73.この国の何処かに
それはとてつもない速さで調べられた。
家来にとって、それは単なる王命ではなかった。
一人の女性を真剣に愛した王子。
純粋な王子の姿をずっと見守り続けた家来。
——幸せになって欲しい。
そんな彼らの思いだった。
執務室は時が止まったかのように静まり、
張り詰めていた。
やがて廊下から気配がした。
コンコン。
「失礼致します」
呼吸も乱れ気味の側近。
よほど急いでくれた事がわかる。
「報告致しますっ」
家来の息も整わないうちに、急かしてしまう。
「ヘレナは…まだここに居るのか!」
「……はい。仕事でこちらへ来たようですが
…しかし、同僚の男性はどうやら恋人のようです」
ウィルの心に、鋭い痛みが走った。
「——っ。ヘレナ…。…もう…遅いのか?」
小さく呟いたまま…執務室の椅子に体を預けた。
※※
ヘレナは、号外の新聞を宿泊先まで持ってきてい
た。
もう一度ゆっくり確かめたかった。
やはりウィルの隣に自分がいることは
来なかった未来だったのだと——。
自分に、もう一度。
——いい聞かせる為に…。
今日一日、アルベルトの町並みを歩き、
この素晴らしい国の新しい王となるウィルを
心から尊敬した。
そして、その世紀の瞬間に立ち会えた喜びを
ウィルに伝えたいと思った。
ヘレナは三年ぶりにメッセージを書くことにした。
チクリと痛む心を抑えながら。
大切なウィルを想って…。
『親愛なるウィルブラント殿下
この度は、王位継承おめでとうございます
心よりお祝い申し上げます。
ヘレナ·ウォズリー』
王城前では特別に
王宮に直接、祝福メッセージを届ける
イベントが開かれていた。
台の上に、そっと手紙を乗せたヘレナ。
「どうしたの?他国の王族に興味が湧いた?」
アーノルドはヘレナが王族に、興味があるなど
聞いたことがなかった。
「いえ…せっかく立ち会えたのだからと思って」
手紙を置いたヘレナのその姿に、
見覚えのある家来が、思わず振り返った。
並んだメッセージカードの中から、ヘレナが置いた
であろうカードを取り出し、城内へと急いでとどけ
る。
側近はすぐにカードを確認した。
——ヘレナ·ウォズリー——
大変だ!すぐに報告を!




