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Bitter Orange, in the Blaze.  作者: 紅崎ナヤ
七.想いはちぎれて
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089.黒き天使の刃



 目深に被った帽子を軽く指であげて、彼は偶然の再会に目を丸くした。

「や、また会ったな! って今はそれどころじゃないんだ、ちょっとそこをどいてくれるかい?」

 軽薄な口調でにこりと笑う。いたずらっぽいやんちゃな少年のような声だ。

 スイが何も言わずに道をあけると、彼は軽く手をあげて横をすり抜けていく。

 ふとスイはいささかの不信感を抱いた。これだけの爆音が聞こえたり、また剣を構えた男を目の前にして、何も動じないということは――そこらの民衆ではありえない。

 スイが怪訝そうな顔をしながら、振り返ったときだった。

 少年の目の前に、男が4人。各々武器を構えて、どんな屈強な壁よりも厚く彼の前に立ちはだかっている。

 まだこちらには気付いていないようだったから、スイは壁に身を隠してその様子を伺った。

 少年はこの後におよんで余裕なそぶりを見せている。

「おーやおや、僕を狙おうとは君たちもお目が高い。――僕は、高いよ?」

「黙れ小僧。命が惜しいんだったら例のモノを置いてとっとと逃げな」

 男の一人が闇にとけるような低い声を放つ。だが、少年は怯んだ様子もなかった。

「やれやれ、大人数で一人を取り囲んで恐喝なんて、いい趣味じゃないと思うね。人間ってつくづく愚かだ」

 不敵な笑みさえ浮かべてみせる。ぴくりとこめかみをひきつらせた男が、鋭い眼光で睨んだ。

「テメェな、いい子ヅラして調子こいてんじゃねえぞ。誰が危険な道使って取引したと思ってる」

「君たちには十分感謝してるとも。お陰で僕はご満悦さ」

 男たちの間に殺気が高まった。今にもその成熟しきっていない風貌の少年に向かって剣や斧が振り下ろされそうだ。

 少年はそんな状況に気だるげに溜め息をつくと、ポケットに手を突っ込む。

「仕方ないなあ。そこで覗き見してる人がいるから、あんまり使いたくはないんだけど」

 少年が呟きながら飛びのいたのと、剣が振り下ろされたのはコンマ1秒の差であった。

「このクソガキ……ッ!」

 空をきった剣を再び構えに戻して男の一人が再び切りかかる。

 ――瞬間、だった。


 ――ドンッ!!


 スイの目が見開かれる。

 まるで心がすくむような、鮮やかすぎる音。

 そんな胸を殴られたような錯覚さえ覚える音が、少年の手元から放たれていた。

 次の瞬間にスイが目にしたのは、血潮を噴きながら倒れる男の姿だ。

「な……ッ!?」

 仲間が一瞬にして無残な姿になったのを見た男たちが、みるみる青ざめる。

 しかし対して少年はまるで世間話でもしているかのように笑顔さえ浮かべてみせた。

「うふふ。これが君たちが手に入れてくれたモノ」

 ちゃき、となる音。

 スイはそのとき確かにその目で見たのだ。

 少年が掲げた、禍々しく黒光りする鉄の塊。

「火薬を使って鉛の玉を超高速で相手にぶつける。……ぶつけるっていうよりも、打ち抜くっていうのが正しいかな? まあそんなシロモノさ」

「てめぇ……!」

 憎々しげに男の一人がうめく。しかし斧を持つ手は……震えていた。

「だって悪いのは君たちなんだよ。君たち、僕があげたお金とこの『商品』もってトンズラしようとしたでしょ? これの使い方も知らないのに持ってたって意味ないのにね。だから僕はちゃんと公平にしようと、君たちのアジトに忍び込んでもお金には手をつけなかったのに」

 ふとスイはとうとうと語っている少年の辺りに殺気が沸き起こるのを感じ取った。

 少年はまだ気付いていないようだった。彼の死角になる場所の塀の上に立った、黒い影――。

 どうやら隠れたひとりが剣を持って機会をうかがっているようだ。

 彼を狙っている――そう思った瞬間、スイは飛び出していた。この少年を助ける義理は全くない。しかし、彼の持っているものについて、妙に気にかかったのだ。

 だが、彼が剣を抜くことはついになかった。


 ――ドンッ!!


