44話 知らない事
食事が終わり、プライベートルームに移動
して二人で過ごす事にした。
ソファーに並ぶように腰掛けると、自然と
見つめるように話していた。
「ヘレナ、大学の生活はどう?」
僕の知らないヘレナの事を沢山聞きたい。
大学の事、授業の事、一人暮らしの事、友達の事。
「すごく勉強になるわ。他国の人との関わりって
自分はどうだろうって考えたり、皆と討論したり
それが夜までつづく事もあってね…。
でも寮だから…誰かの部屋に集まってそのまま朝ま
で討論してすごしたりして…——。」
ん? 朝まで?
僕は聞き間違いだと思った。いや、思いたかった。
それで、そこを改めて質問してみる。
「あの…さ、皆と朝まで一緒なの?」
「うん、そうよ」
可愛い瞳でまっすぐ答えるヘレナ。
大好きなヘレナと朝まで居られるなんて……
友人達が羨ましい。
しかし、もう少し詳しく確認しなければ。
「……その討論って男性も一緒なの?」
そこが大切な確認だ。
「ん〜。途中までは一緒だったけど、夜遅くなったら
それぞれ自分の部屋に戻るわ。」
いつの日かを、思い出すように話した。
もう既にそんな日を何日か過ごしたのだろう。
「……え?個人の部屋に大勢で集まったら…
もしかして…凄く近くに男性がずっといるの?」
僕は想像して数秒固まった。
まさか…そんな日常を過ごしているなんて!
外国語を学ぶとは、会話を通してお互いを知り
コミュニケーションをとって学ぶ。
学生の間に深く付き合える学科でもあった。
「そ、それは!ダメだ!ヘレナ!」
突然、声を張り上げたかと思うと、
ウィルはヘレナの両手首をぎゅっと掴んでいた。
今のところ、ウィルの最大懸念事項である。
目の前の困惑した顔は初めてみる表情だった。
「ウィル?」
「ヘレナ。僕は君と過ごした日が他の誰かとの
思い出で上書きされるなんて嫌だよ。」
そう言って、ぎゅっとヘレナを抱きしめる。
学園でいつも2人で過ごした日々。
いつもヘレナの隣は、ウィルだった。
いつも一番近くで。
「え?」
ヘレナにとっては、どう考えても勉強の一部
だったが、ウィルにとっては、そうではない。
「——ウィル。ヤキモチ?」
抱きしめたヘレナから、冗談っぽい声がする。
認めざるを得ないウィルは言葉を発しないでいる。
「——でもね。これは授業の延長なの。だから
心配しないでね」
僕を見上げてニコリと微笑んだ。
どうしよう——ヘレナが、かわいい。
ウィルの心配はこの時さらに倍増したのだった。




