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第9話: 違法建築(スパゲッティ・アーキテクチャ)へのバックドア

第8話をお読みいただき、ありがとうございました。


北の連峰でシンが見つけたのは、設計者としての矜持を逆なでするような、醜悪な**「違法建築スパゲッティ・アーキテクチャ」**の塊でした。


第9話では、正面突破を避け、現場の隙を突く**「バックドア(抜け穴)」**からの侵入を試みます。

熱風が吹き荒れるダクトの中を這い進み、シンが目にしたのは、世界を私物化して私腹を肥やす「三流エンジニア」たちの傲慢な実態でした。


泥と油にまみれた元神様による、鮮やかな潜入劇をぜひご覧ください。

黒い霧が晴れた後、北の連峰の中腹に姿を現したその巨大な施設は、かつて天界で万物を設計した俺の目から見ても、吐き気を催すほど醜悪なシロモノだった。


山肌を暴力的に削り取り、剥き出しになった岩盤に直接、太い鉄のパイプが何十本も突き刺さっている。周囲の景観との調和インテグレーションなど一切無視。ただ下層の龍脈からマナを吸い上げるという「機能」だけを肥大化させた、ツギハギだらけの違法建築だ。


「……ひどいな。無計画に増改築を繰り返したせいで、配管が絡み合っている。まるで三流エンジニアが書いたスパゲッティ・コードだ」


「スパゲッティ……? 食べ物の話?」


「いや、単なる『どうしようもないゴミ』という意味だ」


俺は端末を開き、アイズに施設の構造をスキャン(走査)させた。

 分厚い装甲に阻まれ、内部の完全なマップは描画できない。だが、熱源の分布とマナの流体計算から、大まかな「弱点」は割り出せる。


「正面ゲートは分厚い隔壁と、魔力探知式の自動砲台で守られている。正面突破ブルートフォースは不可能だな。……だが、どんなシステムにも必ず『抜けバックドア』はある」


俺がマップの一点を指差すと、リィルが身を乗り出した。


「ここ……山の裏側に回った谷底ね。昔、私たちが雨風をしのぐために使っていた自然の洞窟がある場所よ」


「ビンゴだ。奴ら、施設の冷却に必要な排熱口クーラーを、その天然の洞窟に繋いで偽装している。そこから内部の通気ダクトへ侵入するぞ」


俺たちは獣道を迂回し、施設の裏側へと回った。

 リィルの記憶通り、岩陰に隠された洞窟の奥には、鉄格子の嵌まった巨大な排熱ファンが不気味な低音を立てて回っていた。吹き出してくるのは、肺を焼くような高熱の排気と、オゾンに似た焦げた匂いだ。


