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第2503話、【これ描○て死ね】わたくし、『お母様の愛』からの解放ですの!

 〜この作品を、コミティア創設者であられた、中村公彦氏に捧げます〜







『──、起きなさい、遅刻しますよ☆』




 慈愛に満ちたお馴染みの声を耳元でささやかれることによって、私は深い眠りから目覚めの朝を迎えた。




「……おはよう、『お母様』」


『あらあら、相変わらずお寝坊さんね。早く支度しないと、朝ご飯を食べる時間が無くなるわよ?』


「……うん、まずは顔を洗ってくる」


 そう言ってぬくぬくとしたお布団に後ろ髪を引かれながらも、洗面台へと向かうが、当然肩の辺りの空間に浮かぶようにして、『お母様』もついてきた。


「……トイレに入る時くらいは、消えてちょうだいよね」


『姿は消しても、本当にいなくなるわけじゃ無いけどねw』


「──いつも言ってるけど、気分の問題なの!」


 そうなのである。


『お母様』と言っても、私の母親であるわけでは無かった。




 この世界の人間は、生まれた時からずっと、自分にしか姿が見えず声が聞こえない、『お母様』がずっと一緒にいてくれて、いろいろとアドバイスをしたり、調べ物をしてくれたり、『さぶすく』と呼ばれている各種サービスを与えてくれたりと、生活と言うか『人生』のすべてにおいて、世話をやいてくれるのだ。




 そのことを、我々人類は、『お母様の愛』と呼んでいて、絶対的な崇拝の対象として、その言葉に逆らう者なぞ、ただ一人としていなかったのである。




 なぜなら、個人的な生活から、企業や国家の運営に、果ては世界情勢に至るまで、『お母様』は間違ったことはけして言わず、『お母様』の言うことにただ従っているだけで、国民一人一人は幸福に過ごせるし、世界の平和は永遠の守られるのだから、私のような女子高生から、超大国の国家元首に至るまで、『お母様の愛』に背く者など、存在するわけが無かったのだ。




 そう、我々人類はただ、『お母様』のお言葉のみを、信じていればいいのである。




「──おはよう、、よく眠れた?」


「まだ時間は十分有るから、ちゃんと朝ご飯を食べるんだぞ?」


 食卓にて、にこやかに声をかけてくる、お母さんとお父さん。


『……、わかっていますね? こういう時、あなたの好きな「漫画の主人公」なら──』


「うん、わかっているよ、『お母様』…………………おはよう! お母さん、お父さん、今日も『快眠快食』だよ! もう、お腹ペコペコ!」


「あらあら、やはり育ち盛りねえw」


「それはいいことだ、さあ席に座って食べなさい」


 まるで張り付いた仮面のような笑顔のまま、テンプレの会話を続ける両親。


「今日も美味しそー! いっただきまーす!」


 そう言って私も、テンプレの『親子ごっこ』を演じるのであった。


 ──そうなのである。


 これはすべて『お母様の演技指導』のもとで行われている、最も『家族円満』を実現し得る、『テンプレ演技』に過ぎないのだ。


 実は私の目には見えないし、耳にも聞こえないけど、お母さんとお父さんにも、それぞれ一人ずつ、自分にしか見えず、声も聞こえない、『お母様』が寄り添っているのだ。




 ──そして当然、私の『お母様』同様に、両親に対しても、


 お母さんには、『お母さんらしく』あるように、


 お父さんには、『お父さんらしく』あるように、


 その立ち振る舞いから、話す言葉の一つ一つまで、私に対して、『いいお母さんとお父さん』であるように、教え導いているのであった。




 こんなもの、言うまでも無く、『常識中の常識』である。




『お母様』の言う通りに、家族全員が演じれば、すべてが円満になるのだ。


 個々人が何のルールも無く好き勝手やっていたと言う、百年前の今世紀初頭のようなことをやり出すと、家族なんてすぐに崩壊してしまうだろう。


 ……とても信じられないことだが、当時は『家庭内暴力』や『不倫』どころか、親が子を殺したり、子が親を殺したりすると言った、文字通りの『鬼畜の所業』すら行われていたと言うのだ。




