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魔族王子に拾われた奴隷少年、魔眼で戦場を支配し世界統一の軍師になる  作者: 久能のの


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星降る王都の特務部隊殲滅戦 11

 王都セプテントリオンが奇跡の光に包まれ、数万の民衆が建国神話の再現という熱狂の坩堝に酔いしれた星祭の夜。その甘美な余韻は、夜が明け、陽が高く昇ってもなお、街の至る所に色濃く漂っていた。

 大通りには色鮮やかなタペストリーが朝の風に揺れ、昨夜の歓喜を語り合う人々の弾むような笑い声が、石畳に心地よく響いている。彼らにとって、昨晩の星祭はただひたすらに美しく、王国の永遠の繁栄を約束する希望の象徴であった。自分たちのすぐ足元まで、氷雪公国コルデアが放った特務暗殺部隊の恐るべき毒牙が迫り、王都全体が理不尽な広域魔法の爆炎に呑み込まれる寸前であったことなど、彼らは露ほども知らない。知る由もないまま、平和という名の温かな陽光を享受していた。


 しかし、その華やかで平和な外界の喧騒から分厚い石壁によって完全に隔絶された、グラン・ヴァルディア王城の最も奥深く。王国の最高意思決定の場である「謁見の間」には、外の陽気とはおよそ対極にある、息苦しいほどの重い静寂が垂れ込めていた。

 天井高くに設けられたステンドグラスからは、色鮮やかな光の筋が石の床に落ちている。だが、その光さえもこの空間を支配する陰鬱な空気を払拭するには至らない。広大な室内は、まるで極北の海のように冷たく、張り詰めた緊張感で満たされていた。

 一段高く設えられた豪奢な玉座。そこに深く腰を沈めているのは、グラン・ヴァルディア王国を長きにわたり統治し、安定した治世を築き上げてきた現国王であった。

 父王の堂々たる巨躯は、ただそこにあるだけで周囲の空間を圧迫するような絶対的な威圧感を放っている。しかし今、玉座の肘掛けに置かれた分厚い彼の手は微かに力み、その顔にはいつもの揺るぎない威厳とともに、隠しきれない苦渋と怒りの色が深く刻み込まれていた。

 彼の眼下に整列しているのは、王国の軍事を担う将軍たちや、国政を司る重臣たちである。普段であれば堂々と胸を張り、国益について激しい議論を交わすはずの彼らだが、今は誰もが押し黙り、床の模様を見つめたまま、自身の呼吸音すら殺すようにして立ち尽くしていた。彼らの額には脂汗が滲み、微かに震える指先を必死に隠そうとする者もいる。

 その重苦しい沈黙を破ったのは、王国の内政を一手に引き受ける宮廷占い師、紫苑の涼やかな声であった。


「以上が、星祭の喧騒の裏側で進行していた、コルデア特務暗殺部隊による同時多発テロ計画、および暗殺未遂事件の全容です」


 夜空や月を模した精緻な刺繍が施された薄紫色のローブを纏う彼女は、玉座の御前に進み出て、手元の書類を静かに閉じた。その透き通るような美貌に感情の揺らぎはない。氷のように研ぎ澄まされた客観的な事実のみを、鈴を転がすような美しい声で広間に響かせた。

 だが、その内容の凶悪さは、彼女の美しい声色とは裏腹に、謁見の間に居並ぶ者たちの内臓を直接鷲掴みにするほどの恐怖を孕んでいた。

 観光客に紛れて王都の心臓部へ潜入した複数の特務魔導師。彼らが祭りのクライマックスである完全な暗闇の数分間を狙い、一斉に広域の爆縮魔法を発動させようとしていたこと。第一の標的が、白銀の砦での敗北を経て我が国に身を寄せたカネル・ルーチェであったこと。

 そして何より、彼らのもう一つの明確な標的が、唯一の王の血を継ぐ存在である第一王子、統星であったこと。

 紫苑の報告によって明かされた事実は、あまりにも衝撃的であった。防衛網が機能し、被害を未然に防いだという結果だけを聞けば、それは見事な勝利である。優秀な観測者である側近の少年が敵の絶対座標を割り出し、双璧をなす将たちが闇に紛れて敵を刈り取った。そして、統星の至近距離に迫った死の魔法は、護衛の天狼の闘気によって完全に粉砕された。結果として、王都の民は一人も傷つくことなく、星祭は成功裏に終わった。


 しかし、玉座に座る父王にとって、そして国の根幹を支える重臣たちにとって、重要なのは被害がゼロであったという結果ではなかった。国家の命脈たる王家の血が、王都の中枢で直接命を狙われ、あわや喪われる寸前であったという、その計り知れないリスクが現実のものとして顕現した事実こそが、彼らの心を恐怖のどん底へと突き落としていたのである。


「……王都の中枢に、コルデアの鼠どもがそこまで深く潜り込んでいたというのか」


 父王の腹の底に響くような低い声が、静まり返った広間に地鳴りのように響いた。玉座で組んだ手の上に顎を乗せ、眼下の重臣たちを睥睨するその瞳には、暗い怒りの炎が揺らめいている。

 重臣の一人が、ゴクリと大きく喉を鳴らす音を立てた。その音すらも不敬に思えるほどの緊張感が張り詰める。

 彼らの脳裏には、もし防衛網がほんの僅かでも機能していなければどうなっていたかという、最悪のシミュレーションが生々しく駆け巡っていた。

 もし、観測者の魔眼の限界が数秒早く訪れていたら。もし、将たちの刃が敵の詠唱に間に合っていなかったら。もし、天狼の大剣が極低温の爆縮魔法を粉砕しきれず、その冷気の暴力を受けてしまっていたら。

 王城のバルコニーは爆炎と絶対零度の嵐に飲み込まれ、統星の肉体は塵となって夜風に消えていたかもしれない。数万の民衆は逃げ惑う間もなく炭と化し、王都セプテントリオンは一夜にして死の街へと変貌していたはずだ。


 統星は、グラン・ヴァルディア王国において唯一の正統な後継者である。魔族という種族は、個々の強大な力を持つ反面、極端に出生率が低く、人口そのものが少ない。ましてや、国を束ねる王家の血脈は、まさに国家の存在意義であり、決して代えの効かない至高の資源である。

 統星が死ねば、王家の血は絶える。指導者を失った国家は求心力を失い、周辺諸国の侵攻を招き、やがて内乱と滅亡の道を辿ることは火を見るより明らかであった。

 その想像を絶する最悪の結末が、ほんの薄紙一枚の差で回避されたに過ぎないという現実は、彼らの背筋にぞくりと冷たい汗を伝わせた。


「我が国の防衛体制に、それほどの隙があったとは……。祭りの夜とはいえ、あまりにも無防備すぎた」


 白髪の軍務大臣が、震える声で絞り出すように言った。彼の顔からは完全に血の気が引いている。


「コルデアの狂気は我々の想像を超えています。自らの命を確実な死に投げ打ってでも、標的を道連れにする……。彼らには、生きて帰るという概念すら存在しない。そのような特務部隊が、いまだ我が国を狙っているとすれば……」


 別の重臣が言葉を濁し、ブルリと身震いをした。氷雪に閉ざされ、敗北はすなわち死を意味する苛烈な国。コルデアの暗殺部隊の恐ろしさは、彼らが自らの生存本能を完全に欠落させている点にある。そのような狂信的な集団に、国の心臓部である王家の血脈が狙われているのだ。

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