66.新しい出会い
——それから数年後。
「ヘレナ、仕事に遅れるわよ?今度はいつ戻るの?」
肩まで伸びた髪が忙しく揺れている。
他国への出張には慣れてきたが、荷物が重い。
ヘレナは、フェルラー外国語大学を優秀な成績で
卒業し、カイ先生と同じ国家機関で働いていた。
「今度はフェルラーよ。十日は帰らないわ!
じゃあ行ってきます」
ヘレナはまさに、飛ぶように働いていた。
今はまだ、リッツとフェルラーの仕事しか
担当していない。しかし今回のようにカイ先生
のアシスタントとして働けるのは、楽しみだった。
「先生、まさか私と働くなんて、学園の頃は想像しま
したか?」
ヘレナは、忙しくても笑顔が絶えない
素晴らしいスタッフだ。
「…そうだな。毎日夕飯も我慢してに、勉強に
つきあったくらいだから…そのくらいになって
貰わないとな!」
ヘレナはびっくりした。
あの頃は夢中で、先生を捕まえては勉強をみてもら
っていた
「はっ!そういえば…毎日遅くまで…。
先生。今日は是非ごちそうさせてください!」
——忙しくても楽しい毎日。
そんなある日。
「ヘレナ·ウォズリー、ちょっといいか?」
休憩中に上司に呼ばれた。
「君は婚約者とか恋人はいるか?」
上司からの突然の質問に驚く。
「い、いえ。今はおりません」
——ウィルとさよならをしてもう3年が
過ぎようとしていた。
「そうか…では、君に紹介したい人物がいてね」
上司から紹介されたのは、同じ国家機関の
別の国を担当している、アーノルド·ラッセル
ヘレナより2つ年上だった。
「一度食事でもしてみたらどうだろう?」
その後、アーノルドからも連絡があり、
1週間後に会うことになった。
わざわざ紹介していただくなんて、
どんな方かしら。
今でもまだ、心の片隅にウィルがいる。
もう、どうすることも出来ない気持を
いつまでも抱えているよりも、新しい出会いに
前向きになりたかった。
ヘレナが出張から帰国するちょうど
良いタイミングで、会うことが出来て、
——縁が有るのかも。
と笑っていた。
「はじめまして。あなたがヘレナ·ウォズリー令嬢?
私はアーノルド·ラッセルです。」
スラリと背が高い男性だった。
誠実そうで真面目な印象だ。
「私が担当しているのは、出身のアルベルト国、
ロシアンヌ帝国、バラルド国でね——」
アルベルト——。その言葉が気になった。
「——で、君はやはりリッツ国出身?」
いけない。会話中なのに…。
「そうです。リッツからフェルラー大学に行きました」
「フェルラー!僕もだよ!もしかしたら、校内で
すれ違っていたかもしれないね」
ヘレナは不思議な気持ちになった。
同じ道を歩いていたウィルとは別の道を、
別の道を歩いていたはずのアーノルドとは
同じ道を歩こうとしている。
こうやっていくつも道を折り返したり曲がったり
して、誰かと同じ道にたどり着くのね…。
それからアーノルドとは沢山の話をした。
大学の事、リッツのこと、アルベルトの事。
「ヘレナ令嬢は、アルベルトの事を知っている?
とても大きい国だから…」
ヘレナは、ドキリとした。しかしもう
——遠い昔のこと。
「ええ、昔旅行に行ったけれど、体調を崩して
すぐに帰ってしまったけれど…
王城がとても美しかったことは覚えています」
ヘレナには今でもウィルとの思い出は
美しかった。
アーノルドは最初の印象のとおり、素敵な男性
だった。




