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魔族王子に拾われた奴隷少年、魔眼で戦場を支配し世界統一の軍師になる  作者: 久能のの


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星降る王都の特務部隊殲滅戦 12

 広間に渦巻く重臣たちの動揺を眼下に収めながら、父王は深く目を閉じ、この取り返しのつかない事態の重さを、その分厚い胸の内でじっと受け止めていた。

 彼の統治哲学は、一貫して国の安定と現状維持であった。魔族の少ない人口を無為に損耗させるような蛮勇を忌み嫌い、リスクを極限まで排除して、確実な勝利と安全だけを積み重ねていく。それが、長きにわたりこの広大なグラン・ヴァルディア王国を平穏に導いてきた賢王としての自負であった。

 だからこそ、息子である統星の抱く世界統一という果てしない野望は、父王の目にはあまりにも急進的であり、無謀な火遊びのように映っていた。


 確かに統星は優秀な跡継ぎである。彼は父の出す厳しい条件の中で、霧の谷の要塞を無傷で奪い、鉄雨の砦を取り戻し、そして白銀の要塞では不敗のコルデア軍を丸ごと自陣営に引き入れるという、父の想像を遥かに超える莫大な戦果を挙げ続けてきた。論理と結果をもって己の正当性を証明する息子の才覚を、父王も内心では高く評価し、認める度量を持ち合わせていた。

 しかし、光が強ければ強いほど、そこに落ちる影もまた色濃くなる。

 統星の進める急進的な覇道は、必然的に他国からの激しい憎悪と報復を招き寄せる。コルデアの不敗の軍勢を寝返らせたあの白銀の砦の勝利こそが、今回の暗殺部隊という取り返しのつかない狂気を王都に呼び込む直接の引き金となったのだ。


 父王は、玉座の肘掛けをギリッと音が鳴るほど強く握りしめた。

 被害が出なかったから良い、という問題ではない。統星の命が、すなわち国家の命脈が、あわや断たれるところまで危機が肉薄した。そのリスクそのものが王都の中枢に存在したという事実こそが、父王の保守的な統治理念において、絶対に看過できない一線を越えたことを意味していた。

 このまま統星を自由に前線へ赴かせ、これ以上の波風を立てさせれば、いずれ必ず取り返しのつかない悲劇が起きる。狂気に駆られた敵の刃は、二度目は防げないかもしれない。王家の血が絶えれば、これまで築き上げてきた国家の安寧はすべて水泡に帰す。

 親としての息子を案じる感情と、王としての国家の存続を第一に考える絶対的な義務。二つの重圧が父王の巨躯にのしかかる。だが、玉座に座る者に迷いは許されない。彼はゆっくりと目を開き、その瞳に揺るぎない決断の光を宿した。


 その時、謁見の間の重厚な扉が、警護の兵士によって静かに開け放たれた。

 広間の空気が一変する。入り口から真っ直ぐに玉座へと続く豪奢な絨毯の上を、足音を響かせて歩み入ってきたのは、今回の事件の渦中にある第一王子、統星であった。

 月明かりを糸にして織り上げたような美しいプラチナブロンドの髪が、ステンドグラスの光を受けて微かに煌めく。洗練された騎兵服を隙なく着こなし、頭部の両側から伸びる王族の証たる一対の角が、彼の威厳を一層際立たせている。

 統星の黄金色の瞳には、自身が暗殺されかけたという恐怖も、死の淵を覗き込んだことによる動揺も、微塵も存在しなかった。ただどこまでも透き通った、極めて合理的な計算と未来を見据える覇者の光だけが宿っている。

 彼が広間を進むにつれ、重臣たちは無言の圧力に押されるように左右へと道を空け、深く頭を垂れた。統星が放つ圧倒的なカリスマ性と威圧感は、彼が単なる王の息子ではなく、すでに一つの時代を牽引する絶対的な中心点であることを証明していた。


