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ヘレナとウィル〜隣国の王子と交わした約束〜  作者: シャルru


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74/79

74.懐かしい文字

「——殿下。先ほど王宮前のメッセージボックスに

 ヘレナ様が殿下宛にメッセージを…」


 ウィルは、側近が持っていたメッセージカードに

 恐る恐る手をのばす。


『親愛なるウィルブラント殿下


 この度は、王位継承おめでとうございます

 心よりお祝い申し上げます。


           ヘレナ·ウォズリー』

 

 柔らかな曲線で描かれた文字。

 それは、本当にヘレナの文字だった。

 何度も指で文字を辿る。

 

 今ここに君がいる。


 ウィルの瞼には変わらないヘレナの笑顔が

 すぐに思い浮かぶ。

 

 ——この国にヘレナが居る。そう知っただけで、

 僕の心はこんなに…飛び上がるほど嬉しいんだ。

 抱きしめたい。君に今すぐ逢いたい!


 けれども、そんな気持ちを抑え込むように現れる

 別の感情があった。


 ——…ヘレナはあの悲しい日々を…

 報われなかった努力を…

 きっと今も…忘れてはいないだろう。


 彼女が流した沢山の涙をウィルは忘れられない。


 けれど今日は

 この、ヘレナのメッセージがウィルの心を急かす。


 これがヘレナからの本当に最後の手紙になるかもし

 れない…

 手紙を持つ手の指先は次第に冷たくなり、

 堅く結んだ口元に力が込められる。


  …ヘレナの隣は?彼女の幸せは?


 ウィルはこの三年、その事をずっと考えていた。


 ※※


 アルベルトから帰国後、ヘレナは

 かつて無い多忙に追われていた。

 しかしそれで良かった。


 仕事以外のことなど

 今は、何も考えたくなかった。


 アーノルドにもあれきり連絡していない。

 察しの良い彼は、きっと忙しいだろうと

 連絡もしてこないのだろう。


 しかしヘレナは淋しいとか

 逢いたいとか、そんな気持よりも


 ——理解力のある人で良かった。

 

 そう思ったのだ。


 これは…愛と呼べるのだろうか?

 それをゆっくり考える時間もないほど、

 忙殺されていた。

 


 ※※

 

 ヘレナは今日も目の前にある、山積みの仕事を

 精査している。

 抱えられない仕事は早めに振り分けなければ。

  

 リッツ国とフェルラー国に関わる案件が

 この頃多い。どちらも精通している人…。

 ——カイ先生だ!

 

 ヘレナは、久しぶりにカイ先生の元を尋ねた。

「先生!」

「おいおい。私はいつまで君の先生なんだ?」


 カイ先生は、ここで働く職員全体を見る 

 偉い人になってしまったが…ヘレナには昔と変わら 

 ず接してくれる。

 

「先生は、ずっと私の先生ですよ」

 

 ヘレナの明るい笑顔にカイ先生も

 ほっとしていたが…

 

「…先生に重い案件を……お願いしに来ました」

 ヘレナは分厚い資料を見せ頭を下げる。


 本来、このような仕事はもう先生がやるもの 

 ではない。

 チラリとヘレナをみて、ふぅ~とため息を

 ついて受け取った。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 この頃のヘレナは昔の様に笑っていた。

 その笑顔が見られてカイ先生もホッとしたのか…

 

「今の君なら、正しい判断が出来そうだ」

 と言って、一通の手紙を差し出した。

 

 それは…。


 ウィルからの手紙だった。

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