64.夢と目標
それからしばらくして、ヘレナはフェルラーに
戻った。
今回はそれほど勉強の遅れもなく、無事に授業に
戻ることができた。
しかしながら、成績自体はそれほど良いとは
言えなかった。
勉強の熱量が上がった頃に、いつもアルベルト
に行くことになる。そして思い悩んで
帰ってくる——。
自分の心が弱いのだ。
今の私はとても中途半端な人間だわ。
何も成し遂げられないのに、ウィルのそばで
自信を持って立つことは出来ない。
平凡な自分には大きすぎる夢だったのかも
しれない……。
二人が一緒にいない未来とは——
ウィルは、王族として本来の生き方を選ぶ。
ヘレナは語学を習得して将来に活かす。
きっとそれが『普通の生活』だ。
——しかし…それは悲しい選択だった。
それから数日後…
「ヘレナ嬢…!」
後ろから腕を掴まれた。
声の持ち主は、カイ先生だった。
「あ…先生…またお手紙ですか?」
いつもと違う声のかけ方に驚く。
「…いや、今回は違う。今たまたま君を見かけて…
なぜそんなに痩せてしまった?夏よりも一層…」
そう言うと、カイ先生は黙ってヘレナの様子を
伺っている。
ヘレナは視線を避けるようにうつむいて、
先生の次の言葉を待っていた。
何かを察したように、
やがてゆっくりとした口調で先生は話し始めた。
「——いいか?
人生の目標は間違う時や、
高すぎる事もある…。そのときは思い切って——
目標を変更する事が大切だ。
——君自身のために」
はっと顔を上げるヘレナ。
「先生は…気付いていたんですね」
「フェルラーはそんなに簡単な大学でないことは
自分が一番知っているからな」
先生!
学ぶことの貴重さと苦しみを知ってくれる人が
ここにいた。
ヘレナは3カ国語を扱える自分になりたい。
と強く思った日を忘れてはいなかった。
ずっと自分を失っていた。その状態で、
なぜウィルのそばにいられるなどと
思ったのだろう…。
「先生。私決心がつきました。」
ヘレナは、深く頭を下げその場を後にした。
そしてその日。
ヘレナはウィルに手紙を書いた。
それは、初めての手紙だった。
そして、もう一つ。
昔、ウィルから貰ったあの大切な手紙——
何度も読み返してボロボロになった手紙を
……同封した。
——ありがとうウィル。素敵な出会いでした。




