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魔族王子に拾われた奴隷少年、魔眼で戦場を支配し世界統一の軍師になる  作者: 久能のの


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極寒の白銀要塞籠城戦 04

 統星が戦局を打破する新たな盤面を模索する間にも、極寒の死地と化した白銀の砦には、敵将カネル率いるコルデア軍の果てしない波状攻撃が昼夜の別なく押し寄せていた。空を覆う鉛色の雲からは絶え間なく雪が降り注ぎ、吹き荒れる雪風は鋭い刃となって将兵たちの体温を容赦なく奪い去っていく。守り手たちに一瞬のまどろみすら許さない狂気的な人海戦術が続く中、視界を塞ぐ吹雪の奥、砦の正門前に山のように立ち塞がっていたのは、防衛戦のスペシャリストとして名を馳せる若き将、巌鉄であった。並の魔族であっても見上げるほどに巨大な、身の丈を遥かに超えるその巨体は、特注の超重装フルプレートアーマーによって隙間なく覆い尽くされている。彼はただ一人、不眠不休のまま、砦の防波堤として鉄壁の守りを体現し続けていた。

 雪風の唸りを切り裂いて放たれる身の丈ほどもある巨大なウォーハンマーの一撃が、群がり来る敵兵たちを次々と豪快に薙ぎ払っていく。その一振りが空気を重く叩き潰し、敵の構える強固な盾を紙切れのように砕き、鎧ごと肉体を粉砕するたびに、地鳴りのような重々しい轟音が戦場に響き渡る。飛び散る血しぶきは雪の上に凄惨な赤い花を咲かせるが、それすらも次々と降り積もる雪によってすぐに覆い隠されていく。


 しかし、城壁へと怒涛のように押し寄せる敵兵たちの姿には、明らかな異常性が孕んでいた。およそ軍隊というものは、損害率が三割を超えた時点で戦意を喪失し、陣形を維持できずに撤退を余儀なくされるのが戦場の常理である。肉体的な痛みや死への恐怖という生物としての根源的な本能が、彼らに足を止めさせるからだ。だが、コルデア軍の兵士たちには、その当たり前の恐怖が完全に欠落していた。彼らは激痛に怯むことも、圧倒的な死の予感に足がすくむこともなく、最後の一人になるまで決して突撃の歩みを止めようとはしなかった。

 遥か後方の高台に立つ少女、カネルの存在そのものが、彼らに強力な恩恵を与え続けていたのである。生物としての恐怖心を完全に無力化され、異常なまでに身体能力を強化された敵兵たちは、もはや理性を失った狂気の塊と化していた。彼らは巌鉄のウォーハンマーに粉砕された味方の死体が雪の上に山のように積み重なっていくのを意に介さない。そればかりか、腕の骨が折れてあらぬ方向へ曲がっていようと、腹部から腸がこぼれ落ちていようと、痛覚を失ったかのようにそのまま走り続ける。彼らはその血にまみれた骸すらも文字通りの足場として力強く踏みつけ、さらなる高みへと身を躍らせる。ただひたすらに城壁を乗り越えようとする終わりのない執念の突撃が、どれほど時間を重ねようとも、決して勢いを弱めることなく繰り返されていた。


 損害という概念を完全に度外視した狂気的な猛攻は、ついに白銀の砦の堅牢な防壁に致命的な結果をもたらすこととなった。

 凍てつく雪と赤黒い血にまみれた敵の工兵部隊が、自らの命を微塵も顧みない自爆同然の特攻を敢行し、城壁の一角へと大量の爆薬とともにその身を投げ出したのである。

 鼓膜を破るような凄まじい轟音が大気を震わせ、重厚な石壁が内側へと大きく崩れ落ちた。もうもうと舞い上がる雪煙と砕けた石の粉塵の向こうから、歓喜にも似た絶叫を上げながら、コルデアの兵士たちが怒涛のごとく砦の内部へと雪崩れ込んできた。


 その凄惨な光景を前にしても、統星の黄金色の瞳に揺らぎはなかった。彼は静かに、だが確かな覇者の闘志を宿して、王家の紋章が刻まれたロングソードを鞘から抜き放った。白銀の刃が、鈍い冬の光を反射して鋭く煌めく。彼は指揮官として安全な後方に留まることを良しとせず、崩壊した防壁の穴、すなわち最も死の危険が濃く漂う最前線へと自ら躍り出た。

 主君が自ら前線に立つならば、その側近たるハズラが後れをとるはずがなかった。彼は統星の傍らへと歩を進め、静かに呼吸を整える。ただ王の歩む道を確かなものとするため、即座に己の役割を果たすべく、意識の深淵へと潜り込んで自らの異能を完全に解放した。

 普段は光のない濁った黒色をしているハズラの瞳が、ドプリと重く濁り、次いで赤黒く充血して強い熱を帯びる。指先から脳髄へと駆け巡る不快なノイズに耐え、彼が瞼を見開いた瞬間、世界から一切の色彩が失われた。

 音のないモノクロームの濃淡だけで構成された静寂の世界へと、視界が変貌する。物理的な遮蔽物である厚い石壁の残骸や、視界を塞ぐ猛烈な吹雪は、精巧なガラス細工のように輪郭線だけを残して半透明に透き通っていった。

 そして、その透き通った灰色の世界の中で、殺到する敵兵たちの胸の奥に燃える「魂の火」が、鮮烈な赤やオレンジ色の光となってハズラの瞳に直接焼き付いた。ハズラは戦場の全体像を瞬時に俯瞰し、無数に密集する光の群れの中から、次々と目前に迫り来る生命の座標のみを冷静に抽出していく。