 玉座の前に到達した統星は、歩みを止め、眼を伏せることなく真っ直ぐに父王を見上げた。玉座から見下ろす父王と、それを受け止める統星。父と子であり、現国王と次期国王でもある二人の視線が、張り詰めた空気の中で静かに交錯する。そこには言葉以上の、火花散るような意志のぶつかり合いがあった。

 父の堅実な治世を尊敬しつつも、それでは永遠の繁栄は得られないと革新を求める息子。息子の才覚を認めながらも、その野心がもたらす国家への致命的なリスクを封じ込めようとする父。

 広間を満たす重臣たちは、二人の間に流れる圧倒的な気迫に息を呑み、誰一人として声を上げることはできなかった。

 長く、重苦しい沈黙が続いた後、玉座に座る父王がゆっくりと口を開いた。


「……統星よ。星祭の夜の凶行、余もすべて聞いた」


 感情を交えない、腹の底に響くような声が広間に反響する。


「其方が優秀な配下たちを動かし、王都の民を一人として傷つけることなく危機を脱したこと。その手腕は見事であると評価しよう」


 父王は一度言葉を区切り、深く息を吸い込んだ。そして、眼光をさらに鋭く研ぎ澄ませ、眼下の息子を射抜くように睨み据えた。


「だがな、統星。結果がどうであれ、我が国の命脈たる王家の血が、斯様にも容易く危険に晒されるなど、断じてあってはならぬことだ。我が国の存在そのものが、薄氷を踏むが如き危機に瀕したのだ。これは、いかなる言い訳も通用せぬ事実である」


 父王の言葉は、雷鳴のように重く、広間に響き渡った。重臣たちの肩がビクッと跳ね上がる。

 統星は表情一つ変えることなく、ただ静かに父の言葉を聞き入れている。反論しようと口を開くことも、弁明のための言葉を探す素振りも見せない。彼はすでに、父が何を危惧し、どのような決断を下そうとしているのかを、その明晰な頭脳で完全に読み取っていた。


「王の血の重さを知れ。其方の命は、もはや其方一人のものではない。何万という民の命と、このグラン・ヴァルディア王国の永遠の歴史そのものを背負っているのだ。徒に危険を冒し、その身を敵の刃に晒すような行いは、王としての責務の放棄に他ならぬ」


 玉座から発せられるその言葉は、いかなる反論も許さない強固な意思に満ちていた。保守的な賢王として、国家の存続を第一に考える絶対的な義務が、彼の口から宣告の言葉を紡がせる。


「ゆえに、余は国王として、其方に決断を下す」


 父王は身を乗り出し、広間にいるすべての者に聞こえるよう、力強く、そして決定的な重みを持ってその言葉を放った。


「統星よ。其方には当面の間、自ら前線へ出撃することを禁ずる」


 その厳命が発せられた瞬間、謁見の間は水を打ったような静寂に包まれた。

 それは、最前線で自ら剣を振るい、圧倒的な知略とカリスマで兵を率いてきた次期国王を、安全な王都に縛り付けるという宣言であった。戦場という最も危険な場所から統星を遠ざけ、王家の血脈を絶対的に保護するという、保守的な父王による最終的な安全策。

 重臣たちはあまりにも重い王命の響きに圧倒され、ただひたすらに平伏するしかなかった。


 ステンドグラスから差し込む光が、静止した空間を切り取っている。統星は、自らの自由と戦場に出る権利を剥奪するその宣告を浴びてもなお、微塵も動揺を見せなかった。

 黄金色の瞳は静かな光を湛えたまま、玉座の父王を真っ直ぐに見返している。父の論理は理解できる。王家の血を保全するという国家の絶対条件を満たすための、極めて合理的な判断であることも承知している。

 統星は、小さく、だが深く顎を引いた。

 反発も怒りも見せず、ただ静かにその王命を受諾する姿勢。それは、彼がすでに王都に縛り付けられたという逆境すらも、自らの覇道を進めるための新たな盤面として計算し始めている証でもあった。

 王城の深部に響き渡った父王の厳命は、統星の歩みにひとつの明確な区切りをつけ、グラン・ヴァルディア王国の戦局を全く新しい局面へと強制的に移行させたのである。

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