Ⅳ その場所は ~丘~
シンプルな作りのその剣は長く太いことで敵に威圧を与える。
その剣はほかの剣以上に、持ち主を選ぶ。
剣の能力は、剣自信が認めた者が持った時だけ、発揮されるのだ。
当たり前だ。
剣の能力は持ち主と一体化し、意識――思考の加速、痛みの分散、傷の回復、細胞の活性化――つまり肉体の加速などを行うことなのである。
一体化といっても戦いが終われば元に戻るのだが、それでも運命――剣の命は、剣を振る者が殺されれば潰えてしまう。剣もそうならないよう最前を尽くす力を持っているが、完璧なシンクロが出来なければ剣の意志での死の回避は不可能だ。
それに、人に好みがあるように、剣にも好みがある。
この人に付いていきたい、そう思っているのだ、その剣は。
《加速剣》と呼ばれるその剣の所持者は、すでに《加速剣》と意識のシンクロ及び体の融合を果たしていた。
振り落とされた足は地面にひびを発生させ、体を弾丸と同じスピードで、『招かざる者』に接近する。振った左腕は、右わき腹から左上へ。
――シュパッ!
剣は空を斬った。
その空を斬って、音を発生させた。
文字通り、空気を斬ったのだ。
それほどローズの体は加速していた。
もちろん、その加速は肉体を無理して行使している。痛みが出るのは当然であり、しかし力の為の対価に犠牲を払うのは必然のことだ。
仕方がない――それにこの程度の痛みを耐えられないようでは、こいつを殺すことはおろか、傷つけることさえ出来ない!
肉体よりも、意識の方が速度が上回っている。
もっと肉体の速度を上げれるということだ。もちろん肉体にさらなる負担がかかり、激痛が走るだろうが、仕方がない。
もっと、もっと加速を。最高の速度を――
背中に回していた右腕を、左腕より速い速度で振る。
ここまで、弾丸の速度で近づいたのにも関わらず、『招かざる者』の正面にいた。
体を左回りに捻り、そのまま回転しながら、右腕で斬りつける。
手応えはない。空気が斬れただけだった。
「――ッチ!」
舌打ちをしながら、地面に着地。
もう一度斬りかかろうと思ったが、同じことを繰り返しても意味がないと分かっていたので、体を止めることにした。
肉体を使いすぎたせいか、体中が痛み、疲労が全身を覆う。
出来るだけ冷静になろうと、『招かざる者』の様子を見る。
身長は170センチほどで、フードを被っている。顔は見えないが、その姿はローズの記憶からなにをしてでも離れないような、ローズの敵の『招かざる者』に一致している。
能力もまた然り。
魔具を使わずに――どこにあるのか分からないので、使っているかもしれないが、どちらにしろ見えない――力をふるう『招かざる者』故、能力は個々、1つずつで、重複することはない。
ローズの敵である『招かざる者』と目の前の『招かざる者』が、同じ能力を使っている時点で、ローズの敵と判断できる。
そこまで分析して、飛び出しそうになってしまう自分をなんとか諫める。
落ち着け、と自分に言い聞かせた。
『招かざる者』は、ローズとの戦闘が始まってから、しゃがむ、上に跳ぶ以外に動いておらず、同じ所にずっと立っている。そして空の同じ方向をずっと見上げている。
人と『招かざる者』の差を、ローズは今一度実感していた。
ただキレているだけでは、勝てない。
持てる思考と経験と肉体と力でをフル動員させなければいけない。
ローズは『招かざる者』に近づく。
やっとのことで、ローズと『招かざる者』を中心とした円を描くような軌道に立っていた対『招かざる者』は、援護の準備をすべて完了した。
そして、撃ち始める。
その連謝音にかききえそうな声量で、声が彼女らにかけられた。
「おまえたちはなにをしている! そいつはこちらの保護対象であるし、なによりも飛竜がいる中で相談をするな!」