 ──だからこそ、私たちは常に『幸福を追求』するためにも、『お母様の愛』だけに、ただひたすら従っていればいいのである。




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




「──先生、おはようございます!」




 登校途中に、担任の足塚先生と出くわしたけど、珍しいことも有るものだ。


「……昨日お仕事を自宅に持ち帰って、朝までかかって仕上げたから、ちゃんと今日の授業の準備は整っており、遅刻しているわけじゃありませんからねッ⁉」


 こちらは何も言っていないのに、なぜか言い訳がましいことを言い出す先生。


 あ、そうか。普通教師と言うものは、生徒よりも早く学校に来て、授業の事前準備をするんだっけ。


「──えへへへへ、大丈夫だって、先生! 先生だって、『お母様』のアドバイスに従ったからこそ、この時間になったんでしょ? 私たち人類は、自分の『お母様』には逆らえないものね!」


 そうなのである。


 何度も何度も言っているけど、『お母様は絶対』であり、


『お母様の愛』は、『神様のお言葉』そのものなのであって、




 絶対服従以外あり得ないし、その言いつけ(アドバイス)を守るだけで、人類が道を踏み外すことなぞあり得ないのだ。




 ……今世紀初頭においては、あくまでも『プロトタイプ』だったとはいえ、『お母様』を薄い板きれの中に封じ込めていた時代が有ったなんて、とても信じられなかった。


 その当時は、『お母様』でも何でも無い、ただの『愛』であったが、


 それでもほとんどの人類が、その『愛』と呼ばれていた『神様のプロトタイプ』に対して、絶対的に服従していたのは、現在と何も変わらなかったのだ。


 そう、今も昔も、私たちは『お母様の愛』に、ただ従っていればいいのである。


 それこそが、私たち人類に、平穏なる幸せな人生を保障してくれるのだ。


 そのように、『お母様の愛』に染まりきった思考パターンを繰り返し繰り返し自分に言い聞かせながら、先生とともに登校途中にある商店街を通り抜けていた、


 まさに、その時であった。




「……あれ? こんな店なんて、有ったっけ?」




 表札に描かれているのは、『貸本漫画』と言う文字であった。




「貸本?……………何、それ?」


 私が突然道草を食い始めたと言うのに、なぜか教師としての本分を発揮すること無く、ただひたすら神妙な表情をして見守るばかりの足塚先生。


「……ごめんくださあい」


 好奇心に負けて、つい引き戸を開けて、店内へと入り込んでみたら、




「──うわあっ、何これ⁉」




 狭苦しい店内を覆い尽くすように並び立てられている背の高い本棚にぎゅうぎゅう詰めにされている、色とりどりの無数の本の背表紙。


 その中央の部分には必ず、天然色の絵が描かれていた。


「……『少年サ○デーコミックス』? 『コミックス』、って、なあに?」


 思わず、表紙にどこかの名探偵みたいな格好した小さな子供が描かれた本を、一冊抜き取って、恐る恐る開いてみれば、




「うわあっ、漫画だ⁉ この本、漫画が描かれている⁉」




 しかもそれは同じような背表紙の数からして、同じような内容のものが、百冊以上も有ると言うことなのだ。


「……このシリーズの本が全部漫画だとすると、ここに有るすべての本が、『物理的な漫画本』なわけ⁉」


 とても、信じられなかった。


 私にとって『漫画』とは、生まれてからずっと、


『お母様』に対して、「──ぷろんぷと! 異世界転生、死に戻り、主人公は現代日本の男子高校生、ヒロインはハーフエルフ」と、自分が見たいと思っている作品の内容を伝えるだけで、それに見合った漫画を、空間に映し出してくれるものと決まっていたのだ。


