56.二人の方向
「ヘレナ様のもつ、将来を選択できる自由に
嫉妬されたのでしょう」
ニナはヘレナの心が少しでも
穏やかになることを願った。
寝台に入っても、彼女の曇った瞳が
頭の中を離れることはなかった。
※※
自室に戻ったウィル。
夜会の間中、視界の隅にヘレナを捕らえていた。
誰かが話しかけた時も、
貴族に紹介された時も
笑顔だったヘレナ。
人が集まり始め、少しヘレナの表情が
見えなくなってきて…
最初は、とてもうまくいっていると感じたのに。
そばで守れなかったことが悔しかった。
すぐに駆けつけられない立場が苦しかった。
あんに頑張ったヘレナを悲しませたことが
とても辛かった。
最初の夜会で一人にすべきではなかった…。
ヘレナの隣にいて守ってあげたい。
ウィルは強く思った。
※※
マッサージが終わりニナが退出した後、ヘレナは
先ほどの話を思い返していた。
生きる世界が違うということは
こんなに誤解が生じやすいと知った。
そう思うと、何も知らずに出会い
あんなにぴったりと息が合ったウィルは
まさに特別な人だった。
しかし、
ヘレナは、ウィルと自分の違いをより強く感じた。
豪華な部屋とベッドが、ヘレナには不相応な気がし
てならなかった。




