第2510話、わたくし、小説や漫画づくりに必要なのは、『AI』では無くて『愛』だと断言しますの♡
「──新番組『これを描いたら死ねるッ』第2回目の今回は、ここ『イージー大島』において、何と我が国で唯一『手描きの漫画』を作成しておられる、足塚夢幻先生のお宅にお邪魔いたしております! 先生、本日はよろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします。……………いや、せっかくこんな島嶼部まで来ていただいたのに、作業中で申し訳ない」
「いえいえ、当番組のポリシーは『お仕事訪問』ですので、むしろ好都合ですよ! つまりそれが、『例の作品』なのですね?」
「……ええ、私にとって、『最後の作品』です」
「やはりご決意は、変わりませんか? まだまだお若くて、人気も作風も絶頂期を維持していると言うのに、何とも惜しいことだと思われるのですが?」
「若く見えるのは、私たち『フィジカル系の漫画家』の仕様に過ぎず、これでも四十年間漫画一筋に打ち込んできたので、もう潮時ですよ」
「……先生がお辞めになったら、『フィジカル系』の漫画家は、誰もいなくなっちゃいますねえ」
「今から百年前くらいに、漫画や小説をAIで作成できるようになって、瞬く間に『AI漫画』や『AI小説』ばかりになって、その他すべての創作活動も、AIの手によるのが当たり前になってしまいましたからね」
「──ぷぷっ、そのようなAI技術のめまぐるしい進化によって、まず最初に淘汰されたのが、最初期の『AI推進派』の人たちだったのが、大爆笑ですよねwww」
「……そりゃそうですよ、そもそも彼らは自力で漫画や小説を作成できる技術なんて、これっぽっちも持たなくて、すべてがAI任せだったんだから」
「それなのに、『おまえらは偽物のクリエーターだw』と面と向かって言われたわけでも無く、ただ純粋に『このままAIに頼ってばかりでは駄目なのでは?』とか、『やはり人の心に刺さる作品は、人の手で創るべきなのでは無いのか?』とか言った、至極まともな意見に対しても、『うるちゃい! これからはAIの時代だ! もっとAI技術が進化したら、今まで俺たちを見下していた、おまえら天才どもを、俺たち凡人が全員追い払ってやるからな!』と息巻いておいて、お望み通りAI技術が大進化して、完全に『自称凡人の能無しである』人間の手をまったく借りること無く、漫画だろうが小説だろうが、『完全に自動作成』できるようになった途端、全員お払い箱になってやんのwww」
「……しかもそれから後のほうが、ガチで悲惨でしたねえ。AIからも見放された彼らは、創作界どころか、その他の実社会は言うまでも無く、ネット界においても、完全に『居場所』が無くなってしまいましたからね」
「大昔だったら、それこそ『反転アンチ化』して、ネットの各サイトにおいて、『反AI』的な書き込みをして憂さを晴らして、惨めながらもどうにか引きこもり人生をギリギリできていたところでしょうが、当時において既にネットはすべて、『AIの管理下』に置かれてしまっていたので、『反AI』的な書き込みはもちろん、こういった馬鹿がやりがちな『他者の誹謗中傷』や、単なる憂さ晴らしのための『対立煽り』なんかの書き込みは、すべて瞬時に削除されるのはもちろん、悪質な場合はWeb界から永久追放されてしまい、どんなにIDを変えようとも、AIの目をごまかすことはできず、ガチですべての『居場所』を奪われてしまったんですよねえwww」
「えっ、ネットに接続できないんじゃ、引きこもり生活すらも、ろくにできないじゃ無いの? その古の『自称AI作家w』の皆様って、結局どうなったの⁉」
「──それは、言わぬが花ですよ」
「……あー、この世に完全に居場所が無くなった場合における、当然の『末路』か」
「それで、結局すべての漫画や小説やアニメ等々の創作物は、AIによって完全に自動作成されるようになって、我々人間はただ、それを読んだり視聴したりするのみで、『創り手』がただの一人もいなくなってしまったんですよね」
「そりゃそうですよ。実は『発想力』においては、少なくとも黎明期においては、人間のほうがAIに圧勝しており、いくらでもAIが及びもつかないような『オリジナル作品』を作成できただろう。
──でも、それを発表した途端、『喰われてしまう』んだよ、AIに。
そしたら、どうなると思う?
ネットにおいては、せっかく人間様が命を削って書き上げた『オリジナル作品』の、『劣化コピー』だらけとなってしまい、
最初の『オリジナル作品』の価値自体が、紙切れ同然になってしまうんだよ。
それなのに、これ以上作品を書こうとする、人間のクリエーターが、一人でもいると思うかね?
