Ⅳ その場所は
日が、落ちかけていた。
黄昏時ではないが、それまであと1時間もないだろう。
すでに大きく見える太陽を浴びながら、『招かざる者』は、散る。
その前に。
『招かざる者』は、首を動かして、言った。
「あなたが……あなたが……」
いや、それは言った、というより伝えた、と言う方が正しいか。
表現が難しく、どう言えばいいのかわからない、というのが正直な意見だ。
そう、何というか、『招かざる者』は群像の頭に直接、話しかけた――いや、話すとも違う、伝える、一方的に電波を送るように、言ったのだ。
細かい表現はともかく、『招かざる者』は言う。
「あなたが……おまちしております……」
なぜ、そんなことを言うのか、言われるのか、言われなければならないのか。
群像にはわからない。わかるわけがない。
その思考を知ってか、読みとってか、それともハナから伝える事柄だったのか。
「平群群像様……あなたの兄が探しておりました……」
果たして。
何を言っているのか。
「は? な、何を言ってるんだ?」
群像に、兄弟はいない。
群像は一人っ子なはずだ。
いや、もし一人っ子でなくても、兄弟がいても。
この世界に、異世界にきているなんてあり得ないことだろうが。
また、群像は一人っ子で、そのおかげで、不自由なく、とは言っても裕福とは言いづらいが生きてくることができた。
群像の母はシングルマザー、群像が小さい頃からそうだった。父の顔を一度も見たことがない。父がどうしたのか、今何をしているのか、そのようなことをしゃべらないのは当たり前かもしれないが、群像がいくら訪ねても、何も、かたくなにしゃべらないのだ。つらい事故にでも遭ったのか、とも思ったが、どうやらそうではないらしい。
母が話したくない、かたくなに話さない、閉ざされた、閉ざされるべきだった、閉ざされなければならなかった何かがあったのだろう。
もしかして、それは兄弟が居たということか――いや、その程度のことで、そこまでかたくなになるものだろうか。
高校生になった今まで、父の名前も、父という単語も、それに該当する何かも、母の口から出たことがない。
不倫、浮気、そのようなこと程度で(程度、と言ってはいけないかもしれないが)母が口を開かなくなるだろうか。
結局、わからない。
『招かざる者』が何を言っているのか。
そもそもなぜ、なぜこいつは知っている?
なぜこいつは、|俺の名前を知っている?《・・・・・・・・・・・》
そして、なぜこいつは、俺に語りかける?
わからない、何もかもがわからない。
もう頭がいっぱいだった。
回らなくなるくらいに、いっぱいだった。
朝、部活が始まったと思えば異世界に来て。
昼、異世界に来たと思えば飛竜に襲われて。
人と飛竜との戦い、人と飛竜と『招かざる者』の戦い。
単なる一高校生の頭では許容できないほどの現実が、あるいは、強いて言うなら、そしてそう表現するのがもっとも正しい、空想上の世界での、幻想が。
群像の頭の中に押し寄せてきていた。
そこに。
まるでとどめを刺すかのように。
『招かざる者』は最期に、言った。
「岩地獄に来てください……あなたを待っています……」
言葉――通信は途切れ、『招かざる者』は土くれとなる。
そして風に乗せられて、飛んでいく。
岩地獄に向かって、空に消えていく。
ピカッ、と。
その岩地獄がある方で、何かが光った。
思考の海に溺れ、崩れ落ちた群像の背後に、力が漂い始める。
白美たちが声を上げる間もなく。
群像の体はその力に巻き込まれた。
爆発は群像を吹き飛ばす――否、運ぶ。
岩地獄へと、叩き飛ばし、運んだ。
群像の意識は、いつの間にか、途切れていた。
群像は目を覚ました。
そこは。
「岩地獄、なのか?」
そこには。
「岩なんて…………ないぞ?」
黄昏時。
群像が立つのは――ただのクレーターの中心。
その場所は、岩地獄だった。
神隠しにあった少女と、『招かざる者』、そして平群群像。
「計画通りだ」
その3人が元も岩地獄だったそこに集結し――
「私の計画が発動される時が来た。ここから――」
――全てが、集結へと向けて、始まった。




