71.三年
「ウィル。なぜ婚約者を選ばない!
父上も母上も、ずっとお前に配慮しているのだぞ」
スレイドはやや苛立ちを隠せないでいた。
「気持ちの整理がついたら…と申しました」
「——三年だ。既に三年が過ぎたのだぞ」
穏やかなはずの兄の剣幕を見て、
少し言葉に詰まる。
「……それほど大切な愛を…私は失ったのです
お体に触りますので、あまり興奮されませんよう…」
ウィルの視線は、スレイドとは合わなかった。
「……最初から国内の貴族と婚約していれば、
こんな事には…。ウィル、お前はそれほど健康に
生まれて居るのに、なぜ王子として当たり前の道を
選ばない」
スレイドは、次期王の第一候補でありながら、
縋っても祈っても
健康にならない自分を嘆いていた。
この三年の間に、イザベラとの子にも恵まれず
夫婦の中も冷めきっていた。
ウィルは、そんなスレイドの目をまっすぐ見た。
「兄上、私はヘレナに出会ったことを後悔など
していない!
そして、彼女以上に愛せる人などこの世に
存在しない事も——!」
しかしスレイドは、戻れない思い出にすがる
ウィルの目を覚ませたかった。
「ウィル。私は候補の座から降りる。
この国は、お前に任せるぞ。分かっているな」
いよいよ婚約から逃げることが出来なくなっていた。