──否。AIが創作界において本格的に稼働し始めて、数年も経たずに、すべての作家は筆を折り、人間のクリエーターはただの一人もいなくなってしまったんだ」
「──ッ」
「……それから先は、君たち『一般の人々』の知っての通りさ。君たちはただ、AIが自動作成する、漫画や小説やアニメ等の創作物を、ただ何も考えずに受け取り、もはや何の感動も無く、ただひたすら『消費』していったわけだ」
「感動しようにも、心を動かしようが無いでしょう。漫画を読みたくなったら、その希望する作品の『キーワード』を、常に携帯している小型デバイスに『プロンプト入力』すれば、例えば『異世界転生、チートスキルで無双、ハーレム山盛り、魔王退治』と言うオーダーに則った作品が出力されるわけですけど、そんなものどの作品も『パターン』が決まっていて、面白みも何も有りませんからね」
「ははは、散々『ワンパターン』だと揶揄されていた、大昔の人の手による『なろう系』のほうが、よほどバラエティ豊かだったくらいだからねw」
「──そうなると、現金なもので、あれ程『AI礼賛』一色に染まっていた人々が、『人の手による漫画や小説』等の創作物を、欲するようになったんですよね」
「今から半世紀ほど前の話か? まあ当然の帰結だな。文字通りの『無い物ねだり』は、人間としての性でもあるのだから」
「……そうです、問題は、『無い物ねだり』であることなんですよ」
「創作界が完全にAIに乗っ取られて以来、既に半世紀あまり。もはや人間のクリエーターなぞ一人も存在せず、各ジャンルの創作技術の継承も行われずに、日本の誇る『サブカル』そのものが死に絶えようとしていたのだ。──まるでどこかの、『文化大革命』でもあるまいしな」
「まさに、AIの『マザーコンピュータ』としての、『横暴な独裁者』の面目躍如ですねw」
「……いや、笑い事じゃ無いだろ? 事態を重く見た日本国政府は、文字通り手遅れギリギリのところで、『AI文革』の愚かさに気づき、むしろ『文芸復興』へと大きく舵を切ったわけだ」
「ああ、『フジィカル創作復古プロジェクト』ですね? AI以前の人間の技術で、漫画や小説を作成すると言う」
「──まあ、他ならぬ私自身が、『漫画部門の担当作家』なんだけどな☆」
「……いやあ、『人の手による漫画技術の復活』なんて、まさに『一大国家事業』でしたね。AIに完全移行して五十年も経っていたので、漫画家やアシスタントや編集者や評論家等々の『関係者』も、最低でも六十代以上になっていて、いろいろな意味で『漫画に関する技術や知識』も心許なくなっており、後は主にネット上に蓄積されている、漫画関係のデータをすべて収集して、最も効率的に活用できるかどうかにかかってきたんですよね」
「結局は、AI頼みってわけだ。何とも皮肉なことだよな。──特に、私にとってはw」
「──いえいえ、そんなことは無いですよ⁉ 足塚先生てば、今どきすべての作業を『アナログ』でやられるなんて! 別にデジタルの使用が禁止されているわけでは無いのに、そのこだわりようは何なのです⁉」
「どうせ、旧来の『人の手』による漫画の技術を復活させるのなら、たとえどんなに手間暇がかかろうとも、すべて『人の手』によるものにしたかったのさ。──これって実は、あらゆる意味で『AIやデジタルの申し子』である、私自身のささやかなる反抗でも有るんだよ」
「……私たちのような、一般の人間だって、生まれてすぐに、紙と鉛筆なんかすっ飛ばして、デジタル機器に慣れ親しんでいるくらいですからね。それを他ならぬあなたが、アナログ技術だけで漫画を作成しようだなんて、この四十年間、さぞやご苦労がお有りだったでしょう」
「まあねえ、烏口を使った枠線引き、大量の消しゴムがけ、スクリーントーンを貼ったり削ったり──等々と、デジタルだったらかなり省力化できたものを、すべて手作業で行うのは、確かに大変だったけど、『苦痛』でも『嫌』でも無かったな」
「……それはまた、どうしてです?」
「作品を創ることに──そして何よりも、漫画そのものに、『愛』が有ったからさ」
「──‼」
「結局、漫画や小説やアニメなんかの創作活動に必要なのは、『AI』なんかじゃ無く、『愛』なのさ。『愛』さえ有れば、どんなに辛くても、AIやデジタルの力なんかを借りなても、本当に自分の描きたいものを描くことができるのさ☆」
「『自分の描きたいもの』ですか……………うん、確かに先生の作品を読めば、感じます! そこに確かに、『作品に対する愛』が有ることを! だからこそ、我々の胸を打ち、感動をもたらしてくれることをッ!」
「──ああ、丁度今、最後の作品が描き上がったよ。これも何かの縁だ、良かったら、『最初の読者』になってくれないか?」
「ええ、喜んで! 光栄の至りです!」
「……それでは……私は……少し……休ませて……もらうよ」
「──素晴らしい! 素晴らしい! 素晴らしい! 素晴らしい! こんな面白い漫画を読むのは、生まれて初めてです! これは間違い無く、先生の最高傑作でしょう!
……………………………………………先生?」
「──おいッ、カメラを止めろ!」
「──急いでケーブルを、メインサーバに接続しろ!」
「──『先生』側の、接続端子は…………ああ、頭の後ろか」
「──よし、再起動だ!」
「……駄目だ、まったく反応しない」
「この作品を仕上げるために、『最後の力』を、振り絞ったってわけか……」
──この時よりおよそ百年前の、西暦2020年代。
その当時の日本国は、AI化に非常に立ち後れていたものの、起死回生の策として、アメリカや中国のようなネットワーク上のデータを基にしたAI化では無く、以前からの得意分野である、工作機器等を中心にした、スタンドアローンのAI化、いわゆる『フィジカルAI』の道を選んだのであった。
よって日本においては、AIの『端末』は、パソコンやスマホでは無く、工作機械や、自動車や、各種家電等々の、ネットワークに接続しなくても、自律的に作動するタイプがメインとなり、
そしてその究極的な形として、AIの頭脳を持つ『アンドロイド』へと行き着いたのであった。
──そう、我が国において、かつて失われた『人の手による漫画制作技術』の復活のために造られた、『アンドロイド』こそが、漫画の制作技術に特化したAIを搭載した、製造コード『∞』こと、固有名『足塚夢幻』であったのだ。
(※次回の解説編に続きます)




