76.愛してる
ヘレナはウィルのところまで夢中で走った。
騎士達はヘレナを迎え入れるように
道を作った。それはウィルのところまで
まっすぐに続いていた。
——ヘレナ!本当にヘレナだ!
彼女を捉えた瞳は大きく開いた。
視界が滲んでしまって表情までは見えなくなった。
どうか……笑顔であってほしい。
「来てくれた!本当に会いたかった…」
喉が締まって、ウィルは詰まるような声しか
でない。
まっすぐ向かってくる彼女を引き寄せるように
手繰り寄せ、力任せに抱きしめる。
「……っ!ウィル…」
三年ぶりに強く抱きしめ合った。
壊れそうなくらい、二人の間に僅かな空気を
挟むことさえ許しがたいほど力強く。
夢ではない。
彼女の温かさ。懐かしいヘレナの香りがする。
腕の中いるヘレナを何度も何度も確かめる。
頭に、頬に重ねるようにキスをした。
長い抱擁は周りなどお構いなしにつづいた。
やがてまぼろしでない事がわかると、
恐る恐る両手で彼女の頬をつつみ込み、そっと、
こちらに向けた。
ウィルの瞳はヘレナの瞳に囚われたように、
吸い込まれたように見つめたまま動かない。
求め続けた瞳が目の前にあった。
「あの頃のまま……ずっと愛してる。愛しているよ
ヘレナっ!」
何度も伝えたかったのに届かなかった言葉。
締め付けられたままの喉から、絞り出すような
声でようやく伝えた。
「ウィル…」
彼女の瞳から零れそうになる涙をキスで
受け止める。
やがて、ウィルはヘレナの手を取り、ゆっくり
跪づく。
ウィルの目も赤く僅かに潤んでいる。
「ヘレナ…。
君ばかりに高い壁を越える事を求めて……
本当に済まなかった。
愛する気持だけで…その全てを越えられると
思っていたことが間違いだったとわかった。
——これからは、
共に運命を越えていく相手として、
先の人生を一緒に、そのままの君と並んで
歩んでいきたい」
そう言うとポケットから
結婚指輪と共に、古ぼけてボロボロになった紙を
そっと差し出した。
それは…昔ヘレナから返されたあの手紙だった。
「 ……懐かしい……手紙ね」
彼女の涙はもう悲しい涙ではないと確信できた。
ヘレナはそうっと手紙を広げ、その手紙を読む。
……溢れた涙がポタリと手紙を濡らした。
二人の周りは、いつの間にか静まり返っていた。
数人は目を潤ませ、騎士たちは、誰一人としてその
時間を遮ろうとしなかった。
ヘレナがそっと差し出した左手に揃いの結婚指輪
がぴったりとはまった。
そして、多くの騎士が見守る中
二人は見つめ合い、熱いキスを交わした。
イエローダイヤモンドで作られた
揃いの結婚指輪は、
昔ここで、二人一緒に見送ったホタルのように
川沿いで2つ並んで夕焼けに照らされて
輝いていた。




