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ヘレナとウィル〜隣国の王子と交わした約束〜  作者: シャルru


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53/79

53.はじめての夜会


 「……なところでしょう?」

 ——しまった!

 

 スレイドとイザベラに気を取られ、隣の令嬢の

 会話を少し聞きそびれた。

 

 慌てて失礼を詫びる。

「失礼致しました。お二人に見とれてしまいまして… 

 少し聞き逃したみたいです」

 素直に述べる。


「……あら…それほど優秀ではないのかしら?」

 チクリと一言。


「まだ、勉強が足りないかもしれませんね」

 と笑顔で答えられた。


 ウィルも周りに気づかれない程度に、

 常にヘレナを視界に収め、様子を見ていた。

 

 不自然にならぬよう自然に…ヘレナ向けニコリと

 笑顔を向けた。


 ウィルの笑顔でヘレナは包まれるような安心を

 感じられた。

 良かった。なんとか私も過ごせているのだわ。

 

「そういえば、うちの家庭教師はフェルラー出身だ

 わ」

 輪の中にいた一人の婦人が言う。

「あなたもいずれアルベルトのどこかの家庭教師とし

 て働く事になるのかしら?」

 

 少し下に見たような目線。

 ちょっとした牽制だ。

 

「まだ将来は決めていませんが、国の橋渡しが

 できるようなお仕事ができると嬉しいです」

 笑顔で答えるヘレナに、

 

「…っ…いずれにしても、ご自身で働くのは同じね」 

 と、軽くあしらわれた。


 「はい。そうですね。」


 ヘレナは自身が働くことを当たり前だと思ってい

 る。むしろ身につけたものを活かすことは誇りだ。


 が、周りの反応は違っていた。

 クスクスと、冷やかな笑いがそこら中から

 聞こえてきた。


 その状況がヘレナには『良いものではない』という 

 ことしかわからなかった。

 少し疲れたこともあり、その場から離れ 

 ようとしたその時……。


 ヘレナのスカートの裾が隣の女性の、流れるような 

 ドレスの裾と絡まり態勢が崩れた!


 ——しまった!


 ヘレナはよろめき、足をひねった。

 そしてヒールが脱げてしまった。

 

 はっ!としたが、かがんでモノを拾うことなど

 してはいけない。


 このトラブルに対応する知識を

 ——持っていなかった……。


「あら…?どうされたのかしら?裸足のようだけれ

 ど」

 先ほどの婦人が周りに聞こえるように声を上げる。

 

 その場の視線が、一斉にヘレナへ集まった。

 一瞬、空気が止まる。

 そして、

「……まあ。」

「お気の毒に。」

 と小さな声が聞こえ、 やがて囁くような笑いが

 再び漏れ始めた。

 

 先ほどの男性がすぐに跪き、ヘレナにそっとヒール 

 を履かせてくれたが、硬直した顔は笑顔でお礼が言 

 えない。

「あ…りがとう。ござい…ます」


 男性は優しく微笑み、すっとその場から離れ、

 ヘレナは、婦人達に囲まれたままとなる。


 すぐに異変を感じたニナが、ヘレナの元にそっと

 やって来た。

「——お客様、お疲れのようですからどうぞあちら

 へ」

 と、王族が招待した客人であることを周囲に説明し

 ニナはヘレナを下がらせることにした。


 その間も、頭の中は真っ白になり、胃が締め付け

 られるような気持ち悪さで、その場を後にした。

 

 

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