62.傷ついた心
ウィルとヘレナが親密そうに過ごすプライベート
ルームの近くを通りかかる人影があった。
「あら…お久しぶりね。確か…ヘレナ様?」
スレイドの妃イザベラだった。
日常的にドレスを着こなし、美しく着飾る。
まさに貴族の令嬢であった。
「今回も王宮と語学の研究かしら?
そろそろウィルブラント様も婚約者をお決めになる
頃ですのに…。誤解されるのではなくて?」
さっと頭を下げ、半歩下がるヘレナ。
しかし…今回も返す言葉が見つからない。
「イザベラ様。ヘレナ嬢は今回、私の客人として
ここにいます……無下にされませんよう」
ウィルは毅然とした態度で堂々と答えた。
その言葉に、二人の関係性を察したのか、
「……それは、ごめんなさい。王城でその様な話は
でなかったから…わからなかったわ。
それでは…私はこれで…」
足早に去っていくイザベラ。
すぐにウィルが後ろを振り返ると…
——ヘレナの手は小さく震えていた。
※※
イザベラの自然で完璧な振る舞いをみると、
夜会でその優雅さに引き込まれた瞬間を思い出す。
そして、
努力が砕けたあの日と、取り戻すのに苦労した
大学での日々が自然と蘇った。
しばらくして少し体に異変を感じた。
ウィルに付き添われて客室まで戻ってきたヘレナ。
「少し、寒気がするわ」
ウィルがヘレナの頬に手を当て様子をみている。
「…熱があるかもしれないな…ニナ。医師の手配を」
「畏まりました」
——ヘレナはそのまま寝込んでしまったのだ——
「ニナさん。ごめんなさい。アルベルトまで、
ついてきて貰ったのに…」
「いいえ。むしろご一緒していて良かったです。
「ヘレナ様が、こんなに苦しんでいらっしゃることを知らないままの方が——」
ウィルから先ほどの事情を聞き、ニナも心を
痛めていた。
あの夜会の日。もっと自分にで来た事があったので
はないか。自分が一番ヘレナの状態を知っていたの
に。
ニナはそれが悔やまれてならなかった。
そして——殿下にも申し訳ない。
ニナもそんな思いを夏からずっと抱えていた。
「——ニナさん。
私のために、ウィルがイザベラ様や
他の王族、貴族の方と仲良くできなくなる事が
今は一番つらいです。
——私がウィルの幸せを奪ってる」
「決してそのようなことは!」
ヘレナの涙は止まらなかった。
ニナは心優しいヘレナを抱きしめるしか
できないでいた…。




