Ⅲ 街で彼らは ~ワ・セルフ街~
白美は十字架の形をした白銀の剣を振るった――
筋力が殆どないにもかかわらず、縦横それぞれ7センチ・高さ2メートルの角材ほどの重さのその剣を、新聞紙を丸めたものを振るように軽々しく、一枚の紙で空気を斬るように鋭く、腕を横に振って風を作り出した。
ズバン! と一瞬遅れて大きな音が響き、風が白美の髪を揺らした。
遅れるようにして、前方にある1センチの太さの人の形をした目標の首に切れ目が入り――落ちなかった。
それほど白美は水平に、一瞬で、鋭く、ムラ無く、斬ったのだ。
白美が今持っている白銀の剣は《疾風・一閃》と名付けられた、完成していた開発剣であるが、五年前に完成後、誰も使えなかったという伝説の武器である。
ただ適正しなかった、それだけの理由で、この剣は今まで倉に収められていた。
能力は目標を『水平に、一瞬で、鋭く、ムラ無く、斬る』動作をアシストする、もしくは実行すること。
これほど単純に見える能力の剣だったからこそ、単純な人が居なかったからか、適正してこなかった。
そういうと白美が単純な人と言っているようなものだが――まあ間違ってはいない。
とにかく開発陣としては、嬉しいことこの上なかっただろう。
ついに《疾風・一閃》という剣の所有者が見つかったのだから。
白美は『女剣士』に、ぴったりと適正を見せた。
舞子は右の脇に抱え込んだ銀色の銃の引き金を引いた――
制作者の意図を疑うようなその銀色は、吹き出した火花で眩しすぎるくらいに、光る。
光線銃でも撃っているのか、というほどの明るさだった。
だが無論、そして勿論、銃から吐き出されるのは銃弾と空薬莢である。
普段のばからしさが嘘のような正確な射撃で、目標である人型の板の顔面部分を吹き飛ばした。
と、同時にその右横、左横にあった2つの板の頭部も吹き飛ばし、それを認知する前に次の目標の頭を潰している。
舞子が今持っている銀色の銃はまだ名前が付けられていない、最近開発された銃だ。
便宜上、つまり仮の名は《照準射撃》。
名前からも想像できるが、その銃は照準と射撃をほぼ自動で実行する。
本体がすべて銀色であるのは、一種のデザインでもあるが、それ以上に、《照準射撃》の能力を失わないようにする為にある。それを持ち、戦う者は目立って仕方ないが、《照準射撃》の『目』――つまり自動で照準と射撃を行うときに敵を判断するためのであり、これを失うと能力が無くなる――はどこにあるのかわからない。開発者ですら、図面を見なければわからないと言うレベル。
突撃銃の形をした銀の銃はこれまで誰にも握られたことはない。
ただ、開発者側は驚いていたのだ。
これほどまでに完璧に使いこなせるとは、と。
舞子も又『銃使い』に関して適正を見せた。
そしてこおりは。
手榴弾発射機を――全く使いこなせていなかった。
これではこおりに才能が無かった様に聞こえてしまうが、そうではない。
才能は無かったが、有りもしなかった。
そして訓練施設側から借りれる武器の、在庫が少なかったのだ。
こおりに合う武器は見つからなかった。
それでも、だ。
手榴弾は使いこなせていた。
投げる分には、全く構い無かった。
こおりは訓練施設側とローズの判断により、手榴弾をメインウエポンにするが、サブとして、手榴弾の無駄遣いを防ぐためとして、『魔法使い』――否、この場合は『魔法少女』となることに決めた。
この世界において、魔法は確かに存在しているが使い勝手が些か悪いため、なるものは限定されている。
そもそも自分の内で魔力を生み出せる者は物ともせずになれるのだが、出来ない者にとっては高き門だ。
まず自分に合う武器――魔具がなければならない。
次に大地から、大空から、木々から、どこからでもいいが、そこに存在している魔力を体の内に吸収するコツを得る。
そして、それを魔法という形に変換――つまり物質化して、解き放つ。
もっとも難しいのは、最後の段階だ。
これが出来なければ魔法は使えないし、出来たとしてもそれが正確な形をしていなければ(つまり正確な形を、目標を頭の中に浮かべることが出来なければ)意味のない魔法となり、スタミナを失うだけなのだ。
訓練施設においてある魔具は携帯端末型、ストラップ型、ネックレス型、タオル型、イアリング型、スティック型と様々なタイプがあったが、そのどれもがこおりには合わなかった。
こおりにどんな魔具が合うのか、想像は付かない――なぜならどの魔具のタイプにも、全く使うことが出来なかったから。
だが、こおりは魔法を使えると、ローズは踏んでいた。
こおりは『爆弾使い』に対する適正はあったものの手榴弾発射機は使えず、『魔法少女』の適正は認められたが彼女に合う魔具がなかったという、中途半端な結果に終わった。
どちらにせよ、彼女たちはかれこれ2時間ほどそこにいたわけだが、対飛竜の組織や群像が現れることはなかった。
ローズたちは訓練施設を出、動く歩道を通り、噴水広場に出た。
もう昼時で、ちょうど真上に存在する太陽が肌をジンジンと焼いてくる。元の世界――日本は今は秋のはずだが、どうなっているのだろうかと白美は思わざるを得なかった。
その白美の腰には鞘が吊られている。納められているのは《疾風・一閃》だ。
舞子はナップサックのようなものを持っていた。《照準射撃》が折り畳まれて入っている。
一方のこおりは10個ほどの手榴弾を、隠し持っていた。
それらはすべて、あの訓練施設で購入したものだ。
お金はローズ持ち――というわけではない。
驚きの出世払い、だ。
普通なら付き添い人が代人するところだが、彼女たちにはそれほどの期待がかけられた、ということだろう。
そのプレッシャーと覚悟で押しつぶされそうになり、白美と舞子はそれを必死に押さえていた。腹の虫がなっても、気づかない。
かといってローズもこおりも指摘しなかった。
そもそもこおりはわざわざ指摘するような奴ではないのだが、ローズは何故かというと、悩んでいたのだ。
こおりになにもないことに。
こおりになにかを上げたいということに。
それでもローズは着いてくる3人の具合も、また、自分の具合もしっかり把握していた。
会話が無いまま、ローズが歩く方向に吊られるように3人も移動した。
ローズがいきなり止まる。上の方を見ていた。店の看板だ。
チョパヒゥなどという変な名前であり、ローズの同年代の友達――つまり若い女性が経営している、大丈夫かな? と誰もが思う店だが、かなり役に立つ店でもあり、利用者はなかなか多い。経営も例年黒字の嵐だった。
この店は他と変わった点がいくつか在るが、今はそのうち一つだけ――ローズがこの店を選んだ直接の理由だけ書いておく。
それは、食事をしながら、自分にあった武器を探すことが可能だと言うことだ。
4人は暖簾を潜り、入り口からもっとも近い四人席に腰掛けた。
そして、ローズにこの店について訊こうと思い、こおりが口を開こうとした――その時。
二種類のサイレンが鳴り響いた。
飛竜が現れたので家に入れ、というサイレンともう一つ。ローズの携帯端末から発された音であり、緊急事態を知らせるような、テンポが速く、音が高いもの。
「このタイミングで――ッ!!」
殆ど悲鳴のような声を上げながら、ローズは携帯端末を取り出した。
その画面に表示されていたのは想像通りの内容で。
又か、今日は多いな、と思えるほど冷静になれなかった。
「異世界からの、――訪問者!」
今回は3000文字行きました~




