52.華やかな世界
——夜会当日
午前中はウィルと王城をみて回った。
一番高いテラスから見渡せる景色は、
一枚の絵のように美しい。
それから、
ウィルが生まれた時に作られた庭園を散策し、
まるで家族になったような特別な時間を過ごした。
もし、あのお茶会の後、すぐフェルラーに
帰っていたら、こんな時間は持てなかったかも。
王城の空間にも慣れてきた自分に、少しホッとし
た。
そして昼すぎには夜会の準備に取り掛かる。
このところ丁寧なマッサージを受けていたので
ヘレナの肌は透明感と瑞々しいしさで輝いて
いる。
今日のドレスは、ウィルの意見が十分に反映
されていた。
「まだ僕の婚約者と宣言出来ないのに、
若い貴族達がヘレナに恋しては困る」
独占欲を発揮して、控えめな美しさを追求した。
色もオフホワイトにして、
目立たず、学生にしては少し地味な
仕上がりとなった。
それでもヘレナが元からもつ品の良さは
隠せるものではない。
「ヘレナ…貴族子息には十分距離を保つんだよ?
それと…あまり…可愛い笑顔を見せないように…」
夜会で、ヘレナは自分の恋人だとさっさと宣言した
い気持で一杯だった。
整えた髪や装いが乱れぬように、そっと抱きし
める。
「ウィル…」
「殿下の独占欲で固めても、ヘレナ様の美しさは
溢れてしまいますね」
ニナはずっとヘレナを想うウィルを見てきたの
だろう。
微笑ましくその様子を眺めていた。
——夜会·宮殿
王城の敷地にある大宮殿。そこで開かれる夜会。
この日の為に国中の貴族達が最高に贅沢な時間を
すごす。
きらびやかな装いと、ため息がでるような
所作。優雅なひとときが始まろうとしていた。
ヘレナもウィルにエスコートされて
会場に入った。
「ウィルブランド殿下だわ…」
——すぐに視線を感じる。
「……まぁ、あの方は?」
「他国からのお客様とか…でもどのような?」
「王族からエスコートされるなんて…」
ヒソヒソと話す声は、
ヘレナを緊張させた。
何か、自分は他と違うのだろうか…
「ヘレナ。皆、珍しいだけだ。すぐに興味は
兄上とその婚約者に移るよ。大丈夫」
貴族令嬢達から余計な詮索を受けぬよう
サラリと手短に伝える。
ヘレナには周りの反応が普通のものなのか
判断することも出来ない。
けれどウィルの一言で落ち着きを取り戻せた。
そしてそれぞれの場所へ。
ウィルは壇上の王族の席へ、
ヘレナは、端の方の目立たないテーブルにつき、
夜会が始まるのを待つ。
少し周りを気にしながら、グラスをもって
待っていると…
国王の挨拶が始まった。
「ようやくわが国の第一王子の婚姻が正式に決まり、
それを、皆で祝いたいと思う——
——それでは…乾杯!みな今日を楽しんでくれ」
それからは、それぞれ自由に過ごし
場を盛り上げている。
貴族達は、皆慣れた様子で、
お互いの近況を話したり、周りの令嬢を気にかけた
り…スレイドやウィルに挨拶に向かう者も…。
——この会場の全員が、生まれた時からの
知り合いであった。
そのきらびやかな世界にのまれそうになっていた。
「失礼、ご令嬢。」
一人の男性が話しかけてきた。
「先ほど殿下のエスコートを受けていた令嬢かな?」
「はい。そうです」
「噂では他国の学生とか…。一体どちらの?」
ヘレナは、内容にも気を配る事を忘れない。
「フェルラー外国語大学の学生です」
——あくまでも外国語を学ぶ学生。だ。
「——そうか。美しい才女だね。驚いたよ」
そんな会話をしていると、数人が加わってくる。
「殿下とは知り合いでして?」
「いえ…数回お顔を拝見した程度です」
みな、声をかけるタイミングをみていたように
集まってくる。
思ったよりも、興味を引いてしまい、
ヘレナの緊張は高まる。
ドレスの距離が、手の位置が、
——まだ余裕ない自分。
「あちらに、フェルラーに精通した令嬢がいる。
良かったら紹介するよ」
さっと腕を差し出され、『エスコートだな』と
頭の中で整理するくらい、まだこの世界を
楽しむ余裕などなかった。
男性は、ヘレナを会場の中程へ誘う。
「——ありがとうございます」
ヘレナは慎重に足を進め、男性もゆっくりと
案内してくれた。
お礼の笑顔も忘れない。
ドキドキしながらも夜会は進んで行く。
「——皆、楽しんでいるようだな。
そろそろ、今日の主役を紹介せねば…
わが国の王子、スレイド·フォン·アルベルトと、
その婚約者、イザベラ·オーヴェルニュだ。
これからもよろしく頼む」
スレイドとイザベラは壇上で並び、
まるで二人で一つの絵のように、柔らかで
優雅な礼を見せた。
——その気品に…ヘレナは圧倒された。
ヘレナが目指していたものとは……
ニナとは格段に違う——品格がそこにはあった。
全然……違う。ヘレナは顔色が変わった。




