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Ⅳ その場所は ~丘~


 誰も、一言も喋らなかった。

 ただ風が丘を駆け抜けていた。


 地に落とされた飛竜。頭部が完全に吹き飛ばされ、血を吐き出し続けていた。

 対飛竜組織アズ・ハン・セルのメンバー。少し離れた位置から飛竜と『招かざる者』とローズの戦いを見て、想定外(常識外といった方が的確かもしれない)の出来事に口をぽかんと開け、固まり押し黙っていた。

 群像、白美、舞子、こおり。アズ・ハン・セルと同じ位置にいて、同じように唖然としていた。

『招かざる者』から人々を守る組織のメンバー。Lv.200を越えているローズの強さに、そしてなによりローズが『招かざる者』を倒したことに、感動していた。


 そしてローズ。

 全身を襲った、言葉で形容しきれないほどの痛みで気絶し、地面に倒れていた。《加速剣》の融合は解けていなかった。


 そして『招かざる者』

 剣で斬られたにも関わらず、声を出さず、血も出さず。ただ、動きを止めていた。だんだんとその体が茶色くなっていく。

 1分ほどで、『招かざる者』の全身が茶色くなった。

 戦う為の力ではない、力の予兆でもない。


 それは、能力が終了したという、光景だ。


 さらさらと、茶色の体が風に乗って散っていく。

 ただし光景は風に乗って、に見えていたが、実際は違った。

 今現在、風は西から東へと吹いている。

 が、『招かざる者』だった、今や人の形も消え去った土は、西へと向かっている。

 風と、真逆の方向に進んでいた。

 その光景は、何かに吸い寄せられるように動いている様にも見えた。



 フラリ。


 立ち上がる者がいた。

 その者が、この静寂を破った。

「…………シッ――――」

 近くの、仲間の元へと歩く。

 そして。


「――ネッ!!」


 その首を跳ねた。


「ローズさん!!」


 白美が叫ぶ。

 その声は届かない。

 ローズには届かない。

 ローズでない誰かに届いていた。

 ローズでない誰かにとってその言葉は、位置を示していた。

 次にコロスのは……そいつだ。


 一歩踏み込む。

 そのときにはもう白美の目の前で、剣を振るっていた。


 目には怪しい赤が映っていた。

《加速剣》が彼女に与えた力の代償。


 彼女の体を《加速剣》が乗っ取ること。


 ローズの暴走が、始まっていた。



 白美に降りおろされた剣。

 それは、途中で止まった、防がれていた。

「群、くんっ!?」

 止まった、というより、力と力のぶつかり合いにより、硬直した、というのが正しいかもしれない。


 大きな、一転に絞られて噴出する風を発生させる剣――《風叩き》。

 ローズの体を、大きく仰け反らした。


 しかし風の発生のさせかたは乱暴であった。

 白美とローズの間に、突くように振るったのだから、風は微弱――そして拡散する。いくら微弱といっても肉体強化が施されているであろうローズですら仰け反らすほどの風だ。そこあたりはさすが対飛竜の武器と言ったところだが、この場合ではほめたり感心したりはできない。

 先ほどの白美の声には、その意味も混じっていた。

 白美の体は、紙の様に軽々と吹き飛ばされたのだ。

 当たり前だ。踏ん張りもせず、心構えもせず、いきなり、しかも群像にとばされるとは思いもしなかっただろう。

 仕方がなかった、という言い訳しか群像にはできないが、もっといい方法があったはずだ。仲間をかばうために傷つけるのは、良いことのようで矛盾している。

 ローズが体勢を崩すときには、白美の体は地面に打ちつけられていた。

「ゴメンッ!」

 謝りつつ、群像はローズと白美の顔があった位置の中心に止めていた《風叩き》を、ローズの方に水平に振る。

 振った速度は決して速くなかった。

 だが無防備ではなくとも体勢を崩したローズを吹き飛ばすには十分な風が発生する。

 案の定、ローズは十数メートル飛ばされたが、途中で体勢を立て直したのか、着地の動作にしっかり入っていた。

《風叩き》に、直接の殺傷能力はない。

 ではなぜ群像は《風叩き》を白美をかばうために使ったのか。2つの理由があった。

 第1の理由は、接近戦は厳しく、また、ふつうの剣では戦えないと判断したから。

 第2の理由は、遠距離になれば為るほど、ローズからの攻撃が遅くなる故、有利になるから。

 何故か。

 簡単だ。

 群像には遠距離攻撃手段があって、ローズにはない。

 といっても《加速剣》の力があれば十数メートル程度は一秒足らずで移動されるだろう。

 攻撃のタイミングは、ほんの一瞬。

《風叩き》を頭上にリリース、《飛刃剣》に持ち変える。

 そして、ローズがうまく着地した瞬間――否、着地する前の瞬間に振っていた。

 着地した瞬間は、必ずローズが距離を詰めてくる、そう判断しての攻撃。

 果たして。

 群像の予想は、結果的に当ったったものの。

 群像の攻撃は、結果的には当たらなかった。

 ローズは、着地する前の瞬間に、距離を縮めていたのだ。

 それも《加速剣》と融合していれば、さらに言うと《加速剣》に操られていれば、造作もないことを行ったにすぎない。

《加速剣》と融合しながらローズが『招かざる者』と戦ったときに、煙の粒子を蹴って、方向転換したくらいなのだ。

 ここは丘で、草原で、つまりどこにも草があって、その草は煙の粒子より少なくとも体を蹴り上がらせやすいのは当たり前だ。

 しかしここで群像を責めるのも仕方がない。

 だって、見えなかったのだから。

 知らなかったのだから。

 といってもそんな言い訳で助かることができるほど、この世界は甘くはない。

 ローズの《加速剣》が群像へと突き刺さる。



まさかの展開が続きますが……気にせずこれからもよろしくお願いします。

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