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Ⅳ その場所は ~アズ・ハン・セル第二訓練場~

「これは《加速剣》といって、持ち主と融合することにより、持ち主の肉体強化や感覚拡張、身体の加速、思考の加速などをすることができる剣です。かなり戦闘で有利な状況を作り出せる剣ですが、身体を無理矢理動かすことで加速しているようなものなので、体に悪いし、体中が痛む」

 なるべく、必ず、《加速剣》の柄にふれないように両手で転がしながら言う。

「しかしよく言うように強力な強みには強力が弱みがある。《加速剣》の場合は、先ほどのように、先ほどのローズさんが陥った様に、所有者をコントロールし、人を刺し、殺さず、自らを強化していく。…………彼、えっと、平群くんが死ななかったのは、我々のメンバーの刺された1人も特に何の問題もない。――ただし、所有者自身、ローズさん自身には問題がある」

《加速剣》をローズの横に下ろし、今度はローズの手首を持ち上げた。

 果たして、その先にある手は、五本の指は、青紫がかった黒をしていた。生きている者が持つ手ではないのは一目瞭然。

 事実、その手は、死んでいた。

「無理な行動、無理な加速、無理な体勢、無理な回復、無理な防御、無理な痛み消し、無理な…………と様々な無理を可能としている《加速剣》は《加速剣》からの思考の乗っ取りをする際、すでに所有者は極限状態まで追い込まれていて、それでもなお体を無理矢理使われ、すべてが壊れてしまいます。――つまり、死んでしまう」

 が、ローズの胸は微かに、ではなく、大きく、上下している。

 呼吸をしている証拠――生命活動をしているということ――つまり生きているのだ。

 その疑問が出る前に、シムは言った。

「死んでしまう、といっても一気に全身――完全な死亡に陥る訳ではありません。死亡まで行く間に生き残れる回数が決められています。この剣は――15回。15回の融合で所有者は死に、剣は確実な姿へと変化――変貌。そこからは悲劇が開始される――と、そう言われています。そしてローズは私たちが見る前で、今回で9回目の融合をしました」

「まだ、余裕があるということですか?」

 群像が質問した。

 その場にいた皆が思ったことだ。

 あの異常さで、そして《加速剣》の今現在の長さで、まだ5回も成長するなどあり得ないと思っていた。

「いいえ、もう余裕はありません」

「――えっ、……でも、…………どうして」

 白美がつい漏らしてしまう。

 まだ9回だけじゃないの? という疑問から来たものではない。それに、白美は――他の皆も――すでに勘づいていた。おそらくシムたちが見ていないとき――シムたちと会う前に、5回融合してしまっているのではないか、と誰もが思っていた。

 では白美の疑問は。

 それではローズに対する心配だった。

 自分の好きな人を刺したローズではあるが、それは《加速剣》が原因(その《加速剣》と融合したローズのせいでもあるが)であるし、また、結局、結果的に、群像は死ななかった――その事実があるだけでローズに対する敵対心を抱く必要はない。

 ローズにはというと、この世界についてなにも知らない白美たちにいろいろなことを教えてくれた、街を案内してくれたというプラスの感情を抱いている。親しくなった、と白美たちは思っているし、だからこそ心配になるのだ。

 なぜローズは回数がもうぎりぎりなのに、《加速剣》を握って戦うのか。怖くないのか。

 怖い。

 ローズが、ローズでなくなってしまうことが。

 白美に、舞子に、こおりに、

 その3人にとって、怖いのだ。

 だがローズは戦った。

 死んでしまうことに恐怖を感じていないのか。

 死にそうなのではないか。

「…………死んで、ほしくない…………」

 舞子の口から本音がこぼれ出る。こおりは無表情だが、唇を引き締めていた。

 その呟きが聞こえたのか、その呟きとちょうどタイミングが良かったのか。

 カサリとベッドの方で音がした。

 近くにいた凌とシムがそちらへと目を向ける。その視界に映ったのは、薄目を開けたローズだった。

「ローズさん!」

 白美が飛び上がってベッドの元へと行った。

 白美が思っていたほど、ローズは重傷ではなかった。否、回復が早かった。

 全身を痛そうにしながらいきなりベッドに座って、そしてあたりの状況を見渡し、シムを見る。

 手が差し出される前に、ローズが何故シムをみたのかわかっていたので、当然のように、《加速剣》を差し出した。

 それをローズは柄の部分で受け取る。

 瞬間、ローズの中に先ほどまでの記憶が流れ込み、戦いのあと自分がどうなったのか、どうしてここにいるのか、ここまで話し合ってきたことは、という様々な情報を知った。

 そしてシムの代わりに、ローズが声を出した。


「『招かざる者』それは世界の驚異であり、最強で最凶であり、――人を越えた存在だ」


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