27.限られた日々
夜。ウィルの邸宅——
一日を終えて、ゆったりとくつろぐウィルの様子を確認し、執事はある人物から報告のあった件について伝える事にした。
「殿下。以前、ヘレナ嬢を見守るための人員を配置い
たしましたが、その者よりヘレナ嬢に大学の推薦を
紹介したという報告がありました。
問題ありませんでしょうか?」
カイ·グレゴリーは、王室とも関わりがある三か国国家機関職員だ。執事も個人的に彼を知っていて学園に入るには人柄も有能さも適任と思われた。
執事の報告にウィルはカイ先生を思い浮かべた。
そうか…彼は。
「外国語の?」
「…はい。さようでございます。」
「……。ヘレナにとって良い指導者なら問題ない」
しかしあまり遠くても…
手の届かない国に行ってしまうかもしれない
不安でウィルは少し心配になった。
※※
「すごいわね!フェルラーだなんて!」
母は飛び上がって喜んでいる。
「お祝いしなくちゃ。お父さんにも明日必ず言う
わ!」
「まだ、資料を貰っただけよ?」
「だって、推薦枠でしょ?先生個人の。きちんとお礼
を言ってね」
話をしてから、母のウキウキはずっと
止まらなかった。
部屋で資料をめくる。
外国語を本気で学びたい人は、皆フェルラーを目指
す。と言われる位の世界の名門。
将来の夢を高くもつ生徒を待っている。
と書かれていた。
——夢。
アルベルトでも、きっと役に立つはず。
ウィルの隣に並ぶ自分に、自信をつけるためにも、
頑張ってみようと思った。
※※
その後、ヘレナはフェルラーの正式に
推薦枠を手にした。
ウィルも生き生きするヘレナを応援する事にして、
お互いに前を向いて行く気持ちを共有しながら
残り少ない、ウィルとの時間を過ごしていた。
そして…3月。
『2人のベンチ』で二人は、川から吹く冷たい風に肩をすくめながら、身を寄せ合っていた。
「ウィル。やっぱり寒いよ」
気を抜くと、歯がカチカチ鳴りそうだ。
「じゃ、もっとこっちに来て」
もう既にぴったりくっついている。
温めるようにウィルがヘレナの腰を引き寄せる。
その力強さと独占欲に顔がほころぶ。
「ウィルの顔、しっかり見ておこうっと」
冗談っぽく話しながらも、
ウィルの横顔を焼き付けておこうと、真剣になる。
その表情に気づいたのかウィルは珍しく
淋しそうな声。
「なかなか会えないみたいに言うのは嫌だな…
そんなに遠い国じゃないよ」
実際、1日あればアルベルトへ行ける。
でも、友達の家の様に遊びに行くことが出来ない。
遠い場所——。
「ヘレナ、長い休みは会えるようにするよ。
保護者の許可なくヘレナがアルベルト行くのはまだ
難しいから…数回なら僕がリッツに来られると思
う」
ウィルが話すと、本当にできそうな未来に感じた。
「ヘレナは、一番に進学先決まってるからって
遊んでたらカイ先生に取り消されるかもよ?」
「そんな不吉なこと言わないで〜」
「……カイ先生は信頼できそう?」
「もちろん。尊敬してるよ」
「じゃあ、安心だ」
いつも通り笑い合える時間は、もう、あとわずかだった。




