36.夢に向かって
もうすぐ夏休みに入ろうとするある週末、
ヘレナは大学の近くにある、文具店にいた。
今までウィルに、どんなプレゼントをしたら
良いかわからなかったけど、
手紙をもらった嬉しさを改めて思い出し、
ペンを贈ることにした。
きっと手紙を書く時以外でも、
見るたび、ヘレナを思い出してくれそうな
気がする。
ヘレナの短く切った髪に似合う、
このイヤリングのように……。
少し奮発して、いちばんいいペンを買う。
手に馴染みやすい、少し重みのある
青いペンだった。
「メッセージや、名前を入れることもできますが
どうされますか?」
店員の提案に、少し考える。
「夢に向かって…と刻んで貰えますか?」
それぞれの場所で夢に向かうという意味と、
二人で夢に向かって頑張ろうと言う意味が
込められていた。
いよいよ夏休み。
学生達は、一時帰国する人や長期旅行にでかける人
それぞれの予定でいつもより賑やかだった。
ヘレナは、父から長期旅行に出掛けるといいと、
言われたので、アルベルトに行って来るとだけ
伝えた。
レイチェルと校内で話していると、
「さっきから、ヘレナをみている男性がいるけど…」
と、ニヤニヤしている。
「え?」
振り返ると、カイ先生と隣にどこかで見たことのあ
る女性がいた。
「じゃ、私は先に寮に帰ってるわね!」
「カイ先生!お久しぶりです」
「いつまでも先生ではないけどな…」
そうだった。もう先生ではなかった。
「でも私にとっては、学校の先生以上の先生ですか
ら」
「しっかり主張するようになったな」
先生は、私の性格もよくわかっている。
それは、受け身である事。
「ところで、今日はまた特別な用で君を探してた」
「何でしょうか?」
「夏休みにアルベルトへ行くだろう?」
ドキリ。先生にウィルとのことはもちろん
知られているのだと改めてわかった。
「今度、アルベルトの王城に用がある時は、
リッツの屋敷の侍女が付き添うことになっている。
心配するな。夏休みもここへ彼女、ニナが来るそう
だ」
どこかで見たことがあると思っていたら
リッツの屋敷の侍女だった。
「ヘレナ様、よろしくお願い致します」
侍女は伏せ目がちに軽く頭を下げた。
「こ、こちらこそ何もわからないので、
よろしくお願い致します」
考えてみれば、王城に行けば、きっと王族の皆さん
と会うことも有るだろうし、
そこで働く方にも会うだろう。
どんな服装でどんな振る舞いが失礼ない態度なのか
すらわからない。
ヘレナは、さっと青ざめる自分に気がついた。
「その様子だと、やはり行くということだけ決めてい
たようだな」
カイ先生は、
アルベルトへ行くまでの間、リッツの屋敷で
最低限のマナーを学んでみてはと提案してくれた。
「ウィルが留守なのに…良いんでしょうか?」
ヘレナは、変な感じがした。
「ヘレナ様。リッツの屋敷は殿下に関わる全ての事を
お手伝いする場所でございます。ヘレナ様に必要な
ことは、私どもが整えます。」
ニナさんはしっかりした侍女さんだった。
「では、お願いできますか?大学が休みにはいったら
伺います」
「では、その頃にお迎えにあがります」
——すごい。
カイ先生は少し笑っていたが、
君にとっていろんな意味でよい経験に
なると思うよ。と言ってくれた。