 空気を揺るがす、無慈悲な音。

 飛び出してきた男に向かって――少年が背後を振り向いたと同時に引き金を引いたのだ。

 鉛玉を吐き出した口からは、煙が後をひくようにあがっている。

 どさり、と受け身もなく倒れた男に一瞥もくれず、少年はスイに笑いかけてみせた。

「や、お兄さん随分素早いね。でも気をつけた方がいいよ、僕まだ素人だからさ、流れ弾に当たっちゃうかもしれない」

 スイは言うべき言葉を見失ったまま、半ば呆然と少年の手元を見つめている。

 まるで数秒前に人を一人殺めたとは思えない鮮やかさで、少年はもう一度男たちの方を向いた。

「さてと。君たち、まだ僕と戦うかい?」

「……チッ!」

 恐らくこの少年に太刀打ちできないと悟ったのだろう。男たちは各々の方向へと散っていく。

 数秒もたたない内にその場には静寂と、二つの亡骸、そして二人の影が残された。

 ――そうしてスイは改めて、この不思議な少年の姿を検証する。

 細い肩、華奢な体つき。一瞬少女のようにも見える……のだが、目深に被った帽子が顔を隠してしまってその全貌が掴めない。

 顔から伺えるのは、軽薄に端を吊り上げられた唇だけだ。

「うふふ。びっくりした?」

 少年は首を傾げながら、黒い鉄の塊を手の中で転がす。

 その黒い物体は丁度手に収まる程度の大きさで、見たこともないような形をしていた。

「――ああ」

「でも僕もびっくりしたさ。お兄さん、足が速いんだね。さっきの動きはすごかったよ。……うん、いいもの見せてもらったから、特別に教えてあげる」

 お兄さん口は固そうだからねえ、と少年は屈託のない笑顔で笑う。

 その次の瞬間だった。ジャキン、と鋼が擦れる音がしたかと思えば、その塊がスイの鼻先に突きつけられていたのだ。

 引き金にかけられた細い指。スイの目の前にぽっかりと小さな口が開いている。

「これはとてもおもしろい『おもちゃ』だよ。機能はさっき言った通り、鉛玉で相手を撃ち抜くのさ。連続で6発続けざまに打てるんだ。――つまり、君がどんなに速く剣を引き抜こうと、その前に僕は君の頭を粉砕できるってこと」