「方位十一時、距離三歩」

「次、方位二時、距離五歩」


 ハズラの口から、一切の感情を排した淀みない声で的確な座標と指示が紡がれる。観測者である彼の言葉は、統星にとって自らの四肢を動かすのと同じほどに信頼に足るものであった。統星はその指示に従い、流れるような身のこなしで白銀の剣閃を煌めかせた。ハズラの示す視界と統星の剣技が完全に同期したその連携は、雪崩れ込んでくる敵の先陣を正確無比に斬り伏せ、破られた城壁の穴を自らの刃で塞ぐようにして、一時的に敵軍の勢いを押し返すことに成功した。

 だが、倒れても倒れても、コルデアの兵士たちの足が止まることはなかった。彼らは統星の剣に深く肉を裂かれ、致命傷を負って雪の上に倒れ伏してなお、血走った目で立ち上がり、じりじりと這いずってでも迫り来る。


「カネル様に勝利を捧げるんだ!」


 喉からどす黒い血を吐き出すような悲痛な叫び声とともに、彼らは折れた剣の柄を固く握り締め、あるいは武器を失って完全に素手となってさえも、統星の鎧や腕に狂ったように掴みかかってきた。

 彼らの泥と血に塗れた顔に浮かんでいるのは、己の死への恐怖でもなければ、敵対する統星に対する怒りや憎悪でもない。ただひたすらに、あの無防備な少女へ何としてでも勝利を捧げなければならないという、異常なまでの悲壮感と哀しいほどの闘志であった。その底知れぬ狂気を孕んだ執念の波は、統星がどれだけ正確に急所を貫き、彼らを斬り伏せようとも絶えることなく、果てしない重圧となって襲い掛かり続けていた。


 容赦なく吹き荒れる吹雪の中、終わりの見えない激戦が白銀の砦と守備兵たちの命を削り続けていた。

 狂気を孕んだ敵兵の波は、いくら殺しても途切れることなく暗い雪の彼方から無限に湧き出してくるかのように押し寄せる。迎え撃つグラン・ヴァルディアの守備兵たちの体力と気力は、とっくに限界の境界線を越え、もはや気力だけで重い体を動かしているに過ぎなかった。凍てつく空気を吸い込むたびに肺が焼け付くように痛み、血と脂を吸って重くなった武器を握る手は感覚を失い、指先は紫色に変色している。砦全体を包み込んでいるのは、泥沼のような消耗戦がもたらす重苦しく濃密な絶望の空気だった。


 最前線に立ち、崩れた城壁の穴を塞ぐ防波堤として敵の猛攻を一手に引き受けていた巌鉄の姿もまた、痛ましいほどに傷ついていた。かつては威容を誇り、いかなる刃も通さないと思われた特注の超重装フルプレートアーマーは、無数の刃と打撃を浴び続けて原型を留めないほどにひしゃげ、各所の装甲が剥がれ落ちて傷だらけの下地が剥き出しになっている。歩く要塞と称された彼の規格外の巨体と無尽蔵に思えた体力をもってしても、一切の休む間もない波状攻撃は、確実にその命の限界を削り取っていた。彼が振るう巨大なウォーハンマーの軌道には、かつてのような空気を引き裂く圧倒的な速度はなく、息も絶え絶えに敵を押し留めるその背中は、砦の陥落がもはや数刻を待たない時間の問題であることを雄弁に物語っていた。


 果てしない乱戦の只中、最前線で剣を振るい続ける統星の黄金色の瞳にも、拭い去ることのできない暗い焦燥の影が落ちていた。

 彼がいかに優れた知略を持ち、圧倒的なカリスマと武力を誇ろうとも、死を恐れず果てしなく湧き出してくる純粋な狂気の前には、肉体という抗いようのない物理的な限界の壁が立ちはだかっている。王族としての誇りにかけても、この将来の侵攻に不可欠な足がかりを捨てることはできない。父の命令を曲げてまで自らここへ来たのだ。だが、このまま戦線を維持すれば、全滅という結末を待つばかりであることは火を見るより明らかだった。

 吹きすさぶ冷たい雪風が頬を叩く中、統星は己の目指した果てしない覇道がここで潰えるという事実、すなわち「負け」を認める直前の、底知れぬ暗い淵にまで追い詰められていた。疲労で鉛のように重くなる腕を無理やり持ち上げ、次の一太刀を繰り出そうとしたその時である。


 その絶望的な限界点において、細く、しかし決して切れることのない確かな希望の糸が、統星のもとへ手繰り寄せられた。


「統星様。視えました」


 激しい金属音と狂乱の叫び声が交錯する喧騒の隙間を縫うように、静かで淀みのないハズラの声が響いた。

 彼の瞳は極限の負荷によって限界まで赤黒く充血し、目頭から一筋の血を流しながらも、魔眼を通じて敵陣の奥深く、吹雪と兵士の壁の向こう側にある真実の光景を捉えていた。ハズラは疲労困憊の極致にありながらも、自身の脳を焼くような痛みに耐え、己の思考を研ぎ澄ませる。そして、敵の動きの連動性や、狂気に囚われているがゆえに生じた完全な死角といった、戦局を覆すための決定的な情報と座標を統星へと伝達した。

 彼が身を削って見出したその情報は、この泥沼のような敗北の盤面をひっくり返す、たった一つの鍵であった。


 統星は、凍りついた息を細く吐き出し、血と脂に濡れたロングソードの柄を力強く握り直した。細められた黄金色の瞳から暗い焦燥の色は完全に消え失せ、代わりに覇者としての強烈で鋭い光が再び燃え上がる。

 もはや一刻の猶予もない絶望の淵にあって、統星はハズラの索敵情報を絶対の拠り所とし、すべての戦局を覆す起死回生の反撃の一手を打つ決断を下した。

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