11.ウィルの隣
その後はお互いにずっと言葉が出ないままだった。
ドアがノックされて、
執事が、あまり遅くなってはご家族が心配されます
と言って、今日はもうヘレナと別れる時間になっ
た。
昼にヘレナを乗せた運転手が車を準備し、
また待っていた。
同じ様にドアを開け、ヘレナが乗り込むのを待つ。
その時、
「帰りは、運転手さんだけで大丈夫。
両親が帰っていたら驚くから…」
そう言って、ウィルに力なく微笑んで、車に乗っ
た。
運転手は、チラリとウィルを確認していたが、
小さく頷くウィルを確認し、運転席に乗り込み
車を走らせた。
昼に見えた景色はもう暗闇に紛れて、どこを走って
いるのかもよくわからなかった。
きっとこのまま、知らない場所に降ろされても
わからないかもしれない。
しばらくして、見慣れた街並みに気付いた
いつもの場所にあるいつもの家
いつも誰もいない——家
…ガタン。
眠りが浅かったのか、両親が帰宅した音に気づく
誰かが階段を登ってくる音がする。
思わず眠ったふりをする。
「ヘレナ…もう寝てるわよね…」
いつもは知らない。自分が眠ってからの我が家。
こうして毎晩、母は様子を見に来ていたのだろう
か。
知らない間に、気にかけていたとしても
ヘレナはなにも知らない。
伝える努力をしなければ、愛情など伝わらないの
だ。
今までヘレナに沢山の愛情を伝えてくれたウィル。
だけど、今は彼の思いは伝わらない。
伝える努力をしなかったから?
違う。
ウィルは伝えられなかったんだ。
嘘をつこうとしたのではないはず。
どうしていえなかったんだろう…
それを聞くこともなく帰ってきてしまった。
でも…もう今更なにも聞くことはできないと思っ
た。
ウィルは隣国へ帰る。
それしか答えはないのだから。
部屋が薄明るい日差しにてらされて、
この部屋の全体が見えてきた。
それでもまだ眠気の来ないからだを起こし、
シャワーを浴びる。
明日にはまた学校が始まる。
今日のうちにいつもの自分に戻らなければ…
ウィルとはどうしようか。
皆も心配するから、少しずつ友達に戻ろう。
もうお昼は友達と食べよう。
たまにはウィルと食べてもいいかな。
もうすぐ試験だし、放課後は図書室で勉強しなき
ゃ。
すぐに席が埋まっちゃうから、早く行かなきゃ。
いつもはウィルが席を取ってくれてたけど、
これからは自分でやらなきゃ。
休み時間には、『ヘレナの本貸して』
次の休み時間には、『借りてた本返しに来た』
また次の休み時間には『さっきのお礼のジュースあ
げる』
そうやって小さな用事を作っては、休み時間を
共に過ごすことになる。
それが可笑しくて、今度はなんて言うのかな?と
ミーシャたちとクイズにして遊んでた。
あはは、ほんとにウィルって、ヘレナが好きだよね
クラスのみんなが呆れるくらい。
ウィルの隣はヘレナ。だった。