「ファンが止まる周期は、三分に一度、わずか十秒間。俺が鉄格子をバールでこじ開ける。お前は俺の背中を踏み台にして、一気にダクトの中へ飛び込め」


「わ、わかったわ……!」


息の詰まるような熱風の中、俺たちはタイミングを合わせた。

 回転が止まった一瞬の隙を突き、錆びた格子を強引に引き剥がす。リィルが身軽に跳躍して暗いダクトへ滑り込み、俺も直後にその体を押し込んだ。

 直後、背後で巨大な刃が轟音と共に再び回り始める。コンマ数秒遅れれば、ミンチにされていたところだ。


熱と埃にまみれた狭いダクトを這い進むこと数十分。

 やがて、足元の金属板が格子状に変わり、そこから眼下の光景が透けて見えた。


「……ここは、施設の中枢コアか」


ダクトの隙間から見下ろした先には、巨大な円筒形のタンクが鎮座していた。

 タンクの中では、吸い上げられた純粋な龍脈の光が、暴力的な圧力によって圧縮され、固体――高純度の「魔力結晶マナ・バッテリー」へと強制的に加工されている。


「あれを密輸して、莫大な利益を得ているわけだ。第九十九中継所やルータン村が渇水するのも頷ける」


「……あいつ」


リィルが、憎悪を押し殺したような声で呟いた。

 彼女の視線の先、ガラス張りの快適そうな管理室コントロールルームの中に、一人の男がふんぞり返っていた。

 仕立ての良い神官服を着込んだ恰幅の良い男。ルータン村で、村長相手に「悪霊のせいだ」と嘘ぶき、献金を巻き上げようとしていたあの神官だった。


『……ふん、あの忌々しい風来坊め。村の杭打ちごときでマナが戻ったと喜んでいるようだが、ここからさらに吸引圧ポンプを上げてやれば、すぐにまた干上がるわ』


ダクトを通じて、男の独り言が響いてくる。手元のコンソールを雑に操作し、高価なワインをグラスに注いでいる。現場の苦労など一切知らず、涼しい部屋で「数字」だけを見ている人間の顔だ。


「……神官の皮を被った、ただの密猟者クラッカーか。最悪だな」


俺はダクトの格子を蹴り破り、管理室の屋根へと音もなく降り立った。リィルも俺に続く。

 そして、天井の点検口から、快適なエアコンの効いた管理室のど真ん中へと、泥だらけのブーツで堂々と飛び降りた。


「なっ……!? き、貴様はルータン村の……!?」


突然の侵入者に、神官はワイングラスを落とし、悲鳴のような声を上げた。


「なぜここにいる!? 厳重なセキュリティをどうやって抜けた!」


「セキュリティ? あんな穴だらけの排熱口を放置しておいて、よくそんな言葉が吐けるな」


俺は泥と油にまみれた姿で、ビロードの絨毯を踏み躙りながら神官に歩み寄る。


「お前たちのシステムを外から拝見したが、三十パーセント以上のマナが変換工程で漏洩パケットロスしているぞ。効率が悪いにもほどがある。それに、あのタンクの耐圧限界を超えた運用……いつ爆発クラッシュしてもおかしくない」


「うるさい! 教団の偉大なる錬金設備を愚弄するか! この野蛮人め!」


神官は顔を真っ赤にして叫び、コンソールの緊急ボタンを叩き割る勢いで押し込んだ。

 けたたましい警報音サイレンが鳴り響き、管理室の床がスライドして、四体の機械仕掛けの防衛兵セキュリティ・ドローンがせり上がってくる。

 先ほどの獣と同じ、赤く明滅するコアを持った鉄の人形だ。


「……あんた、どうするの!? 武器はあの鉄パイプしかないのに!」


リィルが壁際に身を寄せ、俺の背中に叫ぶ。


「心配するな。管理者アドミンが直接お出ましなら、わざわざ物理で壊す必要はない」


俺は鉄パイプを床に突き立て、端末から引き出した光のケーブルを、神官が立っているメインコンソールに向けて勢いよく放り投げた。

 ケーブルの先端が、コンソールの接続ポートにカチリと噛み合う。


「な、何を……!」


「今から、このクソみたいな違法施設の『管理者権限ルート』を、俺が上書き(オーバーライド)する」


俺は端末の画面を叩き、不敵に笑った。

 神の権能は失ったが、世界のソースコードを一番よく知っているのは、他ならぬ俺だ。

 さあ、ライブパッチ(緊急修正)の適用時間だ。

第9話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


無計画な増改築を繰り返した結果、自分たちでバックドアを放置するというお粗末なセキュリティ。

そんな「現場を軽視した管理体制」に、シンのプロフェッショナルとしての怒りが爆発します。


ついに悪徳神官と対峙し、コンソールを掌握し始めたシン。

彼がこれから行うのは、物理的な破壊ではなく、論理的な**「管理者権限の上書き(ルート・アクセス)」**です。


次回、第10話は**「管理者権限の上書き(ルート・アクセス)」**。

かつての全能感を彷彿とさせる、シンの鮮やかな「ライブパッチ(緊急修正)」にご期待ください!


この「現場主義」な物語を面白いと感じていただけましたら、ぜひブックマークや、広告下の【☆☆☆☆☆】評価で応援をお願いいたします!

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