第2517話、わたくし、『弁護士』の力で異世界でも無双しますの☆【前編】
「──これにて、今回の事件はすべてにおいて『解決』いたしました。双方異論は有りませんね?」
俺の『締めの言葉』を聞いて、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべたのは、『クライアント』である田舎貴族のドラ息子とその取り巻きだけで、『被害者』側の家族や親族のほうは、当然のように苦虫を噛み潰したような表情を隠そうともしなかった。
──しかしそれでも、彼らからは具体的な、抗議や不満の声は出てこなかったのだ。
……いやあ、すごいものだ、この世界に転生するに当たって女神様からもらった、俺だけのチートスキルである、『弁護士の力』ってやつは。
最初は、剣と魔法のファンタジーワールドで、弁護士の力なんて、何の役に立つのかと、ガッカリしたものだったが、
──意外なことに、このスキルの『出番』は、結構有ったのだ。
確かに『なろう系』ではお馴染みの、王侯貴族や、全世界的宗教組織や、豪商や、魔王を頂点とする魔族なんかの、いわゆる『覇権集団』は、あらゆる意味で強大で、一見何でも好き放題にできるものだと思われよう。
……しかし、現実問題としては、そういうわけには行かなかったりするのだ。
まず何と言っても、王侯貴族が自分の国で好き放題していると、本来なら『法令』によって守られるべき様々なルールがうやむやになって、政治や経済がスムーズにいかず、支配体制にほころびが生じると同時に、本来無力のはずの庶民の不満が溜まり、一大反抗勢力ともなり得ず、下手すると国家転覆すら有り得るので、やはり『人治』よりも『法治』のほうが望ましいであろう。
これが宗教組織ともなると更に顕著で、無数の信者の『信仰心』によって成り立っている限りは、トップの教皇を始めとする上層部にどんなに富や権力が集中していようと、腐敗が進めば人の心は離れていき、国家権力と敵対したり、別の宗教団体との勢力争いに負けたりすることも十分有り得て、けしてその存在基盤は盤石では無いのだ。
実はこれは、一見国家や宗教に囚われず自由度が高いと思われる、豪商等の国家横断的な巨大経済勢力も例外では無く、むしろ『信用度』や『同業者間の仁義』の重要さは、国家や宗教団体以上とも言えて、例えばあまりにもあこぎなやり方でライバル商人を蹴落としたりして、その結果『悪評』が立って、いったん信頼を失えば、むしろここぞとばかりにその他のライバル商人たちから袋だたきに遭って、商売が立ち行かなくなることなぞけして珍しいことでは無かった。
……それでは、本来いかにもルール無用で傍若無人の権化と思われる、魔王様率いる魔族たちは、どうかと言うと、やはり仮にも『国際社会』の中で生きていくためには、完全に『ルール』や『他人との関係』を無視するわけにはいかないであろう。
凄い当たり前のことを言って、あらゆる『なろう系』を全否定して申し訳ないのだが、たとえ魔族であろうが宗教団体であろうが、『国家』的な権力領域を司っている限りは、他国との『交易』等を始め、何らかの関係を持たなければ、存在できっこないのである。
現在の現実の『地球』を見ればわかるように、資源と言うものは世界各国に『偏在』しているので、国民を過不足無く生活させるためには、外国との交易無しには国家は成り立たないのだ。
もし仮に魔王の国に、魔族が生きていくために必要な資源がすべて有るとしたら、他国と交易をする必要も無く、わざわざ人間なぞを相手にして、良好な関係を結ぶ必要は無いであろう。
──だが、逆に考えれば、そのように完全に自給自足ができると言うのであれば、わざわざ人間の国に喧嘩を売って、領土や資源を奪ったりする必要も無いわけで、魔族が他国の人間に横暴な行為をすることも無くなるのだ。
……まあ、必要な資源がすべて揃って、国民である魔族がみんな平和かつ豊かに暮らしている魔王様の国なんて、偏見かも知れないが、あまり想像できず、やはり『必要なものは近隣諸国から分捕ってやろうぜ!』と言うほうが、ふさわしいであろう。
──だが、ここでもやはり、地球における第二次世界大戦を始めとする、実際の戦争の歴史を思い出して欲しい。
そもそも、他国を侵略してでも是が非でも入手すべき『重要な資源』が足りていない状態で、まさにその重要な資源が潤沢にある国家に喧嘩をふっかけて、勝てる道理が有るだろうか?
