54.曇る瞳
ウィルは、その周辺の空間の変化にすぐに気
づいた。
それがちょっとした事であってほしい。
ヘレナがかわせる程度の事で終わって欲しい。
今すぐ駆け寄りたい衝動とたたかう。
この何百という貴族の視線を
集めている王族は、その視線の先すら、
気づかれてはならない。
ヘレナ——大丈夫だろうか。
何かあったのか?
ウィルは手をぐっと握りしめていた。
ニナの報告を聞きたいが、
——それも夜会が終わってからだ。
スレイドは、ウィル様子と会場の雰囲気を視界の隅
で感じ取っていた——。
夜会は、ヘレナのことなどまるで何も無かった
かのように時間が過ぎて、華やかに終わった。
「——ヘレナ!」
ウィルは、着替えもせずヘレナのもとへ駆けつけ
た。
エスコートした時と変わらない美しい装いのヘレナ
であったが、表情は少し沈んでいた。
「何があった?どんなことでも僕に話して」
長椅子の隣に腰掛け、そばで待機するニナの
ことも気にせず、ウィルはヘレナを抱きよせた。
「……うまく出来なかったの。それだけよ」
ヘレナの表情は少し…硬かった。
次々と起こったことを、今はまだ、
思い出したくなかった。
「それでは…わからないよ。なにか…話してほしい」
貴族社会はときに残酷であることもウィルは
分かっている。しかし、他国の客人にこのような?
「——殿下。今は…」
ニナが、ウィルも落ち着かせようと声をかける。
「今夜はヘレナ様の疲れが取れるように
マッサージを準備しましたので、また明日
お二人でゆっくりお過ごしくださいませ」
ウィル達は一度、冷静な時間を持つことを
勧められた。