 物騒なことをまるで軽口でも叩くかのごとく言ってのけると、少年は暫くの沈黙の後に手を下ろした。

「お兄さん肝が据わってるねぇ。ちょっとでも動けば殺しちゃおうと思ったのに」

 そう感心したように何度も頷く。

「全くもって、人間って愚かだよね。こんな物騒なもの作るんだもの」

 スイは先ほどまで自分に突きつけられていた黒い塊に目を落とした。そして、その場に転がる亡骸に目をやる。血だまりができているというのに、ほとんど外傷は見当たらない。

 確かに鉛の玉を高速で叩き込まれれば、相手は只では済まないだろう。だからこそ、この男たちは一発で命を奪われたのだ。

「……どこで仕入れたんだ、そんなもの」

「うふふ、それは企業秘密。でも危なかったな、危うく僕の方が殺されるところだったよ。中々取引がうまくいかなくてさ」

 大事そうに少年はその黒い塊をポケットに仕舞いこむ。一体そんなもの、何に使うのだろうか。

「拳銃、って言うんだよこれ。今ね、上流貴族たちがこぞって作ろうとしているもの。もちろんその存在は極秘、むやみに知った者は――」

 まるでその『拳銃』と同じ形にした指でスイの額を指差して、少年は更に唇の端を吊り上げた。

「バン、だ」

 そうしてああ愚かだと嘆くかのように肩をすくめる。

「世も末だよ。このシロモノね、通称は『黒き天使の刃』って呼ばれてるんだよ。こんな殺戮兵器にそんな芸術価値を見出すなんて信じられないね」

 先ほどの爆発で驚いた人々が集まってきたのか、辺りは次第に人の気配が感じられるようになっていた。

 一体この少年は何者だろうか。盗賊にしては様子がおかしい。そこらの町人がこんな行為をするはずもないし――。

「お兄さんは、どう思う?」

 帽子にすっぽり覆われた頭は、髪の色すら判別がつかない。瞳の色さえ影って見えないのだ。すらすらと言葉を紡ぐおしゃべりな口だけが魔法のように動いていて……。

「……別に」

 そっけなく返したスイに、少年はたまらなくなったようで突然吹きだした。

「うふふっ、お兄さんおもしろいね。それに加えてさっきの動きの素早さ……、そこらの旅人とは思えないな」

 スイの反応をうかがっているのか、ちらりと見えた瞳が眼光を放つ。

「お兄さん、お名前は?」

「――」

 スイは口を閉ざす。まさか自分の名前など言えたものではない。

「そっか、教えてくれないか」

 少年は暫くの沈黙の後、つまらなさそうに唇を尖らせた。まるで子供の仕草だ。

「うん、仕方ないね。こんな危険なシロモノ持ってるヤツがいたら、僕だって名前教えたくないよ、関わりたくないし」

 にこりと歯を見せて笑う。

「僕のことはイオって呼んでくれればいいよ、呼ぶ機会があればの話だけど」

 言いながら少年――イオはじろじろとスイを様々な方向から眺めて、ぽんっと手を打った。

「ねえお兄さん、僕に雇われる気はない?」

「――?」

 突然の提案に怪訝そうな顔をするスイに、イオはぴんと人差し指を立ててみせる。

「僕の護衛だよ、ボディーガードってやつ。ほら、僕こんな性格だから敵が多くてさ。期限は……そうだな、1週間くらい。ギャラは弾むよ?」

 どうだといわんばかりに首を傾げた。

「別に護衛なんていらないだろう」

 スイは目を軽く伏せてそう言った。あまり彼の顔は見たくなかったのだ。顔を半分隠したこの少年の顔は……彼には悪いが、なんだか不気味だ。

 それに拳銃という前代未聞の武器を持った彼に護衛なんていうものも不思議な話であった。

 イオはそれを聞くと、スイの海の瞳を下から覗き込んでくる。

「ううん、むしろ興味あるんだ、お兄さんみたいな強い人にね。僕みたいに非力な人間と違って、本当に『強い人』と仲良くなってみたいんだよ」

 ――その瞬間、たった一瞬のことだったが――イオの帽子の影から覗いた瞳がぎらりと輝いた気がして、スイは背筋に小さな悪寒が走るのを感じた。

 思わず何歩か足を下げる。

「――仕事があるから無理だ」

 壁を見つめながら、そう呟いた。

「そ? そうか、なら仕方ないね。他をあたるよ。それに早くここを立ち退いた方がよさそうだね、そろそろ人がくるんじゃないかな」

 細い少年は辺りをきょろきょろと見回す。

 人の気配はスイも感じていた。先ほどの爆発騒ぎで人々の足取りが刻一刻と近付いてきている。

 イオは最後にニッと薄い唇の端を吊り上げると、スイに背を向けた。

「まあ、気が変わったなら是非声をかけてよ。――僕と再び会うことがあればの話だけど」