『大東亜共栄圏』を樹立しようとした、大日本帝国は、どうなった?
『アーリア人種の生存圏』の拡大を夢見た、ドイツ第三帝国は、どうなった?
考え無しの『短期決戦』で挑んでいったものの、当然『資源大国』のほうはどっしりと構えて『長期戦』にもつれ込ませて、『無限の消耗戦』になってからは、当然『資源無き国』のほうから疲弊していき、国土全体を焦土に変えられるまで叩き潰されてしまったでは無いか。
もしかしたらこの世界の魔族の国家も、最初のうちは日本軍やドイツ軍みたいだったかも知れない。
ド三流の『なろう小説』みたいに、「魔族は本能的に人間を殺そうとするのじゃあ〜」と言う、馬鹿みたいな設定とかは有り得ないとしても、「欲しいものは力で奪い取れッ!」と言う、一見魔族らしくあるやり方も、現実問題『無理』だと言わざるを得ず、長い歴史の中で魔族たちも十分に学んできて、基本的に人間たちとは、平和的かつ友好的な関係を維持して、お互いに必要なものは、正式な経済的『交易』によって補い合うようになっていることであろう。
つまり『なろう系の世界』においては、いかにも好き放題やっている感じである、王侯貴族や豪商や宗教組織や魔王たちであるが、『社会の一員』として生きていくためには、力主体の上下関係ばかりにこだわらずに、他者との平穏な友好関係を維持すべきなのであって、もしも何らかの『争いごと』が発生した場合は、それこそ『力押し』で解決するなんてもっての外であり、何らかの『ルール』や『抑止力』が必要になるのだ。
──そして、それを担うべき格好なチートスキルこそが、『弁護士』なのであった。
……本当に、このスキルは、素晴らしい。
実は現代日本においても弁護士であった俺が、六法全書を始めとするありとあらゆる法令や、重要な判例の数々を、すべて頭に叩き込んでいたように、
この世界の各国の法律、慣習法、因習村の因習、各部族のような最小単位のコミュニティの掟、多種族間での個々の取り決め等々、大なり小なりの『ルール』が、必要な時に頭の中に浮かんでくるようになっているのだ!
これなら、異世界人が何らかのトラブルに見舞われた際に、大いに力になることができるであろう。
そうなのである。
俺はこの異世界においても、以前同様『弁護士』として、前世以上に濡れ手に粟の大儲けをしようと思い立ったのであった。
それと言うのも、どうやらこの世界には、『弁護士』に類する者が存在しないようなので、いくらでも稼いで儲けを独り占めできるのだ!
「……そもそも『弁護士』がまったく存在していない世界で、どうやって『弁護士』としてやっていけると言うんだ?」──って?
「確かにいろいろと権利関係が複雑な、王侯貴族や豪商なんかには、大いに『ニーズ』が有りそうだが、いきなり『弁護士要りませんかあ』とか売り込んでいったところで、相手にしてもらえるとは思えないが?」──だと?
心配、御無用。
言ったろう? 俺は以前も弁護士をやっていたって。
『蛇の道は蛇』。
たとえ世界が変わろうとも、『弁護士へのニーズ』は必ず存在しているし、
俺は、その『業種』を、誰よりもよく知っている。
弁護士を、最も必要とする『業種』。
言うまでも無く、それこそは、『反社組織』であった。
現代日本同様、反社組織ほど、弁護士を必要とする業種は無いだろう。
(※次回に続きます)




