29.最高の夏
週末——
「ヘレナ、友達が来たわよ」
「え。ホント?」
まさか普通にやって来ると思わなかった。
ドアを開け放ち、
階段を駆け下り玄関ホールへと急ぐ。
「おはよう。ちょっと早かったかな?」
ウィルだ。
全然変わらない。
以前のように自転車でウィルの後について行く。
久しぶりの懐かしい感覚に、自然とワクワクしてく
る。
「どこに行くの?」
早く今日を楽しみたくて、前のめりに聞く。
「2人のベンチで行き先を考えよう!」
やっぱりお互いの顔を見て話したい。
川沿いのベンチは、
夏だというのに涼やかな風が気持ちよかった。
毎日勉強ばかりしていたヘレナは、
ひさしぶりの外の景色が眩しかった。
「ヘレナ、会えて嬉しい。それに、そのブレスレット
やっぱりよく似合ってる。素敵だよ」
ウィルに褒められて嬉しい。
久しぶりで、ぽっと頬が熱を持ったのを感じる。
「ウィルはどうしてたの?私はね、
勉強すごく頑張ってるんだよ」
お互いの近況を報告する。
「僕は、兄と共に父上の補佐をしているよ
ああ、それと、兄の婚約者が決まってね。今度婚約
パーティーがあるんだよ」
——婚約パーティー。
ウィルの住む世界は、今更だけど別世界に感じた。
「じゃあ、世界中のニュースになるの?」
「うーんそうだね、王位継承者だからね」
ウィルの住む世界は、その行動や発言が世界に発信
される世界。改めて今隣にいるウィルとの距離を少
し感じた。
「それより、今日は、どこに行きたい?」
「えーと…中央公園とか?」
「じゃ、そこに行こう」
リッツ中央公園には観覧車や、メリーゴーランドな
どの遊具があり、デートスポットになっていた。
今度はヘレナの自転車の後に、ウィルがつづく。
三十分ほど、暑さの中自転車を漕ぐと、
着いたころにはTシャツの背に汗がにじんで
額には整えたはずの前髪が、べったり貼り付いて
いた。
「暑ーい!」
暑さで真っ赤になったお互いの顔を見て笑い合う。
王子も平民も同じだった。
きっと明日は焼けた肌がピリピリして痛むだろう。
「ウィル、メリーゴーランドに乗ろうよ
似合いそう。」
「こんな乗り物は、乗ったこと無いな〜。」
ウィルは、回転するメリーゴーランドを
珍しそうに眺めている。
1頭の木馬車に2人で乗ろうとするウィルに、
なんで?と聞くと、
「馬の1人乗りは、慣れてないと危ない」
と、真顔で言うウィルが可笑しくて、
「こう見えても、この馬は上手に乗れるのよ」
と自慢するヘレナだった。
その後も観覧車や、ミニSLに乗って
はしゃぐ2人。
「アイス食べたいな」
「ちょうど僕も思ってた。買ってくるよ」
噴水の近くのベンチでウィルを待っている。
水しぶきが時々とんできて、涼しく感じる。
今年の夏の大切な思い出を
刻みつけておきたい。
公園の雰囲気も、この灼熱も、これから食べる
冷たいアイスも。
今日一日、ウィルと交わした言葉の一つ一つと
仕草の全て。
ヘレナにとって忘れられない1日になった。
——昼も過ぎて…
「中央公園は満喫できた?」
ウィルがヘレナに聞く。
「うん。とっても楽しかった」
「少し、屋敷へ寄っていく?
よければ夕食を一緒に食べよう」
パンプスでお邪魔した日以来の
ウィルのお家だった。




