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Ⅲ 丘で彼らは ~アズ・ハン・セル第二訓練場~


 ヘリは、降り立った。

 一面野原ということは先ほどの丘と変わりなかったが、土地の高度と角度が違う。丘の麓と同じ高度で、平坦だ。

 木製の柵を目で辿っていくと、やはり木製の小屋が3つあった。

 30メートル×50メートルはあろうかというほどの大きな小屋(?)が1つと、小学生が林間学校等で泊まりそうな風貌の小屋が1つ。又、それより少し大きいくらいの、蔵のような小屋が1つ。

 それらから目を離しさらに柵が続く方を辿っていくと途中で切れていた。ここまではヘリから見えていた。

 群像は何となく(気になった、という理由もその内の1つだ。)1回転したくなり、そのまま体を捻って背後を見る。

 今降り立ったばかりのヘリは、プロペラを回転させたままだった、爆音と風で群像は分かっていたが。

 ヘリの人が乗り込む位置にブルがいる。携帯端末を耳に当て、何かを喋っていた。

 ヘリの足下に1つ、その左側に3つ、合計4つのヘリポートがある。その後ろには、つまり群像から見てヘリポートの奥には、コンクリート性の大きな建物が見受けられる。

 果たしてここは何処なのか。

 群像は訊くにも訊けなかった。

 しかし、訊く前にブルが教えてくれた。

 ヘリから聞こえる音が少し変わり、風が強くなったので、ヘリに注目しなおした。

 空中に浮いている。

 あっと言う間に上昇していき、来た方向に――飛竜がいる方向に機体を回転させ、前方を倒した。すぐに見えなくなる。

「……ここはアズ・ハン・セル第二訓練場だ。本部は取り込み中らしい」

 それ以上は、なにも喋らなかった。

 ただヘリが飛び去った方を向いていた。

 群像はうまく思考が纏まらず、何かを言おうとしては口をパクパクさせるが、声が出ることはなかった。出せなかった、ということもある。

 ブルの目が、空を睨んでいたから。

 それは彼の中に怒りが沸いている証拠だろう。

 怒りとは……おそらく――否、確実に、自分に対してのものだと、群像は思った。

 自分がいなければ彼の仲間が傷つくことなど無かったのだ。傷つく、と控えめに思っているのは、人が死ぬ、なんてあり得ないと思っていたからだ。見たことを、信じたくなかった。

 その怒りは尤もだ。だが彼はその怒りを露わにすることができない立場にいる。

 彼らの仕事は飛竜から人を守ること。

 仕事の課程で殉職することは、皆覚悟の上なのだ。

 それでもブルは隊員の中でも最も若手でまだまだ未熟者だ。怒りを抱かずにはいられない。

 かといってぶつけるわけにもいかず、空を見上げることで耐えていた。

 黒い点が3つ、空に浮かび上がる。

 それらはだんだん大きくなって来て、すぐに群像とブルの頭上に到達、ホバリングから着陸動作を開始した。

 ヘリの爆音が、2人の心に響く、心を痛ませる。ヘリはゆっくりとヘリポートに着陸し、程なくしてプロペラが停止、エンジンが落とされた。

 群像は歯を食いしばって、ブルは表情を隠して、振り向いた。

 背後のヘリポートに着いたヘリから一番に降りてきたのは、対飛竜組織アズ・ハン・セルのリーダーだった。

 ブルはリーダーに駆け寄り敬礼後、訊ねる。

「何人?」

 主語も動詞もない、単語だけでの質問だったが、なにを訊きたいのか誰でも分かる。もちろんリーダーも察し、目を細めた。苦虫をかんだような顔で、それでも悔いてはならぬと言い聞かせて堂々と言った。

「4人だ」

 白い棺桶が4つ、リーダーが乗っていたヘリから運び出された。

 ブルは驚き、悔やみ、そして振り返り睨んだ。

 我慢したくても出来ないと、そういう風な顔をしながら、彼は言葉を、本音を吐き出した。

「お前のせいだ……お前があんなところにいたから。俺の先輩方が、4人も逝ってしまった……」

 群像は、反論できない。

 納得してしまっている。

 だって、自分があんなところにいたから、アズ・ハン・セルは戦い、そして死んだ。

 自分のせいだ。

「お前がいなければ――お前のせいでッ! お前が……お前が悪いッ! お前のせいでッ! 4人もッッ!! ――ッ、むぐぐぐ」

 ブルの叫びを押さえた者がいた。

 意外なことに、或いは当然のことながら、リーダーだった。

 そして意外なことだったのは(ブルと群像にとって、という前置きが必要だが)リーダーの言葉だった。


「やめなさい、この子が悪いわけではない」


 力強く、優しい口調で、放たれた言葉。

 それはブルを沈黙させるには十分な言葉だった。


 但し。

 リーダーの目的は、場を静め、納める為では、決してなかった。


 だが、群像に懺悔を促す言葉でもあった。



 リーダーはそれを分かっていて、先の言葉を選んだのだ。




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