75.進むべき道
久しぶりにカイ先生から渡された、
ウィルの手紙。
懐かしい封筒は昔と変わらない王家のものだった。
——きっと王位継承の報告…ね。
三年ぶりのその手紙は、ヘレナの心を
激しく揺さぶるものではなかった。
その事に少しホッとする。
そして静かに封を開けた。
上質なオフホワイトのカードが一枚。
『愛しいヘレナ
もう一度、あのベンチでヘレナに逢いたい。
一週間後の週末。必ずまっているから…
ウィル 』
心の奥にしまったはずの、ヘレナの鼓動が
突然大きく鳴り始めた。
ドキン。ドキン。と
もう一度、ウィルに逢える。と——
しかし…ヘレナは、
急いでその鼓動に蓋をする。
一国の王が、リッツ国の川沿いのベンチに
来れるわけがない。
会えばまた、彼に無理をさせてしまう。
もう、昔のウィルでは、
無いのだから——。
カードと、想いをそっとしまった。
その後の一週間、
ウィルからのメッセージを読んでは仕舞い……。
仕事に明け暮れ、いつもの様に慌ただしく
すぎた——
——そして、週末。
その日は、詰め込みで仕事をこなし、
久しぶりに、まだ夕日が見られる時間に
仕事を終えた。
夕焼けの赤ピンクが、ヘレナの表情をより
明るく見せている。
いつもよりなんだか足が早く進む。
本当に居るだろうか?
王となったウィルが。
川の匂いを含んだ風が、ヘレナを誘導するように
あの公園が近くなったのがわかる。
何となく、騎士の格好をした人が
どんどんと増えているように感じた。
何事かと、野次馬も少し集まり始めていた。
歩みは小さくなっていく。本当にそこにいるの?
胸の前で手をぎゅっと握りしめる。
ベンチのずいぶん手前から沢山の騎士がいて、
これ以上近づけない。
人混みに紛れたまましばらく時間が過ぎた。
「やっぱり来たのか…」
穏やかな笑顔でヘレナを見ている。
公園沿いの街路樹の近くに、カイ先生がいた。
「最後は見守ってほしいと…殿下に言われてね。
ところで…ヘレナ嬢、進むべき道は決まったか?」
先生に何度も肩を推された。
今までそうやってここまで来た。
今日は自分で選んだ。自分の道。
「先生。私はアルベルトの貴族に仕事で
直接指名されるようになりましたから!」
他国の国家職員に、貴族が個人的に仕事を
以来する事。
それがどれ程素晴らしいことか、
カイ先生はよく理解していた。
「よく、ここまで頑張った!
……さあ、殿下が待っているよ」
ヘレナの笑顔は、自信に溢れている。
——私はウィルに逢いたい。
騎士がたくさんいる辺り。
あそこに二人のベンチがある。
しかし…ウィルは見えない。
「……ウィル。」
ヘレナから小さな声が漏れた。
そして、
「ウィル!私はここよ!」
ヘレナはベンチに向けて大きな声で叫んだ。
すると護衛を振り切ってこちらに来ようとする
人影があった。しかし騎士によって阻まれている。
「ヘレナ!早く来て!君に見せたいものがあるんだ」
あの日と同じウィルの、声がした。




