Ⅲ 街で彼らは ~ワ・セルフ街~
この世界に学校という定義はない。
それ故、『訓練施設』もしくは『訓練校』と堅苦しい言い方がなされる。
そもそも学校は子供に必要ない。
この世界の子供たちは親から学び、近所の人から学び、地域の人から学ぶ。学習面において、問題はない。携帯ゲーム機などの生きるために必要でない物は作られていない。又、子供は遊ぶときは複数集まり、家の外で暴れ回る。人間関係の面においても、問題はない。
必要なのは、勉強するための学校ではなく、戦い方を伝授してもらうための学校だ。
訓練施設、という言い方はあっているのだ。
訓練施設では、前述通り、もしくは名前通り、訓練をするための施設である。
基本、何歳でも使うことは出来るが、中央の王によって定められている訓練施設の利用期間の年齢である12歳~18歳の人には教官が付き、1班5人に教官1人という割合で訓練を受ける。もちろん、剣士や狙撃手などのジャンル別でだ。
様々な武器を置いている訓練施設は、違う世界から来た人の為の、ジャンルもしくは武器の適正判断のために使うことも可能なのだ。
だからローズは群像がここに連れられてくると判断し、白美たちを連れてきた。
南の国にある十数個の街の一つであるここの訓練施設は、最先端技術の開発場と隣接している。この状態は極めて異例で、それ故訓練施設では豊富な知識と経験を得ることが出来る。
だが、建物に置いては、天と地の差ほどある。
さすがは最先端技術だ、というような、上から見ると六角形の形を三角を組み合わせることで実現させ、またそのすべてがガラス張りで出来ている。天井の所々から筒状の白い、おそらく天体望遠鏡だと思われる物体が出ていた。
対して、その左の訓練施設はというと……。
最先端技術の開発場の建物と繋がっている渡り廊下近辺と、技術の試行錯誤によって作られた武器などを保存するエリアは綺麗だが、それ以外は……残念、という言葉をそのまま再現したような建物だ。
古くから使い込まれて黒くなった柱、隙間が数えられないほどあり、又、割けている箇所もある壁、『訓練施設・こちら』と書かれた看板に至っては、茶色い錆がひどすぎて、遠目ではゴミにしか見えなかった。
人の感情は当然、訓練施設に入りたくなくなる。
はっきり言ってゴミ屋敷にしか見えないからだ。
「えーー……」
白美は言う気が無かったはずなのに、本心をいつのまにかさらけ出していた。
「こんなところにはいるの……」
「…………」
全員が、いやがっていた。
だが、ローズはそんな三人などお構いなく、足を止めずに訓練施設に向かって歩く。三人はブーブーと文句を言いつつも、訓練施設の中に入っていった。
入ると、入り口近辺に受け付けがあった。
ローズの姿はそこにあり、どうやら利用前に名前を書かなければならないらしい。
だとすれば、群像の名前もあるのでは? と気になった矢先、ローズが戻ってきてそのことについて知らせた。
「群像君は残念ながら来ていないらしいが、そもそも対飛竜組織がまだ来ていないので、早く着いたのかもしれない」
群像が無事ではない、と白美が考えてしまうかもとローズは気を回しながら言葉を紡いだ。
「とりあえず時間を潰すために、君たちは適正チェックを行ってもらう。これに、必要事項を書いてくれ」
手渡されたのは、青いボードに、文章が等間隔で全部併せて10文。つまり10題の質問があった。
年齢や慎重などを淡々と書いていった三人は、最後の質問で固まった。
『希望するジャンルは?』
固まったのは、躊躇ったのは、あまりにもこれまでの9問とのギャップが、現実世界とのギャップがあったからだ。流れ的に『要望があればお願いします』と書いてありそうな欄に、それが書かれてあった。
つまりは、意味が分からなかったのだ。
三人が固まったのはほんの数秒足らずだった。
三人はどこかで飽きていたのかもしれない。
何もない、ただ日だけが過ぎていく日常に。
異世界に、戦いがある世界で生きたかった。
部活のメンバーで話すのは楽しかった。
否、現実に諦めた人が集まったから、楽しかったのだ。
そして。
だから。
三人の答えはすぐに出た。
『女剣士』と白美。
『銃使い』と舞子。
『爆弾使い』とこおり。
もう三人とも、建物のぼろさなど思考の端に追いやられていた。
ぎりぎり、群像に対する心配は残ってはいたが。
これから起こる出来事に、三人が三人とも、期待していた。ありのままの自分が出せる世界が、ここにあったと、希望に満ち溢れていた。
その想いは、一歩間違えれば危険なものとなり、これから起こる出来事は、悲惨なことだと、誰も思いもしなかった。