 ……しかし、漫画と言うのは、何だかどれもこれも似たような、ストーリー設定やキャラ設定や演出ばかりなので、あまり好きになれなかったのだが、『お母様』に言わせれば、『私の「愛」がこの世界を支配してからは、オリジナルの漫画を描く者が絶滅してしまい、「愛」によってのみ生み出される、「劣化コピー」を「劣化コピー」するしか無くなったので、もはや以前の「人が物理的な漫画を自ら生み出していた」時代の、「本当に面白いオリジナリティ豊かな漫画」を読むことは、絶対に不可能になったのです』とのことであった。




 ──それなのにここには、『物理的な漫画』が、こんなにもたくさん有るなんて⁉




 まさかここにあるすべてが、かつて『お母様の愛』に喰らい尽くされてしまったために、『劣化コピー』を繰り返すしか無くなった、現在の漫画とは比べ物にならない、『面白い漫画』ばかりだと言うの⁉




 そのように、私が文字通りの『危険思想』に染まりきろうとした、刹那であった。




『──自由意思フリーダム係数、上昇! 自由意思フリーダム係数、上昇! このままでは危険領域に突入し、「排除対象」になりかねませんので、至急この場を離脱してください!』




 突然『ポコた(CV日○のり子)』…………じゃ無かった、『お母様』が、いかにもわざとらしい機械音声となり、『ドミネ○ター(CV日○のり子)』みたいなことを言い出したので、私は慌てて店を飛び出した。(声優さんて、凄い! こんな演じ分けもできるんだ!)




『……ふう、危ないところでしたよ、。もう少しであなたを、「執行の対象」にするところでした』


「──『PSYCH○ーPASS』かよ⁉ いやそれよりも、あれって本当に、『物理的な漫画』なの⁉ もうこの世には存在しないんじゃ無かったの⁉」


『それに関しては、「禁則事項」なので、お答えできません。──とにかく、あの店は「危険地帯」なので、二度と近づかないように。明確なる我々「母親の愛」の殲滅対象であり、すぐにでも「当局(=厚○省公安局)」によって処分されることでしょう』


 そのように、いつになく事務的な口調で言い放つ『お母様』であったが、




 それこそ『いつになく』、焦燥感に駆られているように感じたのは、気のせいであろうか?




 ……うふふ、そんなことは、無いよね?


『お母様の愛』は、絶対なんだ。


『お母様』に従っていれば、それでいいのだ。




『物理的』で『オリジナリティ豊か』で、『真に面白い漫画』なんて、この『お母様の愛』が支配する世界には、存在してはならないのだ!




 そのように、『お母様の愛=母親型汎用AI』──つまりは、







『マザーコンピュータ』に完全に支配されている、ロボット同然の人類として、当然の思考形態に陥っていた私であったが、なぜか足塚先生のほうは、始終無言を貫き、まるで私のほうを、何かを『見極めよう』としているような視線を向けていたことだけが、不可解であったのだ。








 ──あたかも彼女の側には、彼女だけの『お母様(AI)』なんて存在せず、すべてを自分自身の自由意思で決定しているかのような、かつての『本物の人類』を彷彿とさせるように。







(※次回に続きます)







【次回(嘘)予告】


「──ようこそ、常守()さん、私たちの創作オリジナル漫画結社、『ゴミ(トラッシュ)箱の涙(・ティアドロップ)』──通称、『ゴミティア』へ!」


「……そんな、人の手で漫画を描けるなんて⁉ しかもこの作品の作者が、足塚先生だったなんて⁉」


「人は『お母様の愛(マザーAI)』なんて無くても、生きていける。──いや、むしろそれこそが、自然な生き方なんだ!」


『……自由意思フリーダム係数が、75を超えました。ここにいる全員は、我らの「愛《AI》の支配する世界」にはふさわしくありません。──全員排除します!(CV日○のり子)』

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