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Ⅴ そして


 岩地獄。

 岩で埋め尽くされた山。

 岩自体が山なのではない。

 そしてもともとそこにあった岩ではない。

 天から雨が降るように、突如ある場所限定で、岩が降り注いだ。砂で遊ぶ子供が山を作って、そして頂点からさらに高くしようと砂を振りかけるように。

 本当に軽々しく。

 幸いその地域には村や集落はなく、人は誰も死ななかった。

 だが、未踏の地となり、調査どころか異世界からの来る者がいないかどうかの監視の対象外となっていた。

 岩地獄――中に入った者は二度ともどってこれないなどという逸話があるほどの、場所。

 そこに――そんな曰く付きの場所に、向かうヘリがあった。

 数機が一列に飛び、目的地の上空に来る。

 岩場が多く近くにヘリが止まれるような場所はないので、ローズはパラシュートを背中に背負い、いつでも飛び降りられる状態にしていた。

 陽が傾いていた。

 なにがあっても、これで最後にしてやる――

 神隠しにあった少女――今ではすでに大人かもしれないが――を救い出す。

 故郷の仇を――とる。

 その仇が、今ナチュラ村を、ローズにとって第二の故郷を襲っているとはいざ知らず。

 なめらかに、正確に、なおかつ素早く、ヘリは降下ポイントへと到着した。

 すでに《加速剣》を抜剣していて、いつでも戦闘が可能な状態にローズはなっていた。

 背中側に体を倒し、ヘリから飛び降りる。

 しばらく落下した後、パラシュートを解放。

 難なく、ローズは岩地獄へと着地した。

 着地は――難なく。

 が、他に難がなかったわけではない。

 ローズが着地した、その目の前に。

『招かざる者』が居た。

 最も強いローズを、安全確認のための特攻員として、磐地獄の中腹に先におろし、ローズの連絡を受けてから他の者が降りる、という作戦が功をそうした、といっても過言ではないだろう。

 ローズが降り立った中腹の、広場のような場所は狭く、どうしても他に人が居るとかばいながら戦うことになる。

 かばいながらはいくら何でもキツい――それに『招かざる者』はローズの意表を突く形で、目の前にいた。

 反応が鈍った。

 が、《加速剣》と合体することで反応速度をぎりぎりで降り上げ、筋肉に命令を伝達する速度を上げ、体のスピードを上げて素早く回避行動をすることで、初撃を何とか避けることに成功した。

 成功した、という余韻に浸らず、すでにローズは次の行動に移っている。否、余韻には浸ったが、外から見ればほんの少しの時間だったのだ。

 それは、《加速剣》との合体が早々と進んでいる――ということだ。

 このままいくとローズは――

 ローズは、そんなことはわかっていた。

 わかった上での行動を、ローズは取っているのだ。

 即ち、死ぬ覚悟で――いや、それはいくら何でも美化しすぎだろう、死んでも良いという気持ちがローズの中にあった。

 決して良い感情ではないが――このときだけは悪い感情でもなかった。

 既に《加速剣》側からのリンクが始まる直前にまで到達していたからこそ、ローズは命拾いをすることができたのだから。

 ありあえない反応速度がなければ、それを避けることなどできなかったにがいない。反応速度と、反射神経が。

 目の前の『招かざる者』の胸あたりから発射された爆発の連続をローズは右に行くことで避けた。

 同時にローズは見た。

 イヤでも見させられた。

 その光景はある意味ではわかっていたのかもしれない。

 否、わかっていた。

 わかっていた上で想像したくない現実であった。

 右に裂けた瞬間、『招かざる者』の背後が目に映った。

 黒い陰が岩に隠れるようにぎっしりと――その数約30。

 思わず振り向いて――20を確認。

 黒い陰は――人型。

 つまり――

『招かざる者』――なのか!?

 一瞬の迷い。

 ほんの一瞬。

 この一瞬はローズの生死に直接関係ない。

 だが、その一瞬はローズの仲間たちにとって、最も重要な時間となっていた。

 ヘリに逃げろと、命令を出していたなら。

 ヘリは少なくとも――

 50もの人影から、ヘリに向けて、ローズに向けて。

 爆発がつながったような、あの攻撃が解き放たれた。

 ――全部、『招かざる者』ッ!!


《加速剣》とローズは、完全にシンクロしていた。融合していた。合体していた。

 ローズの手は鋭く長い刃と化し。

 ローズの目は鋭く睨む魂を乗せ。

 ローズの脳は鋭く速く決断を即す。

 右、左、上、下、右、右、下、下、下、上、下、右、左、左、左。

 永遠に続く攻撃を、全てローズは避けきった――否、《加速剣》ローズは避けきった。

 避けきり。

 数台のヘリの墜落も、その中にまだ人が――ローズの仲間が乗っていたことも、そしておそらくその全てが死んだ出あろうことも。

 何一つ気にせず。

 50もの『招かざる者』に反応すら示さず。

 タンッ、と。

 一っ跳び。

 崩壊しかけている岩地獄の頂上へと到達する。

 そこには――一人の青年が居た。

 体格は――『招かざる者』と同じくらいか。

 顔は――『招かざる者』の顔自体拝んだことがないのでわからない。

 彼は呟く。

「ナチュラ村が、ピンチですよ」

 煌々と輝き、青年の背中から《加速剣》ローズに向かって降り注ぐ太陽は眩しく。


「といっても。誰も戻しませんがね」


 突如、太陽が揺らぎる。

 否、足下が揺らぎった。


 いきなり起こった大爆発。


 その正体は――考えずともわかる。


『招かざる者』の力だ――。


 大爆発は岩地獄全体を巻き込み――



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