 また会えたらおもしろいね、と最後に残してから、イオは大地を蹴って駆け出した。

 あっという間に身軽なその姿は何処かに消えてしまう。まるで留まることを知らない風のようだ。

 スイは暫く彼の立ち去った方向をぼんやり眺めていたが……、ふっと瞳を伏せて、また人気のない場所へと歩いていった。

 耳の奥にはまだ、あの心さえ揺さぶるような撃鉄が打ち鳴らされる音――後に銃声、と呼ばれる音がこびりついているような気がして、軽く耳元に手をやる。

 それと共にあの端が吊り上げられた口元が鮮明に脳裏に蘇ってきて、――スイはどこか遠いところで眩暈を覚えた。



 ***



 ――一体あれはなんだったのだろうか。

 イオと名乗る少年と別れて数刻後、スイは食堂の奥の席から窓の外へと視線を投げていた。

 あの華奢な体つきからして年齢はまだ15か16程度だろう。顔が見えなかったから実際はなんともいえないが――。

 それよりも気になるのが彼の持っていた武器だ。

 一体何の目的で彼はあんなものを持っていたのだろう。

 拳銃――とか呼んでいただろうか。小さな鉛玉を火薬を利用して爆発的な速さで打ち出す装置。しかも手軽で、操作も引き金を引くだけだ。剣術とは全く違う。

 もしも、あんなものが世の中にまかり通るようになったら――剣など、全く役にたたなくなってしまうのではないだろうか。既にそんな時代は近いのだろうか――。

 物事は全て変わっていってしまうのだ。

 同じ世界がずっとずっと続いていくなど、ありえない。世界は変わるからこそ、その姿を維持できているのだ。

 ――それを人が望む望まないは別として、だが……。

「考え事ですか?」

 ふと視線を戻せば、向かいの席でハルリオが紅茶に口をつけているのが目に入った。

 夕暮れの食堂は次第に賑わいを見せてくる。活気のあるこんな町なら尚更だ。

「――ああ」

 ハルリオは僅かに笑ったようだった。

 彼の情報収集能力にはつくづく舌を巻く。先刻合流した後、彼は一度しか屋敷を見ていないにも関わらず、筋の通った作戦を考えてみせたのだ。

 暗殺対策が厳重に行われているからか、屋敷の内外には幾重にわたって兵士が番についている。

 それをたった二人で突破することができるのだろうか。いくら有能な者が作った作戦でも、結局はそれを実行する者の力量に結果は委ねられるのだ。

「そろそろ時間です。準備はよろしいですか」

 まるでこれから人を殺しにいくとは思えないような穏やかな微笑みを浮かべて、ハルリオは続ける。

「迷いは許されませんよ、今回の仕事は」

「……分かってる」

 ふいっとスイは自分の剣に目を落とした。そうしてその先に、あの突きつけられた銃口の切っ先を夢想する――。

 だが、数秒後にはそれらを全て消し去った。今はそんなことを考えるべきではない。

 傍から見ればどこにでもいるような旅人の男が二人、席を立った。

 一人はすらりと背の高い金髪の男。しなやかな動きといい晴れ渡った空の瞳といい、まるで貴族のようだ。

 もう一人は紺碧がかった青髪の男。この世界の流れに溶けるような静かな面持ちで歩いていく。

 誰も気に留めないような二つの影は、食堂を出て夕暮れの街に足を踏み出した。

 影は自身を長く落としながら、ゆらゆらとたゆたう。

 それぞれの行く先へと流れていく人々の中……。

 夕焼けの町並みの中……。

 影たちはふっと、人知れずその姿を暗がりの中へ消し去ったのだった。


 ディムロード領主、イスカルド・フェン・ディムロードの屋敷は町に3つほどあるらしい。

 その内を点々とすることで、暗殺対策の一環としているのだ。

 そんな中でハルリオが掴んできた情報からすると、彼は今日、その中でも一番大きな屋敷に入っているらしかった。

 ただ、それよりも気になったのがもう一つの情報だ。

 イスカルドの流す麻薬や武器は治安を著しく損なうものとして、様々な面から狙われているのだ。

 実際、他の貴族に雇われた者が暗殺を企んでいるという噂もあるらしい。

 彼の悪どさには自衛団までもがその手を下そうとしているという話まで聞く。

 最悪なのはそれらと鉢合わせになることだ。混乱の中では仕事も難しくなるだろう。

 目指す館までは郊外の林を通って向かうことになる。

「――それでは、約束の時間に」

 ふっと横でそんな声がしたかと思えば、まるで最初からなかったかのように横の気配は消えていった。

