20.本当の彼
放課後、ひさしぶりにカフェに寄り道していた。
「ヘレナ、今度ゆっくり話したいんだ。
週末二人でどこかに行かない?」
「うん…。いいけど、最近母が、毎日家に居てね。
あまり遅くまでは居られないの。」
「そっか。でも良かったね。家に一人はさみしいから
ね」
「じゃ、朝早く出発しよう。」
「わかった」
カフェは同じくらいの年齢の学生ばかりだ。
学園の生徒もいた。
周りらからは、仲の良いカップルに見えるだろうか。
笑ってお茶を飲んだり、ケーキを一口交換したり
そんな二人が、
本当は、国を跨ぐような壁を抱えているなんて
誰も想像つかないだろう。
週末が来るのが怖いような…
ヘレナは自分の気持ちを確認するように
ウィルを見つめた。
——週末——
ウィルとは、川沿いにある『2人のベンチ』
と名付けたベンチで待ち合わせした。
川からの爽やかな風が気持ちいい。
「ヘレナはどこかいきたいところはある?」
いつも何となくウィルが決めてくれるので、
なにも考えていなかった。
「今日は考えていなかったわ。ウィルは?」
「なければ、文化博物館にいかない?」
——また、予想外の提案だった。
「うん…いいよ」
自転車で1時間程の距離にある、博物館へ移動す
る。
時々振り返っては、ヘレナを気遣ってスピードを
緩めてくれる。
そんなウィルの背中を追いながら…。
出来たばかりの博物館には、
リッツ国にまだ王族が存在した頃の文化から、
現在に至るまでの展示品や、書物がそろっていた。
丁寧に保存されていたであろう品々は、
使っていた様子が思い浮かぶほどリアルに
展示されていた。
「リッツは、なぜ王族制が終わったのかな。」
ウィルは、資料を真剣に見ていた。
「んー詳しくは忘れたけど、確か子孫に恵まれず、
遠縁ばかりが王の座に着く様になって、存続出来な
くなった…だっけ??」
授業で習った様な?…と思い出しながら、
この国の歴 史を話した。
「そうか…リッツ国は今と、王族制があった頃と
どちらが幸せなんだろうね?」
ヘレナは今、この国に王族がいる事を想像してみ
た。
「うーん。想像つかないわ。今が当たり前すぎて。
ウィルはどっちが好き?」
「……僕は——」
ウィルは考えた。もし王族でなければ…
ヘレナとも出会ってなければ…
自分はどちらの国に、いたいと思っただろうか。
「そうだな…。ヘレナが、居る国ならどちらでもい
い」
——。
「それって答えじゃないよ〜ウィル。」
でもそれが僕の考えだよ。と言った風だ。
博物館には、王族が所有していたものが
沢山展示されている。
装飾品、王家に伝わる剣、調度品、妃の衣装。
きらびやかな生活が伺える。
このドレスは、パーティー用なのか
日常用なのか…それすら想像出来ない
王族の生活…。
「凄いね〜。こんな生活してたんだね」
ヘレナは感心している。
「ウィルは、こういうのに興味あるの?」
学生のデートで来るようなところではない博物館を
わざわざ帰国して最初に誘ったことが
意外だったようだ。
ゆっくりと歩いていると、館内の柱のよこにソファ
ーを見つけた。そこに二人で並んで座る。
少しの沈黙のあと、
「ヘレナ…少し真面目な話をしてもいい?」
ウィルの優しい笑顔は、緊張を含んでいた。
——来た。ヘレナは思った。
どんな驚く話も、今日は最後まで聞く覚悟だ。
「うん。最後まで聞くよ」
ウィルは黙って頷いた。
「アルベルト国は、どんな国か知ってる?」
「ウィルが居なくなって、少し本で読んだよ。
今でも王族がいて、貴族制を取っている歴史ある
国…だよね?」
「——そう。なんだ。」
ウィルは、少し言葉に詰まった。
ヘレナは王族の可能性を考えただろうか…?
「——私ね、ウィルは大きな貴族なのかなって
思ったの」
ヘレナは思い切って、自分が想像したことを
先に話した。
「きっと、一人息子で…大きな貴族だから、いつまで
も留学させることが出来なくて…早く帰って家を継
がないといけない…とか?」
ここまでなら、想像出来たから聞いても驚かない。
びっくりするけど…とヘレナはつけ足した。
「僕には兄が居るんだよ。」
ポツリとウィルは話始めた。
「それでね、僕の名前はウィル·オルマイヤーではない
んだ——」




