22.二人の世界
ウィルが王子だった。
アルベルト国なら、話すことすら叶わない相手。
隣に並ぶ事も、手を繋ぐ事も無かった人。
そんな相手に恋をした自分。
ヘレナは、高い塔に閉じ込められた様な、孤独な
気持になった。
「僕は、王族だからといってヘレナを諦めたくないと
父上と母上に、そして兄にも話した。
それで、身分を君に明かしたんだよ」
王にも知られた、ヘレナの存在。
国家レベルの秘密であるウィルの素性。
その現実味のない、しかし強大な真実は
ヘレナの心に重く埋め込まれた。
リッツ国に住む一般的な学生であるヘレナ。
成績も平均的で、何人かの友人がいて、
少し裕福ではあるが、淋しい家庭の子。
それはヘレナが考えても王子に
——相応しい相手ではなかった。
ヘレナの顔色は悪いまま。
まるで罰でも与えられたかのように、手をぎゅっと
握っている。
手のひらには冷たい汗が滲んできた。
ウィルは、そっとヘレナの背中に手を当てた。
「ヘレナ。大切なのはお互いを思う気持ちだと
僕は考えている」
ウィルの瞳は、揺れるヘレナの瞳をじっとみてい
る。
彼はアルベルトでずっと1人考えてきたのだろう。
迷いのない、落ち着いた声。
「父上達も反対したわけではないんだ。
ただ、王族だと知ってどうするか。それでも気持が
硬ければ、そこからいろんな事を覚えていけばい
い。
——それに、僕は第二王子だ。
王位は兄が継ぐことを希望している」
そこまで話すと、少し顔色の悪いヘレナを心配する
ようにみつめる。
ただの学生の恋…それが王子だったなんて…
ウィルから見ても、語学は飛び抜けて優秀で
周りに気遣いができて、更に目を引く
美しさを持っている。
苦手な数学をすぐに投げ出すこともなく、
取り組む努力も出来る。
今から王族としての妃教育を受ければ、
何ら問題はないと思った。
少しの不安要素があるとすれば…兄。
「——ただ…兄が体が弱く、王位についても
フォローすべき事は沢山ある。しかしそれは
主に僕の役割だ」
ウィルはヘレナの手にそっと手を重ねた。
慣れないヘレナを護れるくらいの王子になることは
当然の事だ。
「——これがすべてだよ」
優しくヘレナに告げた。
「だから、二人の事を反対されたわけではないんだ」
ウィルは隣で小さくなってしまった彼女を
抱きしめた。
「私——。ウィルが王子だと知ってたら、
好きになったかな?」
ヘレナがポツリと呟いた。
「王子であってもなくても。僕は僕だ」
ウィルは、ヘレナが高位貴族であっても、
一般市民であっても関係なかった。
ウィルがずっとそばにいたいのは、ヘレナだから…
たとえ、彼女が王族になって最初は不慣れで
大変だったとしても、これほど思い合って
結ばれた相手なら、乗り越えられる。
——そう信じている。
——ウィルには、その壁を越えられない未来など、ま
だ想像できなかった。