 それと同時にスイも薄暗い森の中を駆けだす。

 いつだったか、銀髪の青年がしたのと同じように……。

 不意に、何故だか初めて剣を持たせてもらったときのことを思い出していた。

 それはとても重くて……、振りかぶることすらままならなかったころ。

 しかし兄の持っていた剣は更に重かった。自分が両手でももてないようなものを、彼は持っていたのだ。

 そうして最後の瞬間まで、何も持たなかった自分の代わりに、その腕に沢山のものを抱えて――。

 闇でも煌く銀の髪。鋭い海の瞳は、最初は怖かったようにも思う。

 記憶の中でその姿はいつだって変わらない。

 だから、今度は。

 ――自分が、兄の代わりに背負わなければならないのだ。

 林を出るころにはすっかり夜がその姿を現していた。

 はあっ、と息をつく。森の冷たい空気が肺に入ってくるのがよくわかる。

 近付く闇に浮かび上がるシルエットを仰いだ。とても……とても大きい。

 草むらを足が蹴る。風のように身をひるがえした彼の影は――。

「な――曲も……のっ」

 剣が鞘から抜かれる音がしたのと同じ瞬間であった。

 見回り番だった男は、その影がぶれたかと思ったときには……その場に崩れ落ちている。

「な、なんだっ?」

 物音を聞きつけて他の兵士の足音が近付く。スイは目を閉じる。暗がりでは聴覚の方が役にたつと、いつか教えてくれた人がいたからだ。

 あと3歩、2歩、1歩――、流れるように身を風に乗せた。

「く、ぁっ……」

 血飛沫が舞う。剣についたそれを軽く降って落としたかと思えば、その姿は既にひるがっていた。

 息をつく間もなくスイは軽い身のこなしで塀を飛び越える。

 刹那。

 けたたましいサイレン音が屋敷内に響き渡った。魔術を使用したセンサーが塀一面に張られていたのだろう。しかしそれも予め知っていたスイの足を止めるには至らない。

 一気に騒がしくなる内部を横目に、スイは一気に中庭を横切った。

 ――が、その足がもつれる。

 ひゅんっと鋭い音と共に、彼の行く手に矢が突き刺さったのだ。あのまま走っていたら今頃命はなかっただろう。

 そう思う間もなく次々と矢が雨のように降り注ぐ。自分の姿に気付いた者の手によるものだろう。

 耳が痛くなるほどにジリリリリ、という鐘を打ち鳴らす音が響き渡る。

 降ってきた矢を剣で叩き落しながら、スイは草むらの暗がりに身を投じた。

 次の瞬間に振り下ろされた斧は剣で受け止める。なるほど随分の人員の使いようだ。よほど暗殺を警戒しているのだろう。

「チッ!」

 舌打ちを聞きながら体制を立て直すために剣を振り払う。

 横から殴りつけるように振られた斧は一度身を屈めてやりすごした。なびいて逃げ遅れた髪だけが何本か切断されて宙を舞う。

 そのまま下から上へ跳ね上がるように振り上げる。確かな手ごたえを確信したときにはその反動のままに走り出していた。

「そっちへ行ったぞ!!」

「一人かっ!?」

 そこここで声が聞こえる。気配が動く。――読める。

 スイは走りながら剣を振りかざした。上から切り込んできた兵士の剣を鼻先数センチでかわすと、両手を使って剣を叩き下ろす。

 あまり気持ちのよくない感触。体中に染み渡っていく。

 中庭を突っ切った後には、屋敷の裏へと回りこんだ。

 しかし屋敷の中に入るわけではない。

 屋敷内の煌々とした明かりを視界の端に捉えながら走る。

 スイの瞳は暗がりの中にそこだけ独立した小さな部屋を見つけていた。

 屋敷から数歩離れた場所にぽつりと建った、石造りの家……。人が数人も入れないような狭さだ。

 中には大振りの機械が、ひとつ。

 その中に突っ切るようにして踏み入ると、彼は目の前にある機械から伸びた太い銅線に向けて、勢い良く剣を振り下ろした。

 ――ザクッッ!!

 次の瞬間に入り口の穴から飛んできた罠の矢をとっさに交わすと、もう一度隣の銅線の束を叩き斬る。

 するとボン、と黒い煙が上がりはじめた。スイはすかさず部屋を照らし出していた脇のランプに手を伸ばして……そこに叩きつけた。

 ――ばうっ!

 飛び散るガラスの破片が軽く頬を切る。ランプの火が機械に引火して一気に部屋に炎が燃え盛る。そうしてスイがその部屋からまた外に躍り出た瞬間――。


 巨大な屋敷は突然、闇に沈んだ。



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