』だったら、これらについて自動的に認知することが可能であったのだ。
──だったら後は、前世の現代日本でやっていたように、法知識や情報的優位を笠に着ての、『強きを助け弱きを挫く』を徹底すればいいだけであった。
例えば、前世の現代日本でも良く依頼を受けたものだが、『婦女暴行』の実行犯──いわゆる『レイプ魔』を、まったくのお咎めなしに収めることなんて、朝飯前であった。
『レイプ』そのものが、男である加害者よりも、女である被害者のほうが、圧倒的に『弱い』から起こった、不幸な事件であるが、
実は何と、事件が発覚後においても、それは変わっておらず、被害者のほうの圧倒的な『弱み』につけ込めば、『強者』である加害者のほうは、始終有利に振る舞えるのであった。
それは、この剣と魔法のファンタジーワールドにおいても、同様であったのだ。
今回の事件そのものについては、貴族のドラ息子が、領民の村娘をお遊びで手籠めにすると言った、極ありふれたものであった。
本来なら、圧倒的に優位な貴族の権力によって、領民なぞ泣き寝入りさせればいいだけだった。
──しかし厄介なことにも、その娘の身内に、この大陸で最も勢力のある宗教団体の実力者がおり、信心深く魔力適性も有り、将来の『聖女候補』として有力だった彼女の後見人を務めており、その純潔を穢したことは、けして貴族といえど許すことはできず、宗教裁判にかけて厳罰に処すなどと言い出したのであった。
多国間にわたって大陸中に信徒がいて、世俗の権力すら超越している宗教団体に対しては、王侯貴族といえども好き勝手することはできなかった。
しかも、『非』は間違いなくドラ息子のほうに有るので、非常に分が悪く、他の上位の貴族の力を借りることすらもできず、万事休すとなってしまっていた。
そこで、ドラ息子が頼ったのが、御多分に漏れず、『反社組織』であった。
……一体、どこまで愚かなやつなのだろうか。
おそらくは、教団の実力者ごと、被害者の娘を『始末』しようとでも思ったのだろうが、そんなことをしでかせば、教会と王国との対決が決定的なものとなり、大陸全土にわたっての争乱にも発展しかねなかった。
──だが運のいいことに、この時点では既に、この世界の裏社会を仕切っている『反社組織』のすべては、弁護士であるこの俺様が支配していたのだ。
これは異世界に限らず現代日本でも変わらないのだが、『反社組織』だからと言って、何でもかんでも好き勝手できるわけでは無く、むしろ法律スレスレのところで利益を最大限にすることを旨としているので、どこよりも法令を知り尽くしており、公権力すら含めてすべての勢力と繋がりを持ち、特定の組織や個人との諍いを極力避けるためにも、常に相手の『弱み』を把握し、いったん事が起こればそこにつけ込むことにより、自分たちの言い分を強引に呑ませていたのであった。
この、『弁護士と反社組織の二人三脚』体制は、現代日本ではごく普通のことであったが、剣と魔法のファンタジーワールドである異世界においては、非常に画期的なことであったのだ。
基本的に『何でもアリ』で、種族が違えば交渉よりも先に戦争になりやすく、そもそも戦闘能力に大幅な格差が有ったり、長い諍いの歴史の結果相互理解が困難だったりする中にあって、イリーガルな組織だからこそ、表向きはどの勢力とも距離を置きつつ、そのくせ『ヨゴレ仕事』ならどの勢力からも頼りにされているので、各勢力の支配層から下層民に至るまで、世界規模のコネクションを構築しつつ、イリーガルな関係だからこそ、相手の『弱み』を掴むのが容易であったのだ。
つまり、『反社組織を後ろ盾にした弁護士』ならば、現代日本同様に、この異世界においても、『紛争の仲裁役』に打ってつけと言うわけなのだ。
ただし、公的な司法のように、平等かつ中立である必要は無かった。
むしろ、反社組織はもちろん、『弁護士』などと言うものは、人の争いごとこそが『飯の種』なのであって、すべては『金』を出してくれる『依頼人』側のために行動をして、係争相手に対しては、法令や慣習の知識はもちろん、徹底的に調べ上げた個人情報に基づく『弱み』を、情け容赦なく突くことで、こちら側が有利になるように決着をつければそれでいいのである。
例えば、今回の依頼人は、自他共に認める『婦女暴行』の実行犯である、貴族のドラ息子であり、係争相手は、この世界の多くの人々から信奉されている宗教団体の、高潔なる人格の持ち主にして、それなりの権力や影響力を有する司教様であって、あまりにもこちらが分が悪いように思えるであろう。
しかしこんな状況をひっくり返すことなぞ、『人の弱みにつけ込むプロフェッショナル』である、我々弁護士にとっては、日常茶飯事に過ぎないのだ。
「──司教さん、ここのところは『示談』で済ませましょうや。そっちのほうが、結果的には、あなた方にとっても有益かと思いますが?」
「──なッ⁉」
俺の『提案』の言葉を聞き、さすがに呆気にとられる司教様。
「君は何を言っているのかね⁉ どうして既に罪を認めている者と、被害者であるこちらが、示談なんかをしなければならないのだ! ちゃんと神の裁きを受けて、罪を償いたまえ!」
「おや、いいんですか? こちらが公的に罪を償うと言うことは、事件そのものも、公的に明らかになると言うことなのですよ? そちらのお嬢さんが『婦女暴行の被害者』だと言うことが、あまねく知られることになれば、将来何かと差し障りが有るのでは無いでしょうか?」
「──‼」
(※次回に続きます)




