Ⅲ 街で彼らは ~ワ・セルフ街~
神隠しにあった少女について、ローズは何も語らなかった。
白美たちは興味があったが、容易に聞くことができなかった。そんな雰囲気をローズが出していたからだ。
無言のままで、気まずい空気が流れながらも四人は歩いていた。
その空気は、町に着いた瞬間ローズが吹き飛ばした。
「やっとついたな。ここがワ・セルフ街だ」
気分を切り替えるには、良いタイミングだったのだ。
言った直後に前に振り返り、門番に許可を貰いにいく。
きっかけに、白美たちの間で話が始まる。
「大きい……というか凄いね。遠くから見たとき以上に迫力がある」
「そうだよね~。何ともいえない感動がある」
「…………」
などと雑談している間に、ローズは戻ってきた。
「とりあえずワ・セルフ街への入場には支障はない。私はこの街の訓練施設にお世話になったので大丈夫だ」
言いながら、右手を差し出してきた。
「これは……ミサンガ、ですか?」
乗っていたのは、カラフルな刺繍糸で作られたひもだった。それぞれ色合いが違っている。
「間違っている、とは言い難いが、これは自然に切れても願いは叶わないし、自然には切れない丈夫な素材で作られている。これは身分証明のためのツールだ」
と、ローズは右手を襟にかけ、左手を中に入れる。
恥ずかしさという概念がないような仕草であり、唐突であり、そしてあまりにも堂々とやったおかげで、三人の反応が遅れた。
三人の中でもっとも豪快に叫びだし暴れ出しそうな舞子が口を開く前に、ローズは目標の物を取り出した。
それはネックレスだった。
限りなく細く透明な糸が、良く見ると彼女の首を通過している。
繋がっている先には……つまりローズが手に置いているものは、一センチ角の六角形にデザインされ切り取られた、青く透き通った鉱物――サファイアだ。
「私のはこれだが、これは私の母がくれたものだ。この世界にいる人全員が何かしらの形態、媒体で常に持ち歩いている――そして持ち歩かなければならないものだ。……といっても違う世界からきた君たちはまだ身分証明書をもっていず、登録もしていないからな。そういう人にはこれを付けてもらう決まりになっている」
「はぁ……」
と生返事をする間にも、恥ずかしい行為が三人の目の前で逆再生したかのごとく行われた。
「あわわわわー!!」
今度は、反応した。
「ななななな、なにやってんすか、ですかぁ!! ああ!!」
舞子の豹変にローズはあんぐりと口を開け、固まった。
案の定、服の中に手を突っ込んでいるという状態で。
「ここ、路上ですよ! 人がいますよ! 見てますよぉ! こんなところでそんな子とするなんてはしたないにも程がありますよォオオオオオオ!!」
それに対して、
「舞子の叫びがもっとも注目を集めてるよ」
とため息を吐かんばかりの白美と、
「……生駒のせいでローズさんの行動に気づいた人のほうが……多い……」
冷静に分析したこおり。
さらに、呆然、もしくは唖然とした状態から解放されたローズは、意味が、状況が、舞子の叫びが理解できないと言うばかりに、服から手を放しつつ、言った。
「? 自分のことでもないのに、なぜそこまで慌てるのだ?」
意外と、貞操観念が緩いのかもしれない。いや、きっとそうだ。口調が、雰囲気が男勝りな分、正確にもそれが現れている。一部の女性からは絶大な人気を得そうではあるが、ふつうの人にとっては、ただの恥女にしか見えない。
「アッワワアアワッッワッワワワワワワワワワワワ――!!!」
とわめき続ける舞子を治めること数分。
最終的には疲れて、そして酸素が足りなくなって、バタッと倒れた。
ちゃんと会話ができるようになったのは、ローズが門番にミサンガをもらってきた十分後だった。
「とりあえず手でも足でも着けてくれ」
ミサンガのようなものを三人は無言で受け取り、それぞれ右腕に巻き付けた。全員が同じだったのは、なんとなくだろう。
「それではいくぞ」
とローズは門に、ワ・セルフ街に向かって歩き始めた。
すぐに門のところに着いた。
てっきり三人は身分証明書を提示しなければならないと思っていたので、右腕の服を捲ったのだが(そのために腕に巻いたのだろう)そんな必要はなかった。
というかそんな必要があったならば、ローズはここ辺りで噂になっていただろう。
門には、銀色の棒――金属で出来たアーチ状の機械のような物が数メートル間隔で並んでいた。
その間を通過するだけだった。
特に何もないのを疑問に思い、白美はローズに尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。
「その機械が自動で管理してる」
先ほど描写した金属の機械を指さしてローズは言った。
「渡したミサンガも、私のネックレスも、内部に特殊な機械が埋め込まれている。身分証明書として登録してもらうときに埋め込まれる。そこには膨大な個人情報が、文章として保存されている」
三人は自分の右腕にあるミサンガを見た。
そのまましばらく歩くと、広場にでた。
円形の大きな広場だ。
中心に噴水が存在し、何故かそれは北の方に傾いて水を出している。噴水の周りには木製のベンチが十数個、バラバラにあり、地面は石で敷き詰められ、さらに外側には芝生があった。
ベンチは三十歳前後の女性が雑談し、五歳に至っていないような子供が、その芝生の上ではしゃぎ回っている。
ローズはこっちだ、と右手の方に向かって歩きだした。
街灯が均等な間隔で並ぶその道は、そう長くはなかった。
左右には木が存在していたが、いつの間にか地下へと入っていて無くなっている。
地下ですら、すぐに終わった。後で三人は気づくのだが、その地下の地面は動いていた。最新技術が、活用されている。
理由は至って簡単。
その先に、最先端技術の、怪物のLv.が低いおかげで実験場が豊富にあるという理由でワ・セルフ街に作られた研究所が、あるからだ。
そしてその横に――
「右は最先端技術の開発場。そして左が、訓練施設だ」
ローズが訓練施設という、この世界での学校に当たる場所だ。
この章の題名が投稿するごとに変わっていますが、
この章の終わりを悩んでいたからで、
たぶん次からは変わりません




