68.送れない手紙
ウィルはヘレナから貰った大切ペンを見るたび、
いつも彼女へ宛てた手紙を書いた。
それは送ることのない手紙だった。
春になればヘレナに恋した日を思い出す。
夏になれば、メリーゴーランドを思い出す。
秋になればヘレナを追いかけつづた日を思い出す
冬になれば中庭で2人でくっついて温めあった日を…
——その思い出の一つ一つを全て手紙に綴った。
ヘレナと共に過ごした全ての日々。
悲しい日々も嬉しい日々も全てが
ウィルにとって、ヘレナといた幸せな日だ。
今日思い浮かんだのは、ヘレナの新生活にヤキモチ
が止まらなかった自分。
お忍びで行けるものなら参加してみたかった。
その幸せの記憶を胸に抱いていられる時間も、
——そう長くはなかった。
ヘレナを幸せにするために足りなかった事。
その答えを早く見つけなければ…!
※※
……3日前。
「ウィル。ヘレナ令嬢が婚約を辞退したと聞いた。
よって、以前の約束どおり…
こちらで婚約者を決めることにする。
それまでに、気持ちを整理しておくように。」
王からの重い言葉だった。
ウィルは、体の弱いスレイドの補佐をしている。
その上、婚約者が決まってしまったら……。
もう二度と、ヘレナと過ごすことは叶わない。
その上、この頃スレイドの体調も思わしくなかっ
た。
後継者の指名は何度も延期されている。
高齢の王の引退は時間の問題である。
「ゴホッ。ゴホッ」
スレイドの咳はひどくなるばかりだ。
「スレイド様。あまり国の行く末ばかり
考えすぎては体によくありませんわ。」
イザベラは、スレイドの体調に敏感だった。
「早く子を、もうけなければなりませんのに…」
アルベルト国でも有数の公爵令嬢であった
イザベラ。
彼女は、わが子を国王にすることを目標に
その身を捧げてきた。
しかしこの体の弱い王子では…!
スレイドも彼女のその考えを理解していた。
自分たちの結婚はその血を繋いで行くこと。
それが全てだ。
しかし…スレイドにはその生命力が無かった。
大国であるアルベルトの王族は、先行きに
不安を抱えたままであった。